2 / 13
本編
②
しおりを挟むリリアンヌが目覚めると既にヴァーデンは横にいなかった。窓に差し込む陽の光は明るく、昼近い時間になっている。
またか、とリリアンヌは落胆する。
後宮の話になると毎回朝まで抱き潰され、起きるのが随分と遅くなってしまうのだ。
力の入らない身体を無理に動かし、リリアンヌは今日もクロエとしての準備をしようと侍女を呼んだ。
直ぐに現れた侍女に身支度を任せながらリリアンヌは今日の公務の確認をしていく。
「昼食を召し上がられた後に孤児院へ。他に本日中に認めて頂きたい封書が十通ほどございます」
「そう。わかったわ」
身支度が終わったリリアンヌは簡単な昼食を取り、孤児院へと向かった。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼
孤児院から王宮の自室へ戻ると、そこには幼い我が子がいた。
「あーた!」
上の子、クラヴィスは二歳でヴァーデンの母である王妃からはヴァーデンの子供の時とそっくりなのだそう。髪も瞳もヴァーデンと全く一緒だ。
少しずつ話す言葉も増えてきて、なかなかのやんちゃ盛りである。今も乳母と繋いでいた手を振り払い、リリアンヌへ両手を上げている。
リリアンヌはクラヴィスを抱き上げふふっと笑った。
「クラヴィス、良い子にしていましたか?」
「うん!がんばた!」
「頑張ったのね。偉いわ」
クラヴィスの頭にキスを落とすリリアンヌ。そんな二人を下の子、まだ一歳のヴィゼルはキラキラした瞳で乳母に抱かれながら見つめてくる。
ヴィゼルは顔立ちはヴァーデン似だが、髪や瞳の色はリリアンヌ似だった。
リリアンヌはクラヴィスを下ろし、今度はヴィゼルを抱き上げる。ヴィゼルはキャッキャと両手を振りながら喜んだ。
例え身代わりだとしてもリリアンヌは我が子が可愛くてしょうがなかった。つい甘やかしてしまう。
子たちも優しい母によく懐いていた。
いつまた姉妹は入れ替わるかわからない。
そうなったら子たちとも離ればなれになってしまうだろう。リリアンヌは少しでも触れ合っていようと二人を抱きしめた。
子たちはそれぞれの乳母と共に退室していき、リリアンヌは執務机で封書を認めていた。
公務としての封書以外にガードン公爵への定例報告も今日は認めなければならない。
恙無く暮らしていること、殿下とも上手くいっていることを文にし、ヴァーデンへと預け、公爵の手へと渡る。
また、同じように公爵からの文もヴァーデンから手渡されるのだ。
この先またリリアンヌとクロエが入れ替わるとしたら、ヴァーデンからの許可ないし命令となるのだろう。
リリアンヌからしたら親戚夫婦が一番の気がかりなので、入れ替わりは大歓迎なのだが。
ただ産まれてから一度も会っていない、今リリアンヌとして生きている妹のことも気になっていた。
なんとか全ての封書を書き終わり、リリアンヌは嘆息をもらす。
ここ数日嫌なことを考えてばかりだ。
膨大な公務に子育て、毎日目まぐるしくすぎていくのに最近はガードン公爵、親戚夫婦、妹、そして後宮のことばかり考えてしまう。
せめてヴァーデンが後宮に通ってくれれば一つの憂いは晴れるのだが。
そして忘れたくても忘れられないあの人のこと。
一体この生活はいつまで続くのか。
終わりの見えない暮らしに再び嘆息をもらしそうになった時、扉をノックする音が響いた。
ノックをしたのはヴァーデンの側近だった。ヴァーデンが夕飯を共にと言ったようだ。
その言葉を聞いて胸が焼けるような感覚を覚えたが、気づかない振りをし支度を整え晩餐室へと足を進めた。
95
お気に入りに追加
1,327
あなたにおすすめの小説
恋人でいる意味が分からないので幼馴染に戻ろうとしたら‥‥
矢野りと
恋愛
婚約者も恋人もいない私を憐れんで、なぜか幼馴染の騎士が恋人のふりをしてくれることになった。
でも恋人のふりをして貰ってから、私を取り巻く状況は悪くなった気がする…。
周りからは『釣り合っていない』と言われるし、彼は私を庇うこともしてくれない。
――あれっ?
私って恋人でいる意味あるかしら…。
*設定はゆるいです。
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
恋心を利用されている夫をそろそろ返してもらいます
しゃーりん
恋愛
ソランジュは婚約者のオーリオと結婚した。
オーリオには前から好きな人がいることをソランジュは知っていた。
だがその相手は王太子殿下の婚約者で今では王太子妃。
どんなに思っても結ばれることはない。
その恋心を王太子殿下に利用され、王太子妃にも利用されていることにオーリオは気づいていない。
妻であるソランジュとは最低限の会話だけ。無下にされることはないが好意的でもない。
そんな、いかにも政略結婚をした夫でも必要になったので返してもらうというお話です。
王太子妃候補、のち……
ざっく
恋愛
王太子妃候補として三年間学んできたが、決定されるその日に、王太子本人からそのつもりはないと拒否されてしまう。王太子妃になれなければ、嫁き遅れとなってしまうシーラは言ったーーー。
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。
完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。
愚か者の話をしよう
鈴宮(すずみや)
恋愛
シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。
そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。
けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる