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続・愛への誤ち
said 梨衣
しおりを挟む紗栄子と約束の日、私と慧介は新幹線に乗っていた。
慧介は初めて乗る新幹線に大はしゃぎだ。
「ままぁ!早いね!」
「そうだね、でも静かにしてなきゃ駄目よ?」
「はぁい!」
窓に張り付いて、流れ行く景色をずっと眺めている慧介。その瞳はキラキラと輝いていた。
新幹線を降り、山手線へ乗り継ぎ紗栄子の家がある最寄り駅に到着すると、紗栄子が駅まで迎えに来てくれていた。
「紗栄子!」
改札を出て手を挙げながら少し叫ぶと、スマホを弄っていた紗栄子は顔を上げてパッと顔を輝かせた。
「梨衣!久しぶり!慧介くん、おばちゃんの事覚えてるかな?こんばんはぁ」
抱いている慧介の顔を覗き込むように挨拶をした紗栄子に、慧介はキョトンとしている。
「もう、会ったの生まれてすぐなんだから覚えてるわけないでしょ」
「でも初めましてじゃないからさ~」
相変わらずな紗栄子に私も笑顔がこぼれる。
「慧介、紗栄子おばさんだよ。ママのお友達」
「おともだち?けーちゅけです」
「キャー!可愛い!!」
一人テンションの高い紗栄子と共に駅を後にし、家へと向かう。
紗栄子の家は立派な分譲マンションで、ファミリー向けのせいか緑も多く過ごしやすそうだ。
「引っ越したんだね」
「うん、最近ね。あ、適当に座って。もう夕飯にするから旦那帰ってくる前に食べてよ~」
「いいの?」
「うん。何時に帰ってくるかわからないし、待ってたら慧介くんに悪いしね」
今日は金曜で、仕事の後そのまま来たから結構いい時間だ。慧介も新幹線や東京の電車ではしゃいでいたから疲れただろう。
紗栄子はささっと支度を済ませると、私にビールを。慧介にはオレンジジュースを渡してくれた。
「今日はすき焼きにしましたぁ!」
「おにくぅ~!!」
魚より肉派の慧介はお箸を持って紗栄子と一緒にキャッキャと喜んでいる。
「なんかごめんね。お金払うよ」
「あ~いいって。梨衣はお客さんなんだからさ。それより・・・」
少し視線をさ迷わせた紗栄子は、ふぅと一息ついた後私に視線を向けた。
「良い報告と悪い報告、どっちから聞きたい?」
「え?」
突然の話題に目をパチパチしている私を紗栄子はじっと見る。
「ん~・・・そうだなぁじゃあ悪ーー」
「待った!やっぱりやめた!」
「は?」
「慧介くんに聞かせる話じゃなかったわ。旦那来てからにしよう」
慧介に聞かせたくないような話?
一体なに?
全く見当がつかない私を後目に紗栄子はまた慧介と一緒にすき焼きをつつき出していた。
暫くすると紗栄子の旦那さん、秀司さんが帰ってきて四人で食卓を囲む。秀司さんは私たちより一つ年上で、とっても優しそうな人だった。
慧介もすぐに秀司さんに懐き、一緒にお風呂に入って出てきた時にはもうウトウトとし出していた。
慧介を寝かせ、リビングに戻ると二人は真剣な表情で話し合いをしている。
何だか入りづらい空気を感じていると、それに気づいた紗栄子に手招きされた。
「いいの?大事な話をしてたんじゃない?」
「うん。大事には大事なんだけど、それはあんたの事なんだ」
「私?」
さっき言いかけた事だろうかと思いついた時、ふと気付くと秀司さんは申し訳なさそうに視線を下げていた。
「何かあったの?」
「梨衣、あのね」
「うん」
「本当にごめんなさい!!」
「え?」
紗栄子がソファに座りながらバッと頭を下げた。
「神里 慧くんに・・・慧介くんの事知られちゃいました・・・」
「・・・・・・・・・はぁぁぁ!?」
人生で一番大きな声を出したかもしれないと思うほど、私は驚いていた。
事情を聞いた私はどんな偶然だとため息を吐いた。
「ごめんね、梨衣。怒ってる?」
「梨衣ちゃん、俺からも謝る。ほんとごめん」
「いいえ、二人共悪くないです。私が慧くんに会わせてないから顔も知らないし、まさかそんな所で会うなんて誰も思わないですもん」
そうだ、こんなの神様のいたずらとしか思えない。
「だけど・・・な、」
頭を下げていた秀司さんはおずおずと言い出した。
「俺、思うんだ。同じ男として、知らない間に自分の子が生まれてるって・・・かなりショックだし、彼の話を聞く限りやり直そうとしてたみたいで・・・。こんな事言えた義理じゃないんだけど、一度でいいから話してやってみてくれないか?」
確かにそうだ。私は慧くんに何の許可も得ず勝手に生んだ。彼からしたら寝耳に水だろう。
「あとね、彼、岐阜で梨衣と慧介くんを一度見かけたんだって」
「え・・・?」
「岐阜に仕事で用事があった時、二人が手を繋いでるのを見たって。それで梨衣は結婚したと思って声掛けられなかったって。梨衣が幸せならいいと思ったんだって」
呆然とする私に紗栄子は続けた。
「その話聞いてね、このままじゃ駄目なんじゃないかって思って・・・梨衣に確認取らなかったのは本当にごめんなさい。でも、一度でいいから話してあげて欲しいの」
「お願いします」
二人にまた頭を下げられ、何と言ったらいいのかわからなくて困惑する。
初対面の二人にこうまでさせるなんて、慧くんは一体何を言ったのか。
「少し・・・考えさせて」
私にはそう言う事しかできなかった。
その後寝ている慧介のベッドに私は潜り込み、考えた。
慧くんは慧介がいる事を知ってどう思っただろう。
勝手な女だと思っただろうか?気持ちが悪いと思った?もしかしたらーー喜んでくれた?
すぅすぅと寝息を立てる慧介をそっと引き寄せ、私は眠れない夜を過ごした。
「ままぁ!起きてぇ」
いつの間にか寝てしまったのか、既に朝が来ていて私は慧介の小さな手で揺らされていた。
「ん・・・おはよ、慧介」
「あのね、今日ね、しゅーくんが水族館連れててくれりゅって!」
「水族館?やったね。ちゃんとありがとうした?」
「うん!まま早くごはん食べて!」
嬉しそうな慧介に対し私は気が重かった。
急かすつもりはないだろうけど、できれば私たちが滞在してる間中に紗栄子たちは答えを聞きたいだ はずだ。
「ままぁいりゅか見たい!」
着替えている私の横で水族館に思いを馳せている慧介は、ほっぺを真っ赤にして喜んでいる。
「う~ん、行く場所にもよるけど・・・品川ならいるかな?」
「じゃあちながわに行こう!」
持ってきていた車の形をした子供用リュックに、慧介はミニカーを詰めだした。
嬉しそうな慧介の横顔を見ながら私はふと思った。
地元では優人さんが偶に連れ出してくれるけど、それは月に一度あるかないか。
こうやって週末に何処かへお出かけするのは普通の事なのに、私だけだとなかなか難しい。
父親がいたら・・・慧くんがいたら違ったのかな。
支度が終わり、慧介とリビングに行くと紗栄子たちは笑顔で「おはよう」と言った。
私も笑顔で挨拶し、朝ごはんを食べる。
昨夜の事を触れてこない二人に、私は意を決して言った。
「あのね・・・慧くんに会ってみようと・・・思う」
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