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マンユーの言い分
しおりを挟む名門貴族の出なのに驕った所もなく、整った顔立ちの優しい人。それがレスターの印象だった。
私の家は伯爵とはいえお金は全然なかった。
せっかくのこの美貌も綺麗なドレスで飾り立てる事も出来なくて、私は鬱憤が溜まっていた。
そんな時出会ったのがレスターだった。
微笑みかけただけで彼はコロリと堕ちた。正直呆気なさすぎてつまらなかったけれど、これで私も名門の仲間入りが出来ると思っていた。なのに、彼には既に婚約者がいた。
レスター曰く普通の大人しい伯爵令嬢らしい。
実際にチェルシーさんに会った時もその説明に納得した。ただ私からすると地味令嬢という方が正しいと思ったけれど。
レスターの家は資金不足でチェルシーさんの持参金目当てだと知った時、私はもう妊娠しか手がないと思っていた。
予定通りチェルシーさんを侯爵家が召し上げていたら、私は良くて愛人程度だろう。
愛人なんて不安定な立場は御免だった。
何としても、側室になりたかった。
だけど結果は正室という素晴らしい立場に収まった。
家では父に「お前ができる事はいい家に嫁ぐ事だけだ」と言われ続けていた。これ以上ない結果だろう。
家にお金があるからという理由だけで名門に嫁ぐ事が決まっていたチェルシーさんも嫌いだった。
だって私の方がずっとずっとレスターの横に相応しいもの。
悔しがってるチェルシーさんは私をいつも上機嫌にさせてくれた。
それなのに。
あの“覚醒”というものになってからレスターは変わってしまった。
あんなに愛してると言ってくれていたのに、今では私はいない存在のように扱われる。
可愛がっていた息子にも見向きもしない。
チェルシーに会いに行こうと何度も屋敷を抜け出そうとするし、ふと気が付くといつも同じ方向を見つめている。
その先はーー王城がある方向だった。
竜の血って何?
番って何なのよ!?
一ヶ月もすると、レスターはかなり窶れていた。
口を開けばチェルシーをどうやって連れて帰るかの事ばっかり。
彼は少しずつ壊れていっているのだと思った。
両親が不仲だと子供にも伝わるのか、最近よく愚図る。
乳母も手を焼いてるようだった。
まだまだ手のかかる息子。
偶に視線が会っても汚物でも見るかのような顔をする旦那。
不憫な目を向けてくる義両親。
私の中で何かが弾けた。
「あの女さえ・・・あの女さえいなければ・・・」
夜も更けた頃、私は王城へ向かっていた。
もうあの女を始末するしかない。
それしか私と息子が幸せになる未来はこないだろう。
私はただ、もう一度レスターにあの優しい眼差しを向けて欲しかっただけだ。
誰より幸せになりたかっただけ。
それだけなの。
「おい、女。こんな時間に入る許可はあるのか?」
門に着いた時、兵士が何か言っていた。
だけど私の耳には届かない。
「お、おい。こいつナイフを持ってるぞ!」
「止まれ!それ以上の侵入は許されない!」
誰かに拘束されたのか、身体の自由が利かない。離せ、離せ、私はあの女をーーー!
「ダメだ、こいつ狂ってやがる」
「ちぇるしぃぃぃ!あんたのせいで・・・!殺してやるぅぅう!」
「チェルシーって・・・おい!すぐ殿下に報告するんだ!」
手足を縛られ、猿轡を嵌められた私は何処かに引き摺られていった。
床に擦れている部分が痛い筈なのに、何も感じない。
ただ私は憎くて憎くて堪らないチェルシーを殺す以外頭になかった。
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