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婚約破棄してくれたらいいのに
しおりを挟む政略結婚というのはなかなか厄介なもので、当人たちの気持ちは考慮されていない事が多々ある。いや、全てと言ってもいいかもしれない。
私もその一人。
我が伯爵家は新興貴族で先々代までは子爵家だった。もっと遡ればただの商会だった我が家は、薬産業が大当たりし当時の流行病の沈静化に一役買ったとして陞爵したのだ。
そして婚約者であるレスターの家、侯爵家はこの国では歴史の長い名門貴族と呼ばれている。
当代の侯爵は隣国出身の竜と人とのクウォーターだという女性と結婚し、更にその名を馳せたと聞く。
しかし最近は資金不足が続いているらしく、我が家に白羽の矢が立ったというわけだ。
両家にとっては利益は一致するだろう。
侯爵家は資金不足を補え、伯爵家は名門貴族との繋がりが持てるのだから。
だけど実際夫婦となる私たちには大きな溝があった。
気付いた時には既に婚約者であった私たち。
両親にはこの人が夫となるんだよ、と聞かされ続けたためそういう物なんだと私は思っていた。
しかし、彼・・・レスターは違った。
伴侶は自分で選びたいと、抗っていたらしい。
なら、どうして婚約破棄してくれないの?
どうして、私だけこんな目に合わなければいけないの?
「チェルシー、申し訳ないが君には僕の側室として嫁いでもらう事になる」
「側室・・・ですか?」
今私たちがいるのは侯爵家の一室。
約束もなく突然婚約者に呼び出され、側室になれと言われている。
そして、こんな大事な話をしているこの場にはもう一人いた。
「チェルシーさん、ごめんなさいね?でも仕方がないの。私たち愛し合っているし・・・ここにはもう彼の子供がいるから」
伯爵家のマンユー様。彼女はそっと自分の腹部に手を当てた。
学園ではレスター様といつも一緒で、お二人はお付き合いをされているのではと専らの噂だった。
噂を聞いて落ち込まなかったわけではない。
でもこれは結婚するまでの自由な時間だから・・・結婚したらきっと、私の元に戻ってきてくれると思ってた。
政略結婚というのはそういう物だと思っていた。
「子供・・・」
顔を青ざめる私と、にこにこと幸せそうに微笑むマンユー様。
彼と夫婦になるというのは変わらないのに、なぜこんなにも違うのか。
「そうだ、マンユーの腹にいる子は正当な侯爵家の跡継ぎになる可能性がある。だから僕はマンユーを正室として迎える。だからチェルシーには側室に入って貰いたい」
「そんな・・・!この事を侯爵様はご存知なのですか!?」
「勿論承諾済みだ。あと君の父である伯爵殿もね」
お父様まで・・・
私は愕然とした。
確かにこの国では一夫多妻は認められていて、女性の地位は男性に対してかなり低い。
それでも実の娘にこんな仕打ちをするなんて・・・。
「婚約破棄・・・ではいけないのですか?」
「それはできない。僕たちが結婚するのは決定事項なんだ。父を説得しようと試みたが・・・駄目だった」
「・・・・・・私が側室に入るのも決定事項なのですね・・・」
「そうだ。せめて僕の口から君へは説明したかった」
そんな気遣いいらない。そう言えたらどんなに良かったか。
この国で男性に反論できる女性はそうそう居ないだろう。そういう文化なのだ。
「僕とマンユーは今年卒業後すぐに式を挙げる。幸いにも卒業まではすぐだ。腹が目立つ前に挙げる事ができるだろう。チェルシーはもう一年学園があるから、その卒業後側室として我が家に入って貰うからそのつもりで」
「わかり・・・ました・・・」
それ以外に何も言えなかった私は挨拶をし、フラフラと侯爵家を後にした。
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