彼の執着〜前世から愛していると言われても困ります〜

八つ刻

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本編

逢いたい見たさは恋のとが

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橘くんには丁重にお断りの連絡をした。
バイトが決まったと伝えたらしつこくどこか聞かれたけど、橘くんに教えたら皇くんに伝わってしまうだろう。喫茶店とだけに留めておいた。

そして夏休みが始まった。
夏休みの予定は輝とサッカー観戦、遥ちゃんや未央ちゃんと遊ぶ約束くらいだから、その他はバイトに勤しもうと思っている。

そのバイトが今日からだ。
緊張してないとは言えないけど、あの空間にいれるだけでなぜか幸せな気分になれる。

「おはようございます」

従業員用の裏口から入った私は、既に着替え終わっているマスターに挨拶をした。

「おはよう、百合亜ちゃん。今日からよろしくね」
「はい!こちらこそ、よろしくお願いします」

指定の制服に着替え、店内へと入る。
注文の取り方やレジの使い方などの説明を受け、午前十時に開店した。

開店してすぐ、マスターと同世代くらいの紳士が入店し、カウンターへと腰かける。

「あれ?新しい子かな?」
「えぇ、今日から入って貰った神崎 百合亜さん。まだ大学生なんですよ」
「若いなぁ~百合亜ちゃん、ここはいい店なんだよ。頑張ってね」

どうやら常連さんらしいその人は水無月さんというらしい。

「はい!ありがとうございます。頑張ります!」

その後も数人常連さんたちが入店し、店内は和やかな空気に包まれていた。
常連さんたちもマスターと同じく優しそうな方たちばかりで、私はホッと胸を撫で下ろした。


忙しいランチタイムを何とか終えて、一息ついた時にマスターは休憩をくれた。
メニューを覚えやすいという利点から、ランチはキェロ ベルテの物を食べる。

ふわふわのたまごサンドを食べながらスマホをチェックしていると、新着が三件あった。
輝と未央ちゃん、それに皇くんからだった。

毎日連絡をくれる皇くん。
無視をする事はできないから当たり障りのない事を返信しているけど、皇くんから連絡が来るとどうしても咲月さんの顔がチラついてしまう。

《バイトどう?やっていけそう?》

心配してくれているのだとわかるその文章に、つい溜息を吐いてしまった。

「大丈夫そうです、ありがとうございます・・・っと」

返信をし、マスターの美味しいコーヒーを飲む。そのコーヒーはどこか少しだけ苦く感じた。



休憩が終わり戻ってくると、なんだか店内が騒がしかった。
不思議に思いマスターの顔を伺うが、困ったように笑うだけだった。
どうやら騒いでいるのは入店したばかりの奥さま三人グループたちみたいだ。

「いらっしゃいませ。ご注文がお決まりの頃またお伺いさせていただきます」

お水とおしぼりを起き、にこりと笑うと一人の奥さまが「ねぇねぇ」と声をかけてきた。
注文かと思い紙伝票をポケットから取り出すが、奥さまから飛び出た言葉は全く関係ないものだった。

「さっきまでいた男の子、よく来るの?」
「え?えぇっと・・・すみません。わかりかねます」

さっきまでいた男の子と言われても、休憩に入っていた私は見ていない。何のことかさっぱりだ。

「あらぁ残念」
「でもすっごく綺麗な子だったわね~!」

私をそっちのけでまた盛り上がる奥さまたち。そっとその場を離れてマスターに話しかけた。

「何かあったんですか?」
「あぁ。うん、素敵な男の子が来てくれたんだよ。百合亜ちゃんと同じ位の年かな?周りの女性の視線を独占してたねぇ」

マスターのような男性が素敵と言うのなら、本当に顔の整った人だったのだろう。
見れなくて少し残念だったな、と思いつつ仕事に精を出した。



そして次の日もキェロ ベルテのバイトだった。昨日より来店数は少ない。おそらく平日だからだろう。
昨日の奥さまたちは今日も来ていて、昨日の男の子の話に花を咲かせていた。

扉を開け来店を告げるベルが鳴り、営業スマイルで振り向き挨拶をする。

「いらっしゃーー」

最後まで言えなかったのは、思わぬ人物がそこに立っていたからだ。

「やっほ~百合亜ちゃん」

橘くんは片手を上げ、満面の笑顔で近づいてくる。そしてそのすぐ後ろには

「リリィちゃん、やっと会えた」

避けたくて仕方がなかった皇くんがいた。
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