妹と再婚約?殿下ありがとうございます!

八つ刻

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新たな旅立ち

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今日はマルセルとナタリアがスミット領へと旅立つ日。
国民たちからは第一王子が王位を捨て、真実の愛を選んだと専らの噂だ。

サーシャたち侯爵家の者は見送りに行かなかった。
随分暴れたらしいナタリアが侯爵家の者たちと会うと、また何を言い出すのかわからなかったからだ。

しかしサーシャはどうしても一目見たく、二人から気付かれないようこっそりと見送りに来ていた。

遠目で見るナタリアはとても不機嫌そうだ。それを懸命に慰め、貼り付けた笑顔のようなマルセル。

「ナタリア・・・」

呟いたサーシャの声は誰にも届かない。

この先二人には苦難がたくさん待ち受けているだろう。
貧しい領地では今まで不自由なく暮らしてきた二人には厳し過ぎる環境だ。使用人も必要最低限となり、自分のことは自分でやらなくてはいけなくなる。
もう泣いても誰も助けてくれないのだ。

マルセルの申し出がまさかこんな結果を生むとは思ってもいなかったサーシャだが、人生を甘く見ていたナタリアにとってはいい薬になるのかもしれない。

旅立つ馬車を見送り、せめてマルセルと上手くいくようにとサーシャは願った。


✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼


「だからー!私は行かないから途中で下ろしてってば!!」
「そんなことできるわけないだろう!勅命なんだぞ!」

スミット領に向かう馬車の中では早速喧嘩が始まっていた。

「大体そんな僻地になんで私が行かないといけないのよ!一人で行きなさいよ!!」
「こうなったのも全て君のせいだろう!君がちゃんと勉強していればこんなことにはならなかったんだ!」
「はぁ?人のせいにしないでくれる?勉強ができるおねー様を捨てて私を選んだのはマルセル様でしょ?」
「そうだ!私が馬鹿だったんだ!サーシャを捨てて選んだのがこんな使えない奴だったとは・・・!」
「使えないって何よ!!」

サーシャの願いも虚しく初日から上手くいっていない二人。お互いに罪をなすりつけ合っているが、この先死ぬまで伴侶として生きていかねばならないのだ。



マルセルは頭を抱えた。

幼い頃から王族として生きる義務を押し付けられ、反抗もせず受け入れた。
やるべきことは全てやったし自信もあった。

だから、せめて、生涯を共にする伴侶だけは自分で選びたかったのだ。
たった一つの我儘がなぜこんなことにーーーー。

顔を歪めて窓の外を見ているナタリアをチラリと見る。
いつも笑顔で笑いかけてくるその顔に癒されていた。
偶に小さな我儘を唇を尖らせながら言うのが可愛かった。
あんなに好きだったはずなのに、今ナタリアを見ても何も感じない。いや寧ろその歪めている顔は醜いとさえ思ってしまう。

バルカルが子を成すまでこのナタリアと二人きり・・・いや子を成すことさえできるのか・・・

マルセルはこの先を考えると、絶望しか感じなかった。




流れる景色を眺めながらナタリアは思った。
媚薬を仕込んだのは宰相の策略なのに、なぜ自分がこんな扱いを受けなければならないのかと。

アンドレと既成事実を狙っていたのは確かだが、ナタリアは自分の魅力で実行しようとしていただけだ。何が悪いのかわからない。

スミット領は貧しい土地だから今までのように贅沢には暮らせない、と言われた時も楽して優雅に暮らしたかったナタリアには受け入れ難かった。

頭を抱えたマルセルを横目で見る。
おねー様の婚約者だった時はキラキラと輝いて見えていたのに、今はそこら辺の石ころに見える。
どうしてこんな人を誘惑してしまったのか。

誘いに乗ったマルセルが悪い、とナタリアは結論づけた。
だいたいマルセルが誘いに乗らなければ、自分はアンドレと結婚できたかもしれないのに、と。

ーーおねー様だけが幸せになるなんて許せない!
見てなさいよ、絶対この生活から抜け出してやるんだから!!!




強く決意したナタリアはまだ知らない。
マルセルとナタリアには王族の監視が常についていることを。
そしてその監視からは一生逃れることができないことをーー。
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