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黒幕と決断
しおりを挟む「陛下・・・何を仰って・・・」
「そなたの娘は今九歳だったか。名はカロリーナだったか?バルカルには歳も家柄も申し分ないだろう」
「・・・・・・」
「なぁ宰相よ。私が見抜けぬとでも思っていたのか?」
陛下は何もしなかったわけではない。
当初マルセルがサーシャと勝手に婚約を白紙にし、ナタリアと再婚約をしたいと言い出した時から調べていたのだ。
出来の悪い妹に手を焼き、敢えてマルセルに宛がったのかと思ったがどうもマルセルが言い出したらしいこと。
舞踏会には出席させないと言っていたのに、ナタリアが舞踏会場でアンドレに接触したこと。
そして今回の媚薬事件。
誰かの手引きがないと、あのナタリアが自分で起こせることとは到底思えなかった。
調べによると黒幕は宰相だった。
宰相はナタリアを裏で操り、マルセルの失脚を狙っていた。
目的はバルカルを王太子とし、自分の娘をその妻にーーつまりはゆくゆくの王妃にと悪計していた。
宰相の企みは確かに成功した。
「マルセルのことは自業自得だ。しかし狙ってナタリア嬢を利用し、王族を落とし入れようとしたことは許されるものではない」
宰相は何も答えない。
いや、答えられないのか。
「知らなかったよ。幼い時から一緒にいた君がそんな野心家だったなんて」
そう言った陛下は国王陛下としてではなく、幼馴染みとして残念そうに笑った。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼
サーシャは自室で考え込んでいた。
アンドレと婚姻することになれば、隣国へ嫁ぐものだと決めつけていた。なのにまさか王子であるアンドレが国を捨ててもいいと言ってくれるほど、サーシャを求めてくれていることに思ったより喜んでいる自分がいたのだ。
サーシャはリチャードに惹かれ始めていたのは自分でもわかっている。
しかし、あんな強い想いを聞かされて揺れ動かない心は持ち合わせていなかった。
アンドレが婿に入ってくれるなら、サーシャは女侯爵としてこの家に残れる。両親や優しい使用人たちとずっと共に暮らせるのだ。
それはサーシャにとって願ってもいない申し出だった。
「サーシャ、少しいいかい?」
扉をノックする音と侯爵の声でサーシャは我に返る。
「えぇどうぞ」
扉を開け、入ってきた侯爵はやや窶れているように見えた。媚薬の件で忙しかったのだろう。
「ナタリアの処分が決まったよ」
その言葉にサーシャはゴクリと喉を鳴らした。
媚薬を仕込むよう指示したのは宰相だったが、ナタリアが既成事実を作ろうとしていたのは本当だった。
宰相はその場を用意するために媚薬入りのケーキを準備したが、新入りの侍女が罪の重さに耐えられず告発してしまったのが今回の顛末だった。
また、侍女は本当にナタリアの指示だと思っていたらしい。
宰相は爵位剥奪の上、平民に落ちることとなったそうだ。
そしてこれからナタリアはスミット伯爵夫人として生きていく。
「アンドレ殿下のおかげで我が家はお咎めなしだが・・・本当だったらそうではない」
「はい」
サーシャは真剣な顔で頷く。
本来ならナタリアだけではなく、侯爵や夫人、サーシャ自身も下手したら死刑になる可能性があったのだ。
それを未遂だったからとアンドレが恩情をかけ、陛下もそれに則った処分を下された。
アンドレには感謝しかないだろう。
「私たちはその受けた恩情に報いるためにも、これから先もっと領民のために、この国のために力を注ぎたい。サーシャも手伝ってくれるかい?」
「もちろんです!」
侯爵は大きく頷いた。
「ありがとう。あぁそうだ。アンドレ殿下の求婚、結局どうするんだい?」
「ふぇっ。あ、あ、あの今は関係ないのでは?」
真剣だった表情が悪戯っ子のような笑みに変わる。
「偶には私と恋の話してくれたっていいじゃないか~。で?本命はどっち?アンドレ殿下?リチャード殿?」
「もお~~!お父様!」
明るい笑い声が侯爵家に響き渡った。
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