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勅命
しおりを挟む「全く・・・貴方って人は!なんだってあんな時に求婚してるんですかね」
ブツブツ言いながらお茶の用意をしているレイル。
その主はこれ以上ないほどに上機嫌だ。
「あ~キョトンとしたサーシャ嬢、可愛かったなぁ」
「・・・・・・」
恋愛脳とはこういうことかと、冷めた目で見られていることにアンドレは気づいていない。
「殿下、大事なことをお忘れではないですか」
「大事なこと?」
コテンと首を傾げるアンドレは本当にわからないらしい。
「えぇ。今回のことでおそらくマルセル殿下とナタリア嬢の婚約は破棄されるでしょう。こちらの恩情とはいえ国際問題になりかねなかったのですから」
「そうだな。その可能性は無きにしも非ずだ」
「そうなるとナタリア嬢は侯爵家に戻ってくるわけですよ。あんなのと義兄妹になるんですよ?」
「あぁ。そんなのどうでもいいだろ」
何を言っているんだとでも言いたげなアンドレに、納得いかないレイルは続ける。
「どうでもよくありません!本当はサーシャ嬢が我が国に来てもらいたいところを殿下の我儘で婿入りを許しているんです!!その婿入り先にあんな女がいるなら私は反対ですからね!!」
「お前は俺の親かよ・・・」
「陛下たちからお預かりしている大切な御身ですから間違いではないですね」
はぁと溜息をアンドレは吐いたが、その後すぐにニヤリと笑った。
「そんなに心配杞憂に終わると思うけどな」
✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼
お茶会の次の日、マルセルは父である国王陛下に呼ばれていた。
「マルセル・・・呼び出したのはなぜかわかるな」
「はい、陛下。私の力不足により今回の失態、重く受け止めています」
マルセルの真剣な表情に陛下はうむ、と頷く。
「アンドレ殿のおかげで大事にならずに済んだが・・・一歩間違えれば国際問題になった。それはわかっておるな?」
「はい。勿論です」
「それならいい。そなたが言った以前の言葉、覚えておるな?ナタリア嬢の足りない部分はそなたが補うと。覚悟はできているか?」
青ざめつつマルセルは「はい」と答える。
陛下は一つ息を吐くと言った。
「今回の責はマルセルとナタリア嬢、二人の責とする。第一王子マルセルの王位継承権を剥奪し、王太子には第二王子であるバルカルを指名する」
王太子になるどころか王族でもなくなってしまったマルセルは、動揺を隠せなかった。しかしまだ続く。
「そなたにはスミット伯爵領を与える」
スミット伯爵領とは作物が育ちにくく、貧しい領地だ。先代の伯爵が亡くなってから継ぐ者がおらず王族の管轄になっていた。
「なおナタリア嬢との婚約破棄は認めない。二人で領民のために力を奮え。子も継承権の関係でバルカルの子が産まれてから作ることを認める。よいな」
第二王子、バルカルは齢十歳。バルカルの子が産まれるのはいつになるのか想像もつかない。
それまでマルセルはナタリアと二人きりで領地を治めていくのだ。
マルセルは握った拳を更に強く握り、頭を下げ自室へと戻っていった。
「陛下・・・これで良かったんですか?」
そう問いかけたのは宰相だった。
「いいもなにも・・・これはマルセル自身が選んだ道だ」
そう、陛下はマルセルがナタリアを選んだ時点で王太子はバルカルに決めていた。
マルセルは立派な王子として努力し続けていた。
しかし人を見る目がなかった。
これは王族としては致命的である。
親が生きているうちは何とかなるだろう。しかし王となった時、その膨大な権力を邪な者に利用されるわけにはいかないのだ。
溜息をつき、浮かない表情を見せる陛下は父親としての表情なのだろう。
そんな陛下を気遣わしげに伺う宰相に、陛下は顔を向けて言った。
「なぁ宰相。これで満足か?」
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