上 下
12 / 21

憂いごと

しおりを挟む

その後はアンドレとダンスを踊った。
腐っても王子なのでクイックステップという難しいダンスも難なくリードをする。
楽しそうに笑いながら踊るアンドレを見て、サーシャはこの笑顔が本当の笑顔なのかな、と感じた。
続いて二曲目も誘われたが、さすがに婚約者でもないのに踊れない。渋るアンドレから何とか逃げ切り、リチャードと踊ることになった。
曲はスローフォックスだ。

「さっきはどこに行っていたんだ?」
「えっあ・・・ちょっとアンドレ殿下とテラスでお話を」
「へぇ。ダンスも踊ってたよね」
「え、えぇ。舞踏会ですから」
「・・・確かに。ねぇ孤児院だけどさ、いつ行ける?できれば早めに行きたいんだけど」

ご機嫌ななめなのかリチャードの口調は少しキツく感じた。

「それなんですが・・・ちょっと野暮用ができそうで、日程は少し待ってくれませんか?」
「野暮用?」

サーシャは仕方なく、先程あったアンドレとナタリアのことを全て話した。


✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼


「アンドレ様・・・とっても素敵な方だった・・・」

用意された客室まで戻ってきたナタリアは、頬を染めポーッとしていた。

「世の中にはあんなに美しい人もいるのね・・・」

マルセルもこの国では一二を争う美丈夫だ。
しかしアンドレは別次元に美しかった。地上に舞い降りた女神といわれても信じてしまうほどに。

「アンドレ様を見た後じゃマルセル様なんて紙くずね。あ~お茶会楽しみだわ!!何着ていこうかな」

真実の愛を誓い合った者の言葉とは思えない台詞を言いながら、ナタリアはマルセルに買わせた様々なドレスに手をやる。
やはりアンドレの髪や瞳の色に合わせた方がいいだろうが、形が気に入らないと一人うんうん考え込んでいた時ふと思った。

「そういえば・・・おねー様はなんでアンドレ様と二人でテラスにいたのかしら・・・」

まさかおねー様もアンドレ様を狙ってる?
そう思い至ると焦燥感で落ち着いていられなかった。

顔立ちはナタリアには負けるが、サーシャは上品で勉強もできる。
必ずナタリアを選ぶとは限らないのだ。いや、もう既にサーシャの毒牙にアンドレは掛かっているかもしれない。

ナタリアは勝手に脳内で完結をしていた。

「たっ大変!私がアンドレ様を救わなくっちゃ!!」

そう言い放つとバタバタと音をたて、とある部屋へと向かった。


✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼


舞踏会が終わり、侯爵家の屋敷に向かう馬車の中でサーシャは父である侯爵に今日のことを報告していた。

「そうか・・・ではまた王城に行かねばならぬのか」
「はい・・・面倒くさ・・・億劫ですわ」
「ははは!面倒臭いと言っていいんだよ。今は私とサーシャしかいないんだからね」

侯爵はサーシャの頭をポンポンと優しく叩く。

「しかしナタリアにも困ったものだな。マルセル殿下なら上手く手綱を引いてくれるかと思っていたが」
「えぇ。期待外れでしたわね。今日もたくさんの令嬢と楽しくダンスしておりましたし」
「こら、言葉が過ぎるぞ。・・・サーシャには申し訳ないがそのお茶会でナタリアが粗相をしないよう見張っててくれないか?アンドレ殿下に何かあったら国際問題だからな」

正直行きたくない。ナタリアには常識が通用しないのだ。
しかしナタリアはまだ侯爵家の人間。何かあった後では遅いので渋々頷く。

「お父様の頼みなら断れませんわ・・・」

こうしてアンドレとナタリアのお茶会にサーシャは強制参加することになった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

溺愛されている妹の高慢な態度を注意したら、冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになりました。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナフィリアは、妹であるレフーナに辟易としていた。 両親に溺愛されて育ってきた彼女は、他者を見下すわがままな娘に育っており、その相手にラナフィリアは疲れ果てていたのだ。 ある時、レフーナは晩餐会にてとある令嬢のことを罵倒した。 そんな妹の高慢なる態度に限界を感じたラナフィリアは、レフーナを諫めることにした。 だが、レフーナはそれに激昂した。 彼女にとって、自分に従うだけだった姉からの反抗は許せないことだったのだ。 その結果、ラナフィリアは冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになった。 姉が不幸になるように、レフーナが両親に提言したからである。 しかし、ラナフィリアが嫁ぐことになった辺境伯ガルラントは、噂とは異なる人物だった。 戦士であるため、敵に対して冷血ではあるが、それ以外の人物に対して紳士的で誠実な人物だったのだ。 こうして、レフーナの目論見は外れ、ラナフェリアは辺境で穏やかな生活を送るのだった。

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

令嬢は大公に溺愛され過ぎている。

ユウ
恋愛
婚約者を妹に奪われた伯爵家令嬢のアレーシャ。 我儘で世間知らずの義妹は何もかも姉から奪い婚約者までも奪ってしまった。 侯爵家は見目麗しく華やかな妹を望み捨てられてしまう。 そんな中宮廷では英雄と謳われた大公殿下のお妃選びが囁かれる。

婚約者に冤罪をかけられ島流しされたのでスローライフを楽しみます!

ユウ
恋愛
侯爵令嬢であるアーデルハイドは妹を苛めた罪により婚約者に捨てられ流罪にされた。 全ては仕組まれたことだったが、幼少期からお姫様のように愛された妹のことしか耳を貸さない母に、母に言いなりだった父に弁解することもなかった。 言われるがまま島流しの刑を受けるも、その先は隣国の南の島だった。 食料が豊作で誰の目を気にすることなく自由に過ごせる島はまさにパラダイス。 アーデルハイドは家族の事も国も忘れて悠々自適な生活を送る中、一人の少年に出会う。 その一方でアーデルハイドを追い出し本当のお姫様になったつもりでいたアイシャは、真面な淑女教育を受けてこなかったので、社交界で四面楚歌になってしまう。 幸せのはずが不幸のドン底に落ちたアイシャは姉の不幸を願いながら南国に向かうが…

「僕が望んだのは、あなたではありません」と婚約破棄をされたのに、どうしてそんなに大切にするのでしょう。 【短編集】

長岡更紗
恋愛
異世界恋愛短編詰め合わせです。 気になったものだけでもおつまみください! 『君を買いたいと言われましたが、私は売り物ではありません』 『悪役令嬢は、友の多幸を望むのか』 『わたくしでは、お姉様の身代わりになりませんか?』 『婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。 』 『婚約破棄された悪役令嬢だけど、騎士団長に溺愛されるルートは可能ですか?』 他多数。 他サイトにも重複投稿しています。

婚約者と妹が運命的な恋をしたそうなので、お望み通り2人で過ごせるように別れることにしました

柚木ゆず
恋愛
※4月3日、本編完結いたしました。4月5日(恐らく夕方ごろ)より、番外編の投稿を始めさせていただきます。 「ヴィクトリア。君との婚約を白紙にしたい」 「おねぇちゃん。実はオスカーさんの運命の人だった、妹のメリッサです……っ」  私の婚約者オスカーは真に愛すべき人を見つけたそうなので、妹のメリッサと結婚できるように婚約を解消してあげることにしました。  そうして2人は呆れる私の前でイチャイチャしたあと、同棲を宣言。幸せな毎日になると喜びながら、仲良く去っていきました。  でも――。そんな毎日になるとは、思わない。  2人はとある理由で、いずれ婚約を解消することになる。  私は破局を確信しながら、元婚約者と妹が乗る馬車を眺めたのでした。

(完結)妹と不貞を働いた婚約者に婚約破棄を言い渡したら泣いて止めてくれと懇願された。…え? 何でもする? なら婚約破棄いたしましょう

にがりの少なかった豆腐
恋愛
妹のリースと不貞を働いた婚約者に婚約破棄を言い渡した。 するとその婚約者は止めてくれ。何でもするから、とすがって来た。 そもそもこうなった原因はあなたのですけれど、ですが、なるほど、何でもすると? なら婚約を破棄するのでも良いはずよね? それから妹の婚約者だった辺境伯に気に入られ、その婚約者になる そして今まで冷たい人だと思っていた辺境伯の本当の姿を見ることになった あの、貴方ってそのように人を愛でる方でしたっけ? 不定期投稿になります

溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。 妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。 しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。 父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。 レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。 その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。 だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。

処理中です...