4 / 21
商会の次男
しおりを挟む後日侯爵家三男と伯爵家次男とも顔合わせをしたが、二人とも侯爵家目当てなのが態度からバレバレで特に突出した才能も見受けられなかったため即断りを入れた。
そして一番の目玉、商会の次男との顔合わせの日がやってきた。
「お・・・お初にお目にかかっかかります!ガンダラード商会の次男、ケビンと申しますっ」
ケビンはごく普通の青年で、とても緊張していることが言葉と態度から現れていた。
「まぁそんなに畏まらなくて大丈夫ですわ。サーシャと申します。ケビン様とお呼びしても?」
「いっ・・・いいえ!そんな!呼び捨てで結構です!」
「そうはいきませんわ。では・・・ケビンさんと呼ばせて下さい」
あんな強気な釣書を送ってきた割に、次男本人はかなり恐縮している。一体どういうつもりなのかサーシャは探りを入れることにした。
「商会をお継ぎになるのはケビンさんのお兄様なのですか?」
「はい・・・兄はもう父の仕事を半分近く受け持っています」
「まぁとても優秀な方なのですね!ではケビンさんはわたくしと婚姻した場合我が家に入られたいと・・・?」
平民と貴族が婚姻するのなら、どちらかが身分を合わせなければいけなくなる。平民が貴族に入るのも難しいが、貴族が平民になるのもなかなか難しいだろう。
ガンダラード商会は兄が継ぐのだから、次男のケビンは侯爵家に入りたくて釣書を送ったと思われても仕方がないのだ。
「あの・・・怒らないで聞いて頂けますか?」
ケビンは俯いていた顔に目だけ上げ、おずおずと口を開く。
サーシャはにっこりと微笑み頷いた。
ケビンの話を聞いた結果ーーー釣書送ってみちゃおっか!断られるに決まってるもんね。目に止まってうちの商会使ってくれたらラッキー♪って、えぇぇぇ!話したいって返ってきちゃったよ!どうするコレ!怒られる!?ーーー状態だったらしい。
サーシャはポカンとし、口が気持ち少し開いている。
ケビンは怒鳴られやしないかと更に顔を俯かせ、ビクビクしていた。
「・・・・・・ぷっあははは!」
サーシャは淑女とは思えないほど大きな笑い声を上げていた。その光景に今度はケビンがポカンとする番だった。
「ふふ・・・はぁ・・・久々にこんなに笑いましたわ」
サーシャは目尻に溜まった涙をハンカチでそっと拭き、ケビンに向き直りにこりと笑う。
「ケビンさん、怒ったりしませんわ。わたくしが是非お話してみたいと思ったんですもの。でも・・・ぷぷっ記念釣書だったのは予想外でしたわ・・・」
ツボに嵌ったのかサーシャはいまだに軽く身悶えている。
「侯爵令嬢様の貴重な時間を頂いてしまってすみません・・・」
「いいえ、これも何かの縁。是非ガンダラード商会と取引したいですわね」
思いがけない言葉にケビンはパッと顔を上げる。
「本当ですか!?」
「えぇ。父にも話してみますわ。では本日は如何にガンダラード商会が素晴らしいかをケビンさんに語ってもらいたいですわね」
「・・・!はい!!えっと我が商会で特に力を入れている商品はーー」
それからケビンは熱心に商品を勧めた。
ガンダラード商会は貴族から平民までどの階級の人にも利用してもらえるよう、宝石等の高級品から日常品まで扱っている。そしてケビンはサーシャや侯爵たちが使うような物を勧めるのではなく、侯爵領で向いているのではないかという他国の花の苗や肥料だった。
「まぁでは我が領地の気候ならその保存が効く食べ物を作ることができるのね」
「はい!ただ他国からの輸入品になるので少しお値段が・・・大量購入して頂ければ、輸入元の国との交渉で少しはお安くできるかもしれません。すみません・・・僕はまだそこまでの仕事はさせてもらっていないのでハッキリお伝えできないんです」
「大丈夫ですわ。その食べ物の実物をまず買わせてもらうことはできまして?」
「それは大丈夫だと思います!帰ったら父にすぐ話してみますね」
「えぇお願いするわ。わたくしも父に相談してみます。ふふ。次会う時は婚約者候補ではなく、お仕事のパートナーとしてお願いしますね」
「はい!」
盛り上がっていた二人が気づいた時には予定の時刻を大幅に過ぎていた。辺りはもう薄暗くなり始めている。
ケビンを見送り、サーシャはウキウキしながら侯爵の帰りを待つのだった。
76
お気に入りに追加
3,808
あなたにおすすめの小説
溺愛されている妹の高慢な態度を注意したら、冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになりました。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナフィリアは、妹であるレフーナに辟易としていた。
両親に溺愛されて育ってきた彼女は、他者を見下すわがままな娘に育っており、その相手にラナフィリアは疲れ果てていたのだ。
ある時、レフーナは晩餐会にてとある令嬢のことを罵倒した。
そんな妹の高慢なる態度に限界を感じたラナフィリアは、レフーナを諫めることにした。
だが、レフーナはそれに激昂した。
彼女にとって、自分に従うだけだった姉からの反抗は許せないことだったのだ。
その結果、ラナフィリアは冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになった。
姉が不幸になるように、レフーナが両親に提言したからである。
しかし、ラナフィリアが嫁ぐことになった辺境伯ガルラントは、噂とは異なる人物だった。
戦士であるため、敵に対して冷血ではあるが、それ以外の人物に対して紳士的で誠実な人物だったのだ。
こうして、レフーナの目論見は外れ、ラナフェリアは辺境で穏やかな生活を送るのだった。
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
令嬢は大公に溺愛され過ぎている。
ユウ
恋愛
婚約者を妹に奪われた伯爵家令嬢のアレーシャ。
我儘で世間知らずの義妹は何もかも姉から奪い婚約者までも奪ってしまった。
侯爵家は見目麗しく華やかな妹を望み捨てられてしまう。
そんな中宮廷では英雄と謳われた大公殿下のお妃選びが囁かれる。
婚約者に冤罪をかけられ島流しされたのでスローライフを楽しみます!
ユウ
恋愛
侯爵令嬢であるアーデルハイドは妹を苛めた罪により婚約者に捨てられ流罪にされた。
全ては仕組まれたことだったが、幼少期からお姫様のように愛された妹のことしか耳を貸さない母に、母に言いなりだった父に弁解することもなかった。
言われるがまま島流しの刑を受けるも、その先は隣国の南の島だった。
食料が豊作で誰の目を気にすることなく自由に過ごせる島はまさにパラダイス。
アーデルハイドは家族の事も国も忘れて悠々自適な生活を送る中、一人の少年に出会う。
その一方でアーデルハイドを追い出し本当のお姫様になったつもりでいたアイシャは、真面な淑女教育を受けてこなかったので、社交界で四面楚歌になってしまう。
幸せのはずが不幸のドン底に落ちたアイシャは姉の不幸を願いながら南国に向かうが…
「僕が望んだのは、あなたではありません」と婚約破棄をされたのに、どうしてそんなに大切にするのでしょう。 【短編集】
長岡更紗
恋愛
異世界恋愛短編詰め合わせです。
気になったものだけでもおつまみください!
『君を買いたいと言われましたが、私は売り物ではありません』
『悪役令嬢は、友の多幸を望むのか』
『わたくしでは、お姉様の身代わりになりませんか?』
『婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。 』
『婚約破棄された悪役令嬢だけど、騎士団長に溺愛されるルートは可能ですか?』
他多数。
他サイトにも重複投稿しています。
婚約者と妹が運命的な恋をしたそうなので、お望み通り2人で過ごせるように別れることにしました
柚木ゆず
恋愛
※4月3日、本編完結いたしました。4月5日(恐らく夕方ごろ)より、番外編の投稿を始めさせていただきます。
「ヴィクトリア。君との婚約を白紙にしたい」
「おねぇちゃん。実はオスカーさんの運命の人だった、妹のメリッサです……っ」
私の婚約者オスカーは真に愛すべき人を見つけたそうなので、妹のメリッサと結婚できるように婚約を解消してあげることにしました。
そうして2人は呆れる私の前でイチャイチャしたあと、同棲を宣言。幸せな毎日になると喜びながら、仲良く去っていきました。
でも――。そんな毎日になるとは、思わない。
2人はとある理由で、いずれ婚約を解消することになる。
私は破局を確信しながら、元婚約者と妹が乗る馬車を眺めたのでした。
(完結)妹と不貞を働いた婚約者に婚約破棄を言い渡したら泣いて止めてくれと懇願された。…え? 何でもする? なら婚約破棄いたしましょう
にがりの少なかった豆腐
恋愛
妹のリースと不貞を働いた婚約者に婚約破棄を言い渡した。
するとその婚約者は止めてくれ。何でもするから、とすがって来た。
そもそもこうなった原因はあなたのですけれど、ですが、なるほど、何でもすると?
なら婚約を破棄するのでも良いはずよね?
それから妹の婚約者だった辺境伯に気に入られ、その婚約者になる
そして今まで冷たい人だと思っていた辺境伯の本当の姿を見ることになった
あの、貴方ってそのように人を愛でる方でしたっけ?
不定期投稿になります
溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。
妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。
しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。
父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。
レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。
その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。
だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる