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第2章
第46話 サラの惚気話と突然のプロポーズ
しおりを挟む「それでね、レシド先生がね、」
「あー、うんうん」
ぼくは今、使用人の休憩室でサラの惚気話を聞いている。
先日の、サラの誕生日デートの内容だ。
こんなに赤裸々に話しちゃって大丈夫か?
まぁ、大人とは思えない可愛い話ばかりなので聞く分にはいいけど。
後からこれ、からかいのネタにするよ?
いいの?
サラは幸せいっぱいで、そのことに気づけていないようだ。
「レシド先生って、本当に素敵……」
「そういえば、レシド先生には何をもらったの?プレゼント」
「真珠のイヤリングよ」
サラがもじもじしながら答える。
「へぇ。でも、今はつけてないんだね」
「だって!あんな高価なもの、いつもつけてられないわよ!」
「そういうもん?」
「大事な日につけるの。それまでは、大切にとっておくのよ」
「ふーん。ぼくだったら、普段からつけてくれたら嬉しいけどな」
「で、でも、私はメイドだし……イヤリングなんてつけてたら、周りになんて言われるか……」
「ぼく、アルティア様からもらったピアスつけてるけど、何も言われないよ?」
「それは、アルティア様からもらったものだって、みんな知ってるからよ。文句なんて言えっこないわ」
「そっか」
「いいの。普段からつけてたら、無くしちゃうかもしれないでしょ?」
「そうだね。アルティア様を追いかけ回しているうちにどっかにいっちゃいそうだ」
「すごく有り得そうだわ」
サラは苦い顔だ。
アルティア様 は、いつも突然疾走(失踪)するからね。サラも大変だ。
「なによ、他人事みたいな顔しちゃって」
「だって他人事だもん。ぼくはいま、マリアベルの従者だからね」
「もう、拗ねないの。それに、ちゃんと"様"をつけなさい」
ぼくは肩をすくめる。
別に聞かれてないからいいんだよ。
ぼくにマリアベルを敬う気持ちなんてない。
「ほら、りんご飴あげるから」
サラがぼくの口に飴を放り込んでくる。
「ぐむ。りんご飴さえあげてればぼくの機嫌が良くなるとでも思ってる?」
「思ってる。現に、笑顔になったじゃない」
笑顔は無意識だった。
「今更そんな難しい顔したって遅いわよ」
その時、休憩室にディックが入ってきた。
あ、これはマズイのでは。
ぼくは退出の準備を始める。
「あ、あの、サラ」
ディックがサラに声をかけてきた。
うおお、逃げるタイミングを逃しちゃった。
「昨日、誕生日だったろ。こ、これ、やるよ」
「わぁ、なにかしら? ケーキ?」
「おう」
「美味しそう。ありがとう、ディック」
サラの輝く笑顔を向けられて、ディックは頬を染める。
あのディックが。頬を染めてるんだ。びっくりだよ。
「ちょうどワゴンにフォークがあるし、ここで一緒に食べましょうよ。ジェシーくんもね」
「わー、いいの? やったー!」
「はい、フォーク」
「うん、ありがとう」
「いや、あの、サラに一人で食べてほしいっていうか………」
「「いただきまーす」」
ディックが何か言ってたけど、気にせず食べちゃった。
生クリームたっぷりで優しい甘みが美味しい。
「うま、うま、」
と、ケーキを食べ進める。
そのとき、ガキン、と硬いものが歯に当たった。
「あれ、なんか硬いのが………歯が抜けたのかな?」
「うおーい!それは!!」
ディックが叫ぶ。
手のひらに出した硬いものから生クリームを拭う。
現れたのは指輪だった。
え、うそだろ。
「あの……ディック?」
ディックは顔を真っ赤にしている。
「あら、歯が抜けたの? 下の歯? 上の歯?」
と聞きながら、サラがぼくの手のひらを覗き込む。
「下の歯だったら、屋根の上に投げるのよ………て、え? 指輪?」
「さ、サラ、俺と結婚してくれ!」
ディックがサラの前に膝まづく。
「え、いきなりプロポーズ!?」
ぼくは思わず突っ込む。
サラは固まっていた。
「ずっと好きだった。サラの笑顔が大好きだ。俺のために毎朝、コーヒーを淹れてくれ」
おお……
ディック、格好いいよ!
コーヒーはよくわからないけど!
これから振られるけど!
「ごめんなさい………」
サラが頭を下げる。
うん、知ってた。
「お付き合いしている方がいるの……」
あら? レシド先生と正式にお付き合いすることになったのかな?
「え、でも、こないだまでいないって……」
「昨日、交際の申し込みを受けたの」
「くっ……一歩遅かったか」
一歩もなにも、踏み出す前から勝負はついてたんだけどね。サラは前からレシド先生にぞっこんだったし。でも、これは言わぬが仏というものである。
「まぁまぁ、ディック。落ち込まないで。ぼくがいるじゃない」
ぼくはディックの肩を叩く。
「いまはお前の悪ノリに付き合えるほど、気持ちに余裕はねぇーよ」
「ほら、ケーキ食べな? 美味しいよ?」
ディックの口にフォークでケーキを運ぶ。
「知ってるよ。俺が作ったんだからな。くっ、うめえ、うめぇよぉ……」
あらら、泣いちゃった。
「ディックなら、きっといい人見つかるよ。ディック格好いいもん。いい男だよ」
「う、うぅ、う、ジェシーぃぃい」
「はいはい、よしよし」
「もうディックとジェシーくんが付き合えばいいのでは?」
というサラの不穏なつぶやきは無視の方向で。
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