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第2章
第43話 早朝の密会と、秘密の計画
しおりを挟む早朝、ぼくはアルティアの部屋の前に立っていた。
こんな早朝に彼女が起きてるわけもないのに。
起こすように命令を受けているわけでもないから、勝手に起こすこともできない。
ぼくはとんだ馬鹿者だな。
こんな簡単なことにすら気づかず、ここまで来てしまうのだから。
ドアに背を向け、帰ろうとしたとき、アルティアの部屋のドアが開いた。驚く間もなく、
「ああ、ジェシー!やっぱり来たのね!」
アルティアが抱きついてくる。
慌てて受け止めた。
「起きていたのですか」
「もちろんよ!ジェシーが来るって気がして、早く目が覚めたの!」
「しっ。声が大きいですよ!」
「ごめんなさい。つい、嬉しくって。さ、入って」
そそくさと部屋に入り、ドアを静かに閉める。
「改めて。おはようございます、アルティア様」
「おはよう、ジェシー」
しばし逡巡する。
思えば、何か用事があってここまで来たわけじゃないのだ。
話題など、あるわけがない。自然、口をつくのはミハエルのこと。
「昨日はいかがでした? ミハエルは……」
「ああ、可もなく不可もなくってかんじね。彼、優秀らしいから」
その答えを聞いて、少し胸が痛む。
やっぱりジェシーじゃないとだめ!くらい言ってくれることを、どこかで期待していたらしい。
「やっぱりジェシーじゃないとだめだわ」
「……!」
「でも、だめ。私の従者に戻すことはできないの」
「はい、わかっています」
いつの間にか下を向いてしまったぼくの鼻を、アルティアがつまむ。
「さぁ、顔を上げて。時間がないわ。計画を立てるわよ!」
鼻をつままれた不快感もあり、眉をひそめる。
「計画、ですか?」
「もう、言ってあったじゃない!明後日はサラの誕生日なの。忘れたの?」
「ああ、そうでした」
つい先日、アルティアと話した計画を思い出す。
「レシド先生は呼んであるわね?」
「もちろん。しかし、お休みの日に呼び立ててしまったので、若干怪しまれましたけど」
「それくらいなら想定の範囲内よ。その日はサラにも休みをだしてあるの」
「つまり?」
「名付けて、『休日デート大作戦!』よ!」
「わーい」
パチパチと拍手しておく。
こうしておかないと、盛り上がりに欠けるとアルティアが怒るのだ。
「ママ・シュリから、最高のデート服が届いているわ」
「そういえば、注文したのでしたね」
「ええ。ジェシーは何を贈るつもりなの?」
「少し前に、帽子を注文して用意してあります。アルティア様が白い服を贈られると聞いていたので、白い帽子を」
「最高の選択よ、ジェシー。ディックは何を贈るのかしら?」
「さぁ、それは聞いてませんが」
「ディックもこの作戦に入れようと思ったのだけど……」
「それは……やめてあげて」
「あ、やっぱり?」
「はい。ディックはサラに惚れてます、たぶん」
「あちゃー。私もそうかなって思ってたのよね」
「ぼくらがアルティア様と一緒にご飯を食べられるよう協力してくれたのは、サラが頼んだからですよ、きっと」
「そうよね。じゃなきゃ、簡単に協力しないわよね」
「ああ、ディック!可哀想!」
「まだ振られてないわ」
「時間の問題です。サラはレシド先生以外興味ないですから」
「ああ、ディック!可哀想!」
「とりあえず、ディックは勝手にやってもらう方向で」
「そうね」
「びっくりするでしょうね、サラ」
「それはディックに惚れられていることにかしら?」
「じゃなくて、いや、それもそうですが。アルティア様に『休日デート大作戦!』に送り出されることにですよ」
「そうね。喜んでくれたら嬉しいわ」
「きっと喜んでくれます。むせび泣いてね」
「なによ、それ」
アルティアが声を上げて笑う。
「想像しちゃったわ」
あとね、とアルティア。
「ママ・シュリにも協力を頼んだんだけど、あいにくその日は来れないらしくて。お孫さんの……なんて言ったかしら?」
「ソフィさんですね」
ぼくが王都のママ・シュリのお店でアルティアのお土産を買うとき、担当してくれたのが彼女だった。
「そう、ソフィさん。ソフィさんが来てくれるそうで、着付けとメイクをしてくれるの」
「おお、なんだかすごいことになりそうですね」
「ええ、当日はサラをこれでもかっていうくらい磨き込むわよ!」
「おや? ジェシーさん。おはようございます」
ドキリとして振り向く。
ミハエルだった。
どうやら話に夢中になりすぎて、ノックの音に気づかなかったようだ。
「おはようございます」
ぼくは気まずくなりながらも頭を下げる。
「マリアベル様を起こしに行かなくてよいのですか?」
「これから向かいます。では、アルティア様、失礼します」
「ええ」
そそくさと部屋を出る。
出たところで、サラと出くわした。
「大丈夫? ジェシーくん」
「うん。大丈夫だよ」
「そう……変な気起こしちゃだめよ?」
「変な気ってなに? 駆け落ちとか?」
「そ、そうね。まぁ、なんだか吹っ切れた顔してるし、大丈夫そうね」
言われ、気づく。どうやら、アルティアに会ったことで気持ちに整理がついたみたいだ。
従者でなくなったっても、こうして会うことができる。
そう実感し、ホッとしている自分がいる。
「ほら、飴玉あげるわ」
サラがぼくの口にむりやり押し込んでくる。
「うっ、ぐ」
「何味でしょう?」
「……りんご?」
「そうよ、好きでしょ?」
「うん。ありがと」
「ふふ。じゃ、また休憩室でね」
「うん、じゃあね」
サラはアルティアの部屋に入っていく。
アルティアとの計画は聞かれていなかったようで安心する。
明後日が楽しみだね。
憂鬱だった気分が、少し向上した。
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