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第2章
第30話 ハンター登録
しおりを挟むハンターギルド内は、ひと目でハンターとわかる屈強な男たちで騒がしい賑わいを見せていた。
てっきり、みんな魔物狩りに出てしまっていて、ギルド内にあまり人はいないだろうと思っていたので驚いた。
ぼくとノアは値踏みするような多くの視線を感じながら、左側にある受付へと進み出た。
受付の男性が対応してくれる。
「ハンター登録ですね」
「はい」
と、ぼくが答える。
男性は、ぼくが子供だからとバカにしたりせず、丁寧に登録用紙を渡してくれた。
ぼくのような年齢の子供が登録しにくることも多いのだろうか。
「ここに、名前と出身地を書いてください。あと、お歳も。見たところ、13歳以下ですよね? そちらの方が保護者に?」
「はい、兄が保護者になってくれます」
「わかりました。では、記入をお願いします」
「今日はなにかあるのですか? それとも、いつもこんなに人が多いんですか?」
ぼくは用紙に記入しながら、男性に聞く。
名前はジェイと記載した。
出身地は、王都としておく。"孤児のジェシー"にとって間違いではない。
「いえ、」と、男性は答える。
聞くと、魔物の目撃情報や、討伐依頼の仕事を求めて、朝はギルドにやってくるハンターが多いらしい。
ただ闇雲に魔物を探すより、情報があったほうが見つけやすく、効率がいい。それに討伐依頼の仕事は、魔石の買い取りとは別に討伐報酬がもらえるので、割がいいそうだ。
用紙の記入が終わって、ぼくとノアは魔物の名前と特性の暗記テストを受ける。
魔物図鑑である程度覚えてきたから簡単だった。
それから、実力確認テストのため、ギルドの裏にある闘技場に案内される。
ぼくらを担当してくれた禿頭のおじさんも、ぼくを子供扱いせず、それでいて手加減してくれて、あっさり合格をもらった。
こうして、ハルに聞いていたとおりの簡単さでハンター登録を終えたぼくとノアは、依頼ボードに残っていたオーガ討伐の依頼を受注し、ハンターギルドを後にしたのだった。
なんか呆気なかったな。
▷▷▷
一方、ジェシーとノアが去ったあとのギルド内。
そこに残っていたハンターたちのもっぱらの話題は、今しがた去って行ったばかりの二人組についてだった。
妙に綺麗な男と、雰囲気のある可愛い子供だった。
「いったい何者だ?」
「オーガ討伐書を迷いなく持ってったぜ。ランクAの依頼だろ?新人に達成できるのか?」
「大人の方は傭兵上がりかもな」
「それにしては、お貴族様みたいに綺麗な顔してたぜ?」
「王都じゃ見かけたことがないよな。よそ者か?」
「赤い目だったよな?」
「そうか? 茶色に見えたが」
「黒髪じゃなかったか?」
「フード被ってたから分かりにくかったけどな。アズマノ国から来たのかね?」
「いやー、顔の作りがちがったぜ。アズマノ国のやつらは、なんというか、顔が薄いだろ? のぺーっとしてるというか」
「おまっ、ハルに聞かれたら殺されるぞ!」
「い、言うなよ? 俺が言ってたって」
「それはお前の行い次第だな。一杯奢れよ?」
「くそ、ちゃっかりしやがって」
「ああ、ロイド、来たか。話聞かせろよ」
ロイド、と呼ばれたのは頭を禿げさせた大男。ジェシーとノアの実力試験を担当した試験官である。
いつも自信に溢れたその顔は、けれど現在はどこか悲壮感を漂わせている。
「どうした?」
「どうした、だと!? あいつらは一体何なんだ!」
ドン、とロイドが気のテーブルを叩く。
勘のいい者たちは、直前に飲み物を避難させていた。
「落ち着けよ、何があった」
「言いたくない」
「一撃で沈められたんたですよねっ、ロイドさん」
明るい青年の声がして、ハンターたちの目がそちらに向く。
麻色の髪に、制服であるオレンジ色の服と帽子。この青年は、ハンターギルドの職員だ。
ジェシーたちを受付で担当していた青年だった。
「お前な、ギルド職員の心得を言ってみろ」
ロイドがキッと、青年を睨む。
「"ハンターの個人情報は絶対に口外するな"ですっけ? それとも、"みんな仲良く"の方ですか?」
「前者だよ!お前はそのギルド職員だろうが!守秘義務をちゃんと守りやがれ!」
「えー、べつに、ロイドさんが負けた情報なんて、個人情報に入らないでしょう?」
「入るんだよ!おれの名誉にかかわる最も重要な個人情報にな!……くそ、あんなチビに沈められるなんて」
「おい、まじかよ。大人の方じゃなくて、子供の方にやられたのか?」
「チッ。ああ、そうだよ!!」
「うそだろ、あのロイドが?」
「ロイドって、去年のギルドの剣闘会で優勝してたよな? 一昨年だったか?」
「衰えたんじゃねぇ?」
「やべぇな」
ロイドたちと直接話していた者も、周りで聞き耳を立てていたものも騒然となる。
「うるせぇ!うるせぇ!黙れお前ら!」
ロイドがキレる。
「しかし、どうやったらそんなことになるんだ? 体格差もかなりあるだろうに。沈められるって。一体あの子供はどんな武器を使ってたんだ? ムチか?槍か?」
ロイドと話していた男が、ロイドに顔を寄せて小声で話す。
ロイドと親しいようで、ロイドも無視することはなく、声を落としながら答えた。
「………ナイフだ」
「は?」
「懐から取り出した、ごく短いナイフだ」
「それがどうしてお前を沈める武器になるんだよ」
「あのチビが、ナイフを振り上げてきたんだ。だから俺は、それを正面から受け止めた」
「それで?」
「気づいたら地面とキスしてたよ」
「意味がわからんな」
「俺もわからん。今もわからん。なんで俺は沈んだんだ? たしかに受け止めたのに」
「まぁ、飲めよ」
と、まだ昼前だというのに、男はロイドに酒をすすめる。
「あの金の目が俺を射抜くんだ」
「金の目?」
「やつは金の目をしていた……あの目を見て、俺は………いまでも震えがくる」
「金の目、か。まるでおとぎ話に出てくる魔王だな」
「魔王……魔族と魔物の王か」
「あの子供が魔王なら、お前は勇者だな」
ハハッと男が軽く笑う。
ロイドは考え込んでしまった。
「勇者か……俺はな、そこそこ強いと思ってたんだ、自分をな。けどな、あのチビ、最後に俺になんて言ったと思う?」
「なんて言ったんだ? 修行が足りん!と説教でもされたか?」
「『手加減してくれたみたいで、すみません。ありがとうございました』だとよ」
ロイドは落ち込んだ様子で、酒を煽る。
まぁ、まぁ、となだめる男はわかっていない。
ロイドは自分が負けた悔しさに、話を誇張したわけじゃない。
ただ、ありのままを話しただけだ。
この男がジェシーの実力を目の当たりにするのは、そして、ロイドの言っていたことが真実だったと知るのは、まだ少し先のことになる。
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