11 / 50
第1章
第11話 従者の正体
しおりを挟む
沙汰は下された。
ぼくは殺されることもなく、お嬢様付きの従者を永遠に外されるということもなかった。
執務室で、公爵とお嬢様の間でどんな話があったのかはわからない。
そして、ぼくには使用人寮での、2週間の謹慎が言い渡された。
その間は本宅のお嬢様に近づくことは許されない。
お嬢様に2週間も会えないと思うと、辛いし、悲しい。
でも、自業自得だ。
お嬢様は、ぼくがいなくても大丈夫かな。
大丈夫か。ついこの間まで、ぼくは公爵家にいなかったのだから。それでもお嬢様はちゃんと生活されてきたのだから。たとえ最近、ぼくが介護レベルで世話を焼いていたとしても、うん、大丈夫だよね?
サラ、頼みます。
とはいえ、2週間もの時間が貰えたことは幸いだった。
ぼくは力がほしい。それがどんな力でも。お嬢様を護る力となり得るのなら。
だから、ぼくは父親の家名について調べることにした。
とうさんがもし、偉い貴族や商家の者なら、その財力や地位を利用できるかもしれないと思って。
離れの図書館に入る許可は得た。公爵家には数万冊もの蔵書がある。資料としては十分だと思う。もしそれでわからなければ、王都の図書館に出かけるしかない。謹慎中の身で、外に出るのは許されないとは思うけど、監視があるわけじゃない。出てもバレないだろう。
父の名は、
ジェファーソン・ネル・ダクネスロード
だから、ぼくの正式の名は、
ジェシー・ネル・ダクネスロードとなる。
ぼくはまず、貴族図鑑を遡ることにした。
ジェファーソン・ネル・ダクネスロード、もしくは、ダクネスロードの家名が書かれていないか確認していく。
建国以来、思いの外多くの貴族が起こり、没落している。
この作業に、丸々3日かかった。
けれど、収穫はなし。
ダクネスロードなど、どこにもなかった。
やはり、この国の貴族でなはい。
だとすると他国。
けれど、他国の貴族図鑑など……あった。
なんであるんだ?
まぁ、いいや。
とにかくそれらも調べていく。
そして、謹慎が残り3日となったとき、やっと見つけた。
ダクネスロードの名を。
ただし、貴族図鑑からではない。もうお手上げだと思ったときにふと手にとった、古ぼけ、擦り切れた歴史書からだ。
『失われた十年の歴史、その真実についての考察ー著者:クリス・ディ・ソイユー』
そこに、ダクネスロードは、魔族の王、『魔王』の名として書かれていたのだ。
ぼくはびっくりしすぎて本を取り落としてしまった。
すると、本の表紙の隙間から、茶色い紙のはしきれが出てきた。
『この本を、決して燃やさせるな。ーいつの世か、歴史の真実が正しく暴かれることを願う者よりー』
そのとき、開いた本の字がぐにゃりと曲がった。
ーーー魔族は人族を許さなかった。このままでは世界は破滅してしまう。古の神より賜りし人間を守るべき力が、人間を殺している。矛盾の世を正すため、若き魔族の王、ダクネスロードは立ち上がる。人族から魔の力を取り上げ、正しき秩序を取り戻すためーーーーー
ぐるぐる
ぐるぐる
目が回る。
『ジェシー、呪文はしっかり覚えたかしら?ほら、何て言うの?言ってごらん』
かあさんの声がする。
遠い記憶の中の、かあさんの声が。
『かあさん、覚えたよ。えーっと、我が名は………』
ーーー光の力を受け継ぎし人族の王、"サンロード"がおさめし王朝、すべての悪の根源なりてーーーー
サンロード………
お嬢様の家名。
サンロード公爵家…………
かつての王朝の王族………?
ぐるぐる
ぐるぐる
気持ち悪い。
「わが……」
喉がひりつき、言葉が漏れ出す。
「我が名は、ジェシー・ネル・ダクネスロード。魔王ジェファーソン・ネル・ダクネスロードの子にして、魔王を受け継ぐ者なり」
ドンという地響きのあと、ぼくを中心に青い炎が吹きすさぶ。
ぼくはハッと我に返った。
なんだ?
何が起こってる?
青い炎に熱はない。
ただ、すごい風で、ぼくの髪やシーツやカーテンが暴れる。
やがて炎は一所に集まり、そして唐突にかき消える。
そこには、一人の真っ黒な男が膝をつき、こちらに頭を下げていた。
「我が君」
男の目がぼくを捉える。
血のように赤い目だ。
「やっと呼んでくださいましたね」
「だ、れ……?」
「私はノア・ネル・ソード。貴方様の忠実な下僕です」
げ、ぼ、く………
その瞬間、ぼくの中で何かが弾けた。
膨大な情報が怒涛のごとく頭に流れ込んでくる。
ああ、ああ、そうだ。
ぼくは魔王、ジェファーソン・ネル・ダクネスロードの子、ジェシー・ネル・ダクネスロード。
どうして忘れていたんだ!
「お気づきですか、我が君?」
赤い目の真っ黒な男、ノアがニヤリと笑う。
嫌な笑みだ。
皮肉に満ちた、人を小馬鹿にするような。
よく知っている笑みだ。
ノアがまた口を開きかけたのを、手で制する。
「ちょっと待て、一旦待て、」
「はい、それはもう。あと少し、頭を整理する時間くらい待ってさしあげますよ。ここまで長かったですからねぇ。2ヶ月ほどですか? その待たされた期間に比べたら、ねぇ?」
「あぁぁあああああああああ!!!」
ぼくはガクッと膝をつき、頭をかきむしった。
うそだろ。
だって、
なんだこれ、
ぼくは、ぼくは、
「いくらでもお叫びください。先程、防音魔法をかけておきましたので」
ぼくは、なぜ人間界にいるんだ?
なぜ、貴族の従者なんかやってるんだ?
しかも人間なんかの!
ぼくは魔王の息子だぞ? 唯一の世継ぎだぞ?
まさか、まさか、
あの話は確かに断ったはず。
そして諦めと共に悟る。
ああ、ぼくをこんな目にあわせるやつは一人しかいない。
「あんのクソオヤジめ!」
「こらこら、仮にも王子様がそのような乱暴な物言いはおよしなさい」
ノアの小言は完全に無視をして、ぼくは長い間、怒りと羞恥に叫び続けた。
ぼくは殺されることもなく、お嬢様付きの従者を永遠に外されるということもなかった。
執務室で、公爵とお嬢様の間でどんな話があったのかはわからない。
そして、ぼくには使用人寮での、2週間の謹慎が言い渡された。
その間は本宅のお嬢様に近づくことは許されない。
お嬢様に2週間も会えないと思うと、辛いし、悲しい。
でも、自業自得だ。
お嬢様は、ぼくがいなくても大丈夫かな。
大丈夫か。ついこの間まで、ぼくは公爵家にいなかったのだから。それでもお嬢様はちゃんと生活されてきたのだから。たとえ最近、ぼくが介護レベルで世話を焼いていたとしても、うん、大丈夫だよね?
サラ、頼みます。
とはいえ、2週間もの時間が貰えたことは幸いだった。
ぼくは力がほしい。それがどんな力でも。お嬢様を護る力となり得るのなら。
だから、ぼくは父親の家名について調べることにした。
とうさんがもし、偉い貴族や商家の者なら、その財力や地位を利用できるかもしれないと思って。
離れの図書館に入る許可は得た。公爵家には数万冊もの蔵書がある。資料としては十分だと思う。もしそれでわからなければ、王都の図書館に出かけるしかない。謹慎中の身で、外に出るのは許されないとは思うけど、監視があるわけじゃない。出てもバレないだろう。
父の名は、
ジェファーソン・ネル・ダクネスロード
だから、ぼくの正式の名は、
ジェシー・ネル・ダクネスロードとなる。
ぼくはまず、貴族図鑑を遡ることにした。
ジェファーソン・ネル・ダクネスロード、もしくは、ダクネスロードの家名が書かれていないか確認していく。
建国以来、思いの外多くの貴族が起こり、没落している。
この作業に、丸々3日かかった。
けれど、収穫はなし。
ダクネスロードなど、どこにもなかった。
やはり、この国の貴族でなはい。
だとすると他国。
けれど、他国の貴族図鑑など……あった。
なんであるんだ?
まぁ、いいや。
とにかくそれらも調べていく。
そして、謹慎が残り3日となったとき、やっと見つけた。
ダクネスロードの名を。
ただし、貴族図鑑からではない。もうお手上げだと思ったときにふと手にとった、古ぼけ、擦り切れた歴史書からだ。
『失われた十年の歴史、その真実についての考察ー著者:クリス・ディ・ソイユー』
そこに、ダクネスロードは、魔族の王、『魔王』の名として書かれていたのだ。
ぼくはびっくりしすぎて本を取り落としてしまった。
すると、本の表紙の隙間から、茶色い紙のはしきれが出てきた。
『この本を、決して燃やさせるな。ーいつの世か、歴史の真実が正しく暴かれることを願う者よりー』
そのとき、開いた本の字がぐにゃりと曲がった。
ーーー魔族は人族を許さなかった。このままでは世界は破滅してしまう。古の神より賜りし人間を守るべき力が、人間を殺している。矛盾の世を正すため、若き魔族の王、ダクネスロードは立ち上がる。人族から魔の力を取り上げ、正しき秩序を取り戻すためーーーーー
ぐるぐる
ぐるぐる
目が回る。
『ジェシー、呪文はしっかり覚えたかしら?ほら、何て言うの?言ってごらん』
かあさんの声がする。
遠い記憶の中の、かあさんの声が。
『かあさん、覚えたよ。えーっと、我が名は………』
ーーー光の力を受け継ぎし人族の王、"サンロード"がおさめし王朝、すべての悪の根源なりてーーーー
サンロード………
お嬢様の家名。
サンロード公爵家…………
かつての王朝の王族………?
ぐるぐる
ぐるぐる
気持ち悪い。
「わが……」
喉がひりつき、言葉が漏れ出す。
「我が名は、ジェシー・ネル・ダクネスロード。魔王ジェファーソン・ネル・ダクネスロードの子にして、魔王を受け継ぐ者なり」
ドンという地響きのあと、ぼくを中心に青い炎が吹きすさぶ。
ぼくはハッと我に返った。
なんだ?
何が起こってる?
青い炎に熱はない。
ただ、すごい風で、ぼくの髪やシーツやカーテンが暴れる。
やがて炎は一所に集まり、そして唐突にかき消える。
そこには、一人の真っ黒な男が膝をつき、こちらに頭を下げていた。
「我が君」
男の目がぼくを捉える。
血のように赤い目だ。
「やっと呼んでくださいましたね」
「だ、れ……?」
「私はノア・ネル・ソード。貴方様の忠実な下僕です」
げ、ぼ、く………
その瞬間、ぼくの中で何かが弾けた。
膨大な情報が怒涛のごとく頭に流れ込んでくる。
ああ、ああ、そうだ。
ぼくは魔王、ジェファーソン・ネル・ダクネスロードの子、ジェシー・ネル・ダクネスロード。
どうして忘れていたんだ!
「お気づきですか、我が君?」
赤い目の真っ黒な男、ノアがニヤリと笑う。
嫌な笑みだ。
皮肉に満ちた、人を小馬鹿にするような。
よく知っている笑みだ。
ノアがまた口を開きかけたのを、手で制する。
「ちょっと待て、一旦待て、」
「はい、それはもう。あと少し、頭を整理する時間くらい待ってさしあげますよ。ここまで長かったですからねぇ。2ヶ月ほどですか? その待たされた期間に比べたら、ねぇ?」
「あぁぁあああああああああ!!!」
ぼくはガクッと膝をつき、頭をかきむしった。
うそだろ。
だって、
なんだこれ、
ぼくは、ぼくは、
「いくらでもお叫びください。先程、防音魔法をかけておきましたので」
ぼくは、なぜ人間界にいるんだ?
なぜ、貴族の従者なんかやってるんだ?
しかも人間なんかの!
ぼくは魔王の息子だぞ? 唯一の世継ぎだぞ?
まさか、まさか、
あの話は確かに断ったはず。
そして諦めと共に悟る。
ああ、ぼくをこんな目にあわせるやつは一人しかいない。
「あんのクソオヤジめ!」
「こらこら、仮にも王子様がそのような乱暴な物言いはおよしなさい」
ノアの小言は完全に無視をして、ぼくは長い間、怒りと羞恥に叫び続けた。
0
お気に入りに追加
619
あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中
「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。
石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。
ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。
ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。
母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる