ぼくの大切なお嬢様〜悪役令嬢なんて絶対に呼ばせない〜

灰羽アリス

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第1章

第11話 従者の正体

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沙汰は下された。

ぼくは殺されることもなく、お嬢様付きの従者を永遠に外されるということもなかった。

執務室で、公爵とお嬢様の間でどんな話があったのかはわからない。

そして、ぼくには使用人寮での、2週間の謹慎が言い渡された。
その間は本宅のお嬢様に近づくことは許されない。

お嬢様に2週間も会えないと思うと、辛いし、悲しい。
でも、自業自得だ。

お嬢様は、ぼくがいなくても大丈夫かな。

大丈夫か。ついこの間まで、ぼくは公爵家にいなかったのだから。それでもお嬢様はちゃんと生活されてきたのだから。たとえ最近、ぼくが介護レベルで世話を焼いていたとしても、うん、大丈夫だよね?
サラ、頼みます。

とはいえ、2週間もの時間が貰えたことは幸いだった。


ぼくは力がほしい。それがどんな力でも。お嬢様を護る力となり得るのなら。


だから、ぼくは父親の家名について調べることにした。
とうさんがもし、偉い貴族や商家の者なら、その財力や地位を利用できるかもしれないと思って。


離れの図書館に入る許可は得た。公爵家には数万冊もの蔵書がある。資料としては十分だと思う。もしそれでわからなければ、王都の図書館に出かけるしかない。謹慎中の身で、外に出るのは許されないとは思うけど、監視があるわけじゃない。出てもバレないだろう。

父の名は、
ジェファーソン・ネル・ダクネスロード

だから、ぼくの正式の名は、
ジェシー・ネル・ダクネスロードとなる。

ぼくはまず、貴族図鑑を遡ることにした。
ジェファーソン・ネル・ダクネスロード、もしくは、ダクネスロードの家名が書かれていないか確認していく。
建国以来、思いの外多くの貴族が起こり、没落している。
この作業に、丸々3日かかった。
けれど、収穫はなし。
ダクネスロードなど、どこにもなかった。
やはり、この国の貴族でなはい。
だとすると他国。
けれど、他国の貴族図鑑など……あった。
なんであるんだ?
まぁ、いいや。
とにかくそれらも調べていく。

そして、謹慎が残り3日となったとき、やっと見つけた。
ダクネスロードの名を。
ただし、貴族図鑑からではない。もうお手上げだと思ったときにふと手にとった、古ぼけ、擦り切れた歴史書からだ。

『失われた十年の歴史、その真実についての考察ー著者:クリス・ディ・ソイユー』


そこに、ダクネスロードは、魔族の王、『魔王』の名として書かれていたのだ。


ぼくはびっくりしすぎて本を取り落としてしまった。
すると、本の表紙の隙間から、茶色い紙のはしきれが出てきた。

『この本を、決して燃やさせるな。ーいつの世か、歴史の真実が正しく暴かれることを願う者よりー』

そのとき、開いた本の字がぐにゃりと曲がった。

ーーー魔族は人族を許さなかった。このままでは世界は破滅してしまう。古の神より賜りし人間を守るべき力が、人間を殺している。矛盾の世を正すため、若き魔族の王、ダクネスロードは立ち上がる。人族から魔の力を取り上げ、正しき秩序を取り戻すためーーーーー

ぐるぐる
ぐるぐる

目が回る。

『ジェシー、呪文はしっかり覚えたかしら?ほら、何て言うの?言ってごらん』

かあさんの声がする。
遠い記憶の中の、かあさんの声が。

『かあさん、覚えたよ。えーっと、我が名は………』


ーーー光の力を受け継ぎし人族の王、"サンロード"がおさめし王朝、すべての悪の根源なりてーーーー

サンロード………

お嬢様の家名。

サンロード公爵家…………

かつての王朝の王族………?


ぐるぐる
ぐるぐる

気持ち悪い。


「わが……」 

喉がひりつき、言葉が漏れ出す。



「我が名は、ジェシー・ネル・ダクネスロード。魔王ジェファーソン・ネル・ダクネスロードの子にして、魔王を受け継ぐ者なり」



ドンという地響きのあと、ぼくを中心に青い炎が吹きすさぶ。

ぼくはハッと我に返った。

なんだ?
何が起こってる?

青い炎に熱はない。
ただ、すごい風で、ぼくの髪やシーツやカーテンが暴れる。
 

やがて炎は一所に集まり、そして唐突にかき消える。

そこには、一人の真っ黒な男が膝をつき、こちらに頭を下げていた。


「我が君」

男の目がぼくを捉える。
血のように赤い目だ。

「やっと呼んでくださいましたね」

「だ、れ……?」

「私はノア・ネル・ソード。貴方様の忠実な下僕です」

げ、ぼ、く………


その瞬間、ぼくの中で何かが弾けた。

膨大な情報が怒涛のごとく頭に流れ込んでくる。

ああ、ああ、そうだ。

ぼくは魔王、ジェファーソン・ネル・ダクネスロードの子、ジェシー・ネル・ダクネスロード。

どうして忘れていたんだ!

「お気づきですか、我が君?」

赤い目の真っ黒な男、ノアがニヤリと笑う。

嫌な笑みだ。
皮肉に満ちた、人を小馬鹿にするような。

よく知っている笑みだ。

ノアがまた口を開きかけたのを、手で制する。

「ちょっと待て、一旦待て、」

「はい、それはもう。あと少し、頭を整理する時間くらい待ってさしあげますよ。ここまで長かったですからねぇ。2ヶ月ほどですか? その待たされた期間に比べたら、ねぇ?」

「あぁぁあああああああああ!!!」

ぼくはガクッと膝をつき、頭をかきむしった。

うそだろ。

だって、

なんだこれ、

ぼくは、ぼくは、

「いくらでもお叫びください。先程、防音魔法をかけておきましたので」

ぼくは、なぜ人間界にいるんだ?
なぜ、貴族の従者なんかやってるんだ?
しかも人間なんかの!
ぼくは魔王の息子だぞ? 唯一の世継ぎだぞ?

まさか、まさか、
あの話は確かに断ったはず。

そして諦めと共に悟る。

ああ、ぼくをこんな目にあわせるやつは一人しかいない。

「あんのクソオヤジめ!」

「こらこら、仮にも王子様がそのような乱暴な物言いはおよしなさい」

ノアの小言は完全に無視をして、ぼくは長い間、怒りと羞恥に叫び続けた。

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