ぼくの大切なお嬢様〜悪役令嬢なんて絶対に呼ばせない〜

灰羽アリス

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第1章

第7話 サンロード公爵家の様子

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ぼくがお嬢様に拾われて、従者となり2週間が経つ。これだけ過ごしていると、このサンロード公爵家の事情が色々と見えてくる。

まず、使用人たちがお嬢様に冷たい。

これは、お嬢様が使用人たちをあまり良く思ってないことから、自然と使用人たちに対する態度も悪くなるので、その裏返しだと言えなくもない。

が、問題はそれ以前のところにあった。

サンロード公爵家には、アデル様という現在22歳の跡取り息子がいる。

アデル様はお嬢様にとって優しい兄だそうだ。そして、アデル様がお嬢様によくするものだから、使用人たちもアデル様の前ではお嬢様に冷たい態度は取れない。

が、そのアデル様は、いまは王立大学で、公務につくための勉強をしておられ、王都の別邸からそちらに通っているため、この屋敷にはいない。

そして、公爵は愛人との子であるマリアベルに夢中。お嬢様に全く興味を示さない。
もちろん、お嬢様が王子殿下の婚約者ということで、外に出しても恥ずかしくないようにと、時々お小言はいただくが。公爵のお嬢様への興味はその程度だ。

聞いたところ、お嬢様の婚約者である王子殿下は第二王子で、皇太子ではない。だから、公爵の興味がその程度で留まっているのだとも言える。
これが、皇太子の婚約者であれば、話はまた違っただろう。

ともかく、公爵のその態度が、使用人たちにも電波している。

使用人たちは賢い。公爵の寵愛が向かないお嬢様よりも、寵愛厚いマリアベルに良くしたほうがいいのをわかっている。愛人でこの度正妻となったローズベル様の気持も考えてね。

そうしてお嬢様の周りには、サラとぼくだけが残る。
もちろん、最低限の身の周りのお世話は、他の使用人たちもするけれど、本当に最低限だ。仕方なくしてやっている感を強く出してくるからね。そんなやつらを無理にお嬢様に近づける必要もない。ぼくは積極的にお嬢様の身の回りのお世話を買って出た。
さすがに湯浴みや着換え等の身支度は、サラに任せているけれど。

お嬢様は使用人たちの冷たい態度を気にするそぶりもみせず、今日も元気におねだりしてくる。

「今日は天気がいいから、辻が丘の方に遠乗りに行きたいわ」

「お嬢様、本日の午前は、キースウッド伯爵夫人のダンスの授業がございます。午後からはレシド先生が来られます。遠乗りに出かけている暇はありません」

ぼくはお嬢様のおねだりをバッサリ切り捨てる。
すると、お嬢様はぷくぅと頬をふくらませ、不機嫌アピールをしてくる。

「キースウッド伯爵夫人の授業にはちゃんと出るわよ。その後遠乗りに行くのでいいでしょう? レシド先生も誘えばいいのよ。お外で授業、素敵じゃない」

「そんなこといって、前回そのままお外で昼寝してレシド先生の授業を聞かなかったのはどこのどなたです?」

「うっ……今回はちゃんと聞くわよ」

「だめですね」

「ジェシー、あなたってまったく、頭がかたいわね。ほら、想像してみて。丘の上にシートを広げて、ポッカポカの陽気の中、サンドイッチとフルーツを食べるの。それからレシド先生に授業をしてもらうの。そうだわ!レシド先生は草花にもお詳しいの。今日の授業は草花の授業にしてもらいましょう!ね、いいでしょう、ジェシー」

ぼくの腕に手を絡めて、お嬢様が上目遣いにぼくを見る。
身長差があるからと、わざわざ腰まで屈めて。実にあざといお嬢様である。

かわいい。

っと、いけない、いけない。
ついつい絆されそうになってしまう。

「ねぇ、お願い、ジェシー」

だけど、結局はいつも、お嬢様のお願いを聞いてしまうぼくだった。
 
「うう……、わかりました。レシド先生にお伺いを立てて許しを得ることができたらでいいですね?」

「やったー!ありがとう、ジェシー」

お嬢様はぱっと花咲くような笑顔を浮かべ、ぼくに抱きついてくる。

しょうがない。
レシド先生にうまく言ってやるか。



キースウッド伯爵夫人のダンスの授業はスパルタである。
夫人は、もう一人女性(たぶん、夫人付きのメイドか?)を連れてきていて、その彼女に軽い男装をさせて、お嬢様と踊らせる。ダンスはかなり接近する。それこそ互いの息がかかるくらい。そのため、婚姻前の女性に配慮してのことだと思う。
けれど、従者のぼくは例外なのか、男なのにお嬢様とも普通に踊らされる。

ぼくとお嬢様は頭一つ分近く身長差があるからか、男性パートでうまくリードできない。

「ワン、ツー、スリー、ワン、ツー、スリー」

夫人が手拍子でリズムをとる。

そして、片手に持った木の棒で、ステップを踏み外したぼくの足をたたく。
その度に、踊っているお嬢様がプッと吹き出す。もちろん、夫人にバレないように。器用な芸当だな、まったく。

「ジェシーってお勉強はできるくせにダンスはからっきしなのね。不器用なのかしら?」

「勉強は貧民街でもしましたが、ダンスは踊ったことがなかったですからね。ぼくはお嬢様と違って要領がいいのです、すぐにお嬢様を追い抜いてみせますよ」

「いうじゃないの。私だって負けないわ。なにせ、キースウッド伯爵夫人には神童とお褒めいただいたのだもの」

たしかに、お嬢様は10歳の子供とは思えぬほどのダンスセンスをしている、と、素人のぼくでもわかる。流れるようによどみなく手足を運ぶ様は油断すると見とれてしまう。とっても上手だ。

ぼくは将来、そんなお嬢様をリードしてダンスパーティで踊らなければならない日が来る。
これは覚悟しないと。

と、思っている側から夫人のみね打ちが炸裂して呻く。

お嬢様の、可哀想な子を見る目を感じながら、ぼくは負けじと足を運んだ。

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