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好き
しおりを挟む「死ねッ! 死ねッ! 死ねぇええええッ!」
続けざまに数回、背中を槍で貫かれる。
───ああ、少し油断した。
ベッドに横たわるエミリーちゃんが、想像の100倍煽情的で、つい。
「ハッ、ハハッ! 何が起きたのかわかんねぇだろ、魔王! 魔術師ユウが作った人形をエミリーに仕込んでおいたんだよ。魔力はかなり消費するが一度だけ、人形と俺の位置を交換することができる。勇者の移転を跳ね除ける魔王城も、古代の人形魔法はその限りじゃなかったようだなぁ!」
「───槍使いゲオルグか」
「当然、俺のことは知っているよなぁ! なんせ俺の故郷を狙い撃ちで襲撃するくらいだもんなぁ!」
「……フッ。それで? 故郷が襲撃されたとき、お前はどこにいたのだ? ああ、そうか。俺の部下に深手を負わされ、城付近の村で療養と言うな名の"賭けトランプ"をしていたのだったか。ずいぶん儲けたそうじゃないか、おめでとう」
俺が嘲るように言ってやると、ヤツの顔色が変わった。
そう、すべては計画通りなのだよ。
本人の中でもいま、すべてが繋がったようだ。
ゲオルグの顔はもう、赤を通り過ぎてどす黒い。怒りで血管が切れそうだな。
「貴様ぁぁぁあ!! 俺の息子を、妻を、返せぇえええッ!!!!」
俺はパチンと指を鳴らした。
闇が広がり、幾百の棘に変形する。
決着は一瞬。
腕をおろしたときにはもう、血濡れのゲオルグが地に伏している。
戦いにもならぬ。
俺はエミリーちゃんに向き直った。
可哀想に。よほど怖かったのだろう。
ベッドの上で身を起こした彼女は、瞳を見開いたままかたまっていた。
「エミリーちゃん」
手を伸ばそうとして、やめる。
俺の手は血にまみれすぎていた。
清めねば、美しい彼女には触れない。
と、思ったのだが───
「うわぁぁあん、魔王さぁぁん!!」
エミリーちゃんが俺の胸に飛び込んできた。
汚れるのも構わず、柔らかい身体をもちもち押し付けてくる。
「ま、魔王さんが死んじゃったかと思ったよぉおおお! 怪我っ、怪我は!? うぇっ、治ってる! どぉしてぇ……??」
エミリーちゃんは泣きじゃくった。
鼻水も垂らして、髪を振り乱して、ヨダレも散らして、
だけどその彼女が、たまらなく可愛く見える。
「俺のために、泣いてくれるの……?」
「えぐっ、うぐっ、人間は泣き虫なのです。大事な方が傷ついたら、自分のことのように悲しくて、痛くて、泣いてしまうのです。これも、人間の良いところなのですよ?」
心臓が高鳴る。
こんなこと、300年生きてきて初めてだった。
「俺のこと、大事?」
エミリーちゃんの濡れた瞳が俺を見つめる。
どこか悲しげで小動物を思わせる黒い瞳。
「………わたし、薄情なのでしょうか。目の前で仲間のゲオルグさんが殺されてしまったのに、魔王さんが死ななくて良かったって、安心しているんです。どうしよう。わたし、わたし、」
───ルキさんが、好き
「エミリーちゃん。俺は今夜、君を誘拐するよ」
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