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あ い し て る
しおりを挟む『聖女が初めての性交渉で流す血には死に瀕した者でも即座に復活させる力があるのです。ですので勇者さまに『もしも』のことがあったとき、わたしの初めてを捧げてお救いするようにと教会の方々に命じられているのです……』
「『破瓜の血』を勇者のために、だと……!?」
許さん。断じて許さん。
ガシャン……!
ワイングラスを握りつぶす。
………だけど安心してエミリーちゃん。
『もしも』のときは訪れない。
なぜならば、俺が勇者を一撃で屠るからだ。
灰も残さずな。
復活させる隙も与えぬ。
───それに、だ。
無理やり感は否めぬが、貞操帯も着けさせたのだ。
これで万が一にも勇者に純血を奪われるなんて事態は起こり得ない。
エ ミ リ ー ち ゃ ん の 純 血 は 俺 の も の だ 。
「うっ………頭に血が上ると目がかすむな。聖女の魔力のせいか………」
あのときテーブルに頭を打ち付けてできた傷、本当はあの程度、自力で治せたのだ。
が、チョコレートまみれなエミリーちゃんのエロさに感動している間に、彼女に聖の魔法を使われてしまった。
『お気をつけくださいまし。聖女が持つ聖の気質は我々魔族にとって毒となります。あまり深い接触をなさると魔王様とはいえただでは済みませんよ』
………わかっている。
だが、エミリーちゃんの一部が俺の身体を巡っているこの感覚………悪くない。痛みも快感に変わるというもの。
「魔王様、荒れておられるな……」
「勇者パーティー壊滅作戦は順調なのになぜだ?」
「聖女の懐柔がうまくいっておられないのだ」
「懐柔とは?」
「なんでも、聖女エミリアは勇者よりも厄介な強さを秘めており、強力な魅了の魔法まで使えるそうだ。そんな人間いままでにいなかった。そこで魔王様は闇雲に攻撃するよりも、聖女の魅了にかかったふりをして逆に聖女を誑かし、情報を引き出そうとお考えだ。その過程で聖女が味方になるなら上々。そうでなくとも、聖女の弱点を暴ければ有利に戦える、とな」
「だがその聖女がどうにも魔王様になびかぬようなのだ」
「なにっ、目線だけで全種族の女を孕ませ、どれだけ高飛車な女だろうが靴を舐めさせるまでにとことん屈服させるあの魔王様が、恋愛駆け引きにおいて劣勢だと!? どんだけ強いんだその聖女」
………魔物たちが騒がしいな。
「ユグノー!」
「ハッ、こちらに」
闇の中から銀髪のヴァンパイアが現れる。
魔王の右腕。魔王軍の参謀。組織のナンバー2。
「俺はこれから『瞑想の間』に入る。誰も近づけるな」
「ハッ。仰せのまたに」
「それとこれは人間界で流行っている菓子のレシピだ。シェフに渡しておけ。次回エミリーちゃんが来るときまでに練習を重ね、茶会には完璧なものを出せ、とも伝えろ」
「ハッ。………して魔王様、そちらに抱えておられる箱は何です?」
ユグノーの視線は、俺が大事に抱えた白い箱に注がれている。ピンク色のリボンが結ばれたそれ。
「エミリーちゃんが『いつものお返しに』ってくれたんだ!」
「は?」
「あ、いや。聖女エミリアが魔王にと差し出した貢物だ。なんらかの攻撃の可能性がある。中身は『瞑想の間』で俺がひとりで確かめる」
「魔王様……! そんな、危のうございます! 人間が持ち得るはずのない魅了の魔法を使う、ほかでもない聖女エミリアからの贈り物ですよ! 箱を開けた瞬間、かつてない強力な精神攻撃が魔王様を襲うやもしれませぬ!!」
「だからこそだ! 俺は大事な部下であるお前たちを、危険にさらしたくないのだ………」
「魔王様………っ! なんと、なんとお優しい……!」
「魔王様、一生ついていきます!」
「魔王様かっこいい!」
「魔王様!! 漢の中の漢!」
なにやらユグノーの補佐たちも騒ぎ出した。
「うむ。では行ってまいる」
「「「「ご武運を……!!!」」」」
《『瞑想の間』。そこは魔王しか入室を許されぬ、魔王の秘密の部屋である。『精神統一の間』とも呼ばれる。魔王は心乱される何かがあるとこの部屋に籠もり、気持ちを落ち着かせる。小一時間でも入ればどれだけ荒れた魔王も機嫌を直してくれるので、部下たちの間では有り難い部屋だと言われている。そういえば、最近の魔王様はやたらとこの部屋に籠もられるよなぁ……それだけ聖女にイラついておられるのか》
☆ ☆ ☆
「ふぅ、やっと静かになったな」
『瞑想の間』、ここは俺の天国だ。
一歩足を踏み入れれば、壁一面に飾られたエミリーちゃんの写真が出迎えてくれる。俺の心のアルバムから魔法で切り取った最高の瞬間たち。
「あぁ、エミリーちゃん……」
うっとりと写真の彼女の頬を撫でる。
下半身がうずき、そこへ手を伸ばしかけたとき………
『魔王さんにはいつも美味しいお菓子をご馳走になっているので、これ、お礼ですっ! 手作りで申し訳ないのですが……』
もじもじと箱を渡してきたエミリーちゃんを思い出す。
「そうだ、エミリーちゃんからのプレゼントを開封せねばな」
誰にも邪魔されず喜びを噛みしめるため、この部屋に入るまで開けるのを我慢していたのだ。
中身はいったいなんだろう。
ピンク色のリボンを解く。
「中身は……パウンドケーキか」
シンプルなプレーン味。
孤児院の乏しい材料で、それでも心を込めて作ってくれたのだろう。
ぺろり、と唇についた粉糖を舐めとる。
彼女の魔力と同じ、優しい味がした。
まるでエミリーちゃんをこの舌で味わっているようだ。
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