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純粋な子
しおりを挟む「……ん、ここは……俺はいったい………」
頭をおさえつつ、魔王さんがまぶたを開きました。星の散った夜空の瞳。とってもきれい。
「!! っ、すまない! 俺は、なんてことを。年若い女性に、ひ、ひざ枕をさせるなんて」
魔王さんは急いで身体を起こされました。と、またすぐにわたしの太ももに沈み込みます。めまいがあるようです。
「まだ動いちゃだめですよ、魔王さん。大怪我だったんですからね」
「……エミリーちゃんが治してくれたの?」
「はいっ! 聖なる力が魔王さんの傷にも効いてくれてよかったです」
「そっか。(このダルさはそれで……)ありがとうね」
「いいえ」
魔王さんが身じろぎします。んぅ。さらさらの黒髪が太ももにこすれてくすぐったい。
ふと見ると、魔王さんは顔をそらされました。指の隙間から見える頬が少し赤く見えるのは気のせいでしょうか。
「魔王の俺を治してもよかったの?」
「あ……………ナイショです」
あのときは、魔王とか、人間とか、聖女とか、そんなこと全く考えませんでした。
ただ、魔王さんを助けたかった。
その一心で、聖なる治癒の魔法を使いました。
そして、魔王さんの傷は治った。
魔王を滅ぼすはずの聖なる力が、彼を治したのです。ならば。
わたしは不思議でなりません。
魔王を滅ぼすことが、本当に天の神の意志なのでしょうか……?
「君の聖なる魔力は、優しい味がするね」
「優しい味? そんなこと、初めて言われました」
「君の魔力が、いま俺の中にある。エミリーちゃんに包まれている感じがしてとても気持ちがいいよ」
「そ、そうですか……?」
「うん」
なんだか空気がふわふわしています。
綿菓子みたいに甘いです。
魔王さんの手をどけて、夜空の瞳をのぞきこみたくて、たまらなくなります。
ドキドキ、心臓がうるさいです。
「───そういえば」
「ぴゃぁっ! な、なんですか??」
伸ばしかけた手は、もちろんすぐに引っ込めました。
「聖女は涙の力で傷を癒やすんだっけ?」
「あ、はい。でも、正確に言えば"治癒の力"が宿るのは涙だけじゃないんですよ。聖女の体液ならば、なんでも良いのです。ただし、体液の種類によって治癒のスピードと威力が変わります。『汗→唾液→涙→血液→破瓜の血』の順番に威力が大きくなります。この中では涙がいちばん使い勝手がいいので、よく使っているのです」
「エミリーちゃん」
魔王さんは病み上がりとは思えないほどのスピードで起き上がり、わたしの肩をつかみました。良い笑顔です。
「はい?」
「『破瓜の血』ってどういうことかな?」
「あ、えと、聖女が初めての性交渉で流す血には死に瀕した者でも即座に復活させる力があるのです。ですので勇者さまに『もしも』のことがあったとき、わたしの初めてを捧げてお救いするようにと教会の方々に命じられているのです………あっ! これ言っちゃだめなんでした」
どうしましょう。魔王さんに夜空の瞳でじっと見つめられると、何でも喋ってしまいます。
「ふーん………。エミリーちゃん、君にはこれをプレゼントするよ」
と魔王さんが取り出したのは、革製のパンティ……にベルトと鎖がついたもの?
「魔王さん、これはなんですか?」
「貞操帯だよ」
「じょーぶなしたぎですか?」
「うん。エミリーちゃん、戦闘中によく服が破けているでしょう? この下着は俺の魔力が込められているから絶対に破けない。安心だよ。ねぇ、エミリーちゃん、これ、つけてくれるよね? 俺、心配なんだ……」
「魔王さん……」
なんて優しい方なのでしょう。
戦闘中、服を破きがちなわたしがいつも恥ずかしい思いをしていることに気付いてくださっていたのですね。
☆ ☆ ☆
「さっそく着替えてきました! どうですか?」
丈夫な下着はフリルがついてミニスカートのような見た目なので、上からワンピースを着ることなく出てきちゃいました。
ぐふっ、と魔王さんが珈琲をこぼされました。大丈夫でしょうか……?
「うん、とっても似合ってる。可愛いよ、エミリーちゃん」
「ありがとうございます。えへへ」
そのとき、ガチャリと下のあたりで音がしました。
魔王さんの指先には小さな鍵が。
「え……?」
「この下着ね、おトイレするときも外れないから、ちょっとズラしておしっこするんだよ」
「え……? でも、お風呂は」
「この城に来るたび俺が外してあげるから、お風呂はそのときね。これで安心だね、エミリーちゃん」
「は、はい。そうです、ね……?」
ちょっと面倒ですが、でもこれで下着が破ける心配はしなくてよさそうです。
魔王さんはやっぱりとっても優しいです。
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