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勢い余って
しおりを挟む触手をけしかけといてなんだが、あれは目に毒だったな。
いや、ある意味目の保養なのだが。目で楽しむだけじゃなく、手が出てしまいそうになるからいけない。
少しお触りするだけでエミリーちゃんの着替えを終えた自分を褒めてやらねば。
「しかしあの少女漫画、くその役にも立たなかったな。何が"ドSの言葉攻めは萌える"だよ、ったく……」
「申し訳ありません、魔王様。よくよく調べるとあの少女漫画は一部のコアな性癖を持つ少女たちの間で流行っているものらしく。少々、一般からはズレる趣向のようでして……」
「よい、ミスは誰にでもある。次に活かせ」
「有り難きお言葉、痛み入ります……!」
「それで、勇者たちの実力はどうだ?」
いつも通りの夕刻。
魔王の間で報告を受ける。
ユグノーは分厚い資料をめくった。
「まずまずですね。過去の勇者パーティーの中でも、1,2を争う実力集団かと」
「パーティーの要は?」
「やはり勇者、と言いたいところですが、槍使いゲオルグでしょうね。その明るい性格でパーティーメンバーの精神面をよく支えている。性格の極端に違うメンバーでも空中分解しないのは、彼が繋ぎの役目を担っているからでしょう」
「ふむ……では、その男の心から折っていくことになりそうだな」
「ええ。すでにゲオルグの故郷の村に悪魔元帥をひとり向かわせております」
「さすがだ。では、次の議題に移ろう」
「ハッ」
【~勢いまあってエミリーちゃんに好きって言ってしまった件について~】
「…………別に良いのではないですか? 聖女エミリアを誑し込むには、魔王様を異性であると意識させ、恋愛感情を植え付けなければなりません。であれば、想いを告げることは手っ取り早い方法かと思いますが」
「おま、タイミングってもんがあんだろぉぉぉ!?」
「タイミングですか?」
「ああ、これを見てくれ」
俺が取り出したのはあの日の記憶を貼り付けた紙芝居。
シーン1「エミリーちゃん」
耳元で響く魔王の低く甘い声。
シーン2「ひゃ、ひゃい!」
シーン3「俺、ルキフェルっていうんだ」
シーン4「知っています」
シーン5「ルキって、呼んでくれる?」
シーン6「ルキ、さま」
シーン7「エミリーちゃん、大好きだよ」
抱きしめる。
「どうだ?」
「女性を誑かしてその血をすすってきたわたしに言わせても、これで良いと思いますがねぇ。何が問題なのです?」
「エミリーちゃんが俺を好きになってから、好きって言うつもりだった」
「はぁ?」
「だって惚れたほうが負けって言うだろ? まずはエミリーちゃんを俺にベッタベタに惚れさせて、そんで最後の仕上げに首輪をつけるつもりで『俺も好きだよ』って言うつもりだったんだよ。それがあんな、勢い余って………」
「魔王様」
「あん?」
「まさかとは思いますが」
「なんだよ」
「魔王様は、本気で聖女エミリアを愛しておられるのですか?」
「あいっ………は、はぁ!? ちっげーし!? だって聖女だよ!? 俺魔王だし!?」
「であれば良いのですが……」
「う、うん、よいよい」
「お気をつけくださいまし。聖女が持つ聖の気質は我々魔族にとって毒となります。あまり深い接触をなさると魔王様とはいえただでは済みませんよ」
「わかってるよ」
聖女エミリアをこちら側に引き込む。
それには彼女の聖の気質を、悪の色に染め上げる必要がある。
方法としては、エミリアの身も心も魔王に屈服させること。つまり、ドロドロに惚れさせること。
だがこんな調子で、エミリーちゃんに好きになってもらえるだろうか。
『魔王様は、本気で聖女エミリアを愛しておられるのですか?』
好きだよ。すごく、愛しい。
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