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作戦
しおりを挟む「ハッハッハ。人がゴミのようだ」
魔王さんが黒い衣装をはためかせ、遠く宙に浮いたままわたしたち勇者パーティーを見下ろしています。
ここは魔王城付近の人間の村。勇者パーティーが拠点としている少し大きな村です。
魔王さんと部下さんたちが、その村に特殊な生物を放っています。
うねうねとうごめく赤い触手型の生物です。
「ぎゃーっ!!」
「きも、気持ち悪い!!」
「なんなのよこれぇ!」
「ぐあっ! 服が溶けるぞ! ひりひりする!」
村の人々をはじめ、勇者パーティーの面々はことごとく捕まってしまいました。
触手は、わたしにも迫ってきます。
うねうね、うねうね。私よりも大きくて太い触手です。
「いやっ、こわいよぉっ。助けて、ま………」
あのひとを呼んでしまいそうになる。
わたしはぎゅっと唇をかみました。
そのとき。
「俺を呼んだ? エミリーちゃん」
「魔王さん!」
触手がわたしに絡みつきます。
「いやっ、いやぁ! はなしてぇ!」
「違うでしょ、エミリーちゃん」
「ま、魔王しゃん……」
くいっとあご先をあげられる。
星の散った夜空のような瞳がすぐ近くに。
「俺の名前を呼んで、エミリーちゃん。そうしたら助けてあげる」
「でも、でもぉ……」
「でもじゃないでしょ。ほら、言って」
そうしている間にも、触手が太ももを這い上がってきます。
おチチのあたりの布が溶け始めてる。
「やだよぉ、こわいよぉ、まおうしゃ、んぅ」
涙目でうったえる。
次の瞬間、わたしに絡みついていた触手が弾け飛びました。
「~~~しょうがないな。これじゃ俺がもたないよ」
魔王さんはぐったりしたわたしを抱え、魔王城に向かって飛びました。
わたしは安心して、甘い匂いのする魔王さんの胸にすがりつきました。
──少し、眠っていたようです。
目を開けると涙が一筋頬をつたいました。
とても悲しい夢を見た気がする。
魔王さんはわたしを着替えさせてくれていました。
薄ピンク色の、フリルのついた可愛いワンピースです。聖女服より布地が多くて嬉しい。
聖女の錫杖も、すぐ近くに立てかけてあります。
「人間をいじめたから怒ってるの? それとも触手なんかにエミリーちゃんを汚させたから?」
すすめられたチョコレートケーキを口に運びながらプリプリ怒っているわたしに、魔王さんは困っています。
「……違います。人間をいじめることも、聖女であるわたしを攻撃したことも、それはいいんです。だって、それが魔王さんのお仕事だから」
「じゃあ、どうしてそんなに怒ってるの?」
「だって、それは………」
『おそらく嬢ちゃんを懐柔して、こっちの情報を聞き出そうって魂胆だな。嬢ちゃん弱そうだし、ちょっともてなせば簡単に口を割るとでも考えたんじゃねぇか』
槍使いゲオルグさんの言葉を思い出します。
「わたし、なんにも喋りませんよ。魔王さんがいっぱい優しくしてくれても、ぜーったい、勇者の弱点なんか喋りませんからねっ!」
「え、うん。別にいいよ、そういうのいらない。勇者くらいワンパンで倒せるし」
「え? でも、だって、わたしに優しくするのは勇者の弱点を聞き出すためじゃないのですか?」
「違うよ。言ったでしょ、俺は君と仲良くしたいんだよ。それだけだよ」
「ほ、ほんとうに?」
「うん、誓って」
「ふぁ………」
なんだか気が抜けて、ふらりと椅子から落ちそうになってしまいました。
どうしてこんなに安心したのでしょう。嬉しいのでしょう。
「おっと」
魔王さんがすかさず腕にキャッチしてくれます。魔王さんからはいつも甘い匂いがします。
それにしても大きな方です。こうしているとわたしとの体格差が目立ちます。
「ねぇ。もしかして、エミリーちゃんが怒ってた理由って、それ? 俺が打算まみれで君と付き合ってると思ったから?」
「あっ………」
私はうつむきました。きっと頬は真っ赤です。
「ごめんなさい。勝手な勘違いで、魔王さんを責めてしまって。気分を害されましたよね」
「なにそれ可愛い」
次の瞬間、わたしは抱きしめられていました。
「え、えぇっ!?」
「エミリーちゃん」
耳元で響く魔王さんの低く甘い声。
「ひゃ、ひゃい!」
「俺、ルキフェルっていうんだ」
「知っています」
「ルキって、呼んでくれる?」
「ルキ、さま」
「エミリーちゃん、大好きだよ」
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