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優しさの理由
しおりを挟む「エミリー!」
「勇者さま」
魔王さんとお別れし、ヴァンパイアのユグノーさんという方に案内された広いホールで。
わたしは勇者レオンハルトさまと、仲間のみなさんと再会しました。
「エミリー! 大丈夫なのか?」
勇者さまがわたしの肩や腰に触れ、怪我がないか確認なさいます。
「大丈夫です。それよりも、みなさんこそたくさん怪我をされています」
勇者さまをはじめ、剣士のマリアさま、格闘家のダンさま、弓使いのアスさま、槍使いのゲオルグさまは体中に大きな切り傷を負っています。魔術師のユウさまと賢者のシモンさまは後方支援なので、それほどでもないようですが……
わたしの出番ですね。
聖なる神に祈りを捧げ、涙を流します。
頬を流れるその雫をみなさんの傷口に垂らせば……
「おお、治っていく」
「何度見ても神秘的な光景だね」
聖なる光が放たれ、たちまち塞がっていく傷口。光が消える頃には怪我など最初からなかったのではないか?と思われるほどにきれいな状態になります。
ほっと息をついていると、肩が何かにぶつかりよろめいてしまいます。
「ふん、チヤホヤされていい気にならないことね。アンタは戦闘ではいつも足手まとい。これだけしか価値がないのだから」
「はい、重々承知しております」
剣士のマリアさまです。
マリアさまは、勇者さまの幼馴染みで、戦闘において役に立たないわたしを嫌っておいでです。いつも守ってもらうしかないわたしは申し訳なく思います。
「エミリー、魔王に連れていかれただろ? 本当に何もされていないのか?」
勇者さまはなおも問いかけてきます。
ちまたで噂されるうるわしい顔をゆがめ、険しい表情です。
「はい、とても優しくしていただきました」
「優しく──え、なにを!?」
「え?」
勇者さまはいまにも倒れそうです。
「服、着替えたの?」
と弓使いのアスさま。いつも無表情で、何を考えているのかよくわからない方です。
「はい。破れてしまっていたので。魔王さんがくれたんです」
「あんたまさか魔王と寝たの!?」
と素っ頓狂な声を上げるマリアさま。
「寝る?」
「ヤッたのかってこと!」
「やる?」
「~~~っ、もう、めんどくさいわね! セックスしたのかって聞いてんのよ! 性行為よ、性行為!」
「せい……こ……」
カァと顔が熱くなります。
性の知識は少しならば孤児院の授業で聞きかじっています。
「ち、違います! そんなこと、していません! ただ、プリンをいただいてお話していただけです!」
「なによそれ。こっちは魔王の部下相手に死にそうになりながら戦ってたってのに、プリン食べてお話ってふざけてるの!?」
「ガッハッハ! 嬢ちゃんは魔王にずいぶん気に入られたようだな」
と槍使いのゲオルグさん。いつも明るくて、勇者パーティーのムードメーカーのおじさんです。
「おそらく嬢ちゃんを懐柔して、こっちの情報を聞き出そうって魂胆だな。嬢ちゃん弱そうだし、ちょっともてなせば簡単に口を割るとでも考えたんじゃねぇか」
「魔王も馬鹿だな。エミリーがぼくらを裏切るわけないじゃないか。聖女だぞ」
と勇者さま。
「ま、魔王が今後も戦闘中に嬢ちゃんから情報を引き出そうってんなら、嘘の情報でも教えてやんな。せいぜい魔王軍を困らせてやれ。ガハハ」
とゲオルグさま。
「そう、ですね……」
わたしはなんだか息が苦しくて、胸をぎゅっとおさえました。
情報を引き出すために………
そっか。魔王さんがわたしに優しくしてくれる理由は、ちょっとでもわたしを気に入ってくれたからじゃなくて、わたしを誘惑して情報を引き出すためだったんだ。
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