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魔王と聖女
しおりを挟む「こんにちは、魔王さん」
「やぁ、エミリーちゃん。今日も可愛いね」
「あ、ありがとうございましゅ………」
魔王さんこそ、今日もとてもおきれいです。
ううん、初めて会ったときよりも輝いて見える気がします。
銀色に変わった、マントのせいでしょうか?
なんだか急に自分の格好が気になります。
魔王城までの道のりで何度か戦闘があったので、ただでさえ薄い生地が擦り切れ、いかがわしい感じになっている気がします。
魔王さんは気にしていないようですが。
と、急に頬を撫でられてびっくりしてしまいました。
手袋の感触がくすぐったい。
「前よりも顔色がいいようだね」
「あ……」
心配、してくださっていたのでしょうか。
たしかに、以前は貧血気味でよくめまいがしていましたが、ここ数日は体調がいいです。
「孤児院に、食料を大量に寄付してくださった方がいて、わたしのごはんはもう送らなくてもいいとシスターから連絡があったんです。それでここ数日はたくさんごはんを食べたので、そのおかげでしょうか。でも不思議なのが、その寄付してくれた方、『魔王』だと名乗っていたようで、孤児院の子供たちも『面白い格好をしたお兄ちゃんたちがお肉焼いてくれた』って嬉しそうにしていて。あ、そういえば、なぜか孤児院の近くの森から強い魔物が消えたので、森に果物を取りに行けるようになったともシスターが───」
魔王さんの指先はわたしの頬から離れ、こんどは腕や手のひらをやわやわと揉んできました。カァと身体が熱くなります。
「あ、あの、わたし太ったでしょうか……?」
「ううん。エミリーちゃんは柔らかくて気持ちいいなと思って。でも、もう少しお肉をつけたほうが可愛いと思うよ」
「そ、ですか……?」
「うん」
魔王さんはにっこりとほほえみます。
濡れたように美しい黒髪と、夜空のように星を散らした瞳、びっくりするほど整った容姿。それと……人間にはない羊の角。
この方は魔王です。
倒すべき敵です。
でも。
魔王さんはどうして私に優しくするのですか。
以前にたずねて、はぐらかされた質問がまた胸にうずまきます。
聞けばまた、はぐらかされるでしょうか。
人間の話になると、冷たい表情になる魔王さん。
それでも、わたしとは楽しそうにお話してくれます。
うぬぼれでなければ、人間でも、わたしのこと、少しは気に入ってくださっているのでしょうか。
「今日はね、プリンを用意してみたんだよ。俺、好きなんだ。君も気にいるといいけど」
前回と同様、いつの間にか仲間からはぐれ、魔王さんとふたりきり。不思議なお茶会が始まります。
「……魔王さん」
「なに?」
「わたし、魔王さんと仲良くなりたいです」
「うん、俺も。エミリーちゃんと仲良くしたいな」
即答され、希望が芽生えます。
「っわたし、人間のいいところ、たくさんお話します! わたしを通して人間のこと、すこしでも知ってもらえたら、そしたら……」
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人類の代表として、勇者パーティーのいち員として、大陸を守る義務があります。
いいえ、ちょっとだけ嘘を付きました。
わたしは『聖女』をお給金がもらえるお仕事のひとつとしかとらえていません。崇高な精神なんて持ち合わせていないのです。
魔王さんに人間を知ってほしい理由。
殺さないでいてほしい理由。
それはひとえに、
「わたし、魔王さんと戦いたくないのです……」
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