魔王は勇者パーティーの聖女に恋をする

灰羽アリス

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エミリーちゃんの弱点

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「魔王様、聖女エミリアから情報は引き出せましたか。彼女の弱点は」

「そう急かすな、ユグノー。この魔王ルキフェル、エミリーちゃんとただ楽しくお茶会をしていたわけではない。彼女の弱点、それはだな───」


 ☆ ☆ ☆


「………孤児院、ですか?」

 勇者レオンハルトとの第一回目の戦いを終え、聖女エミリアをはじめとする勇者パーティーを退けたのち。

 俺とユグノーは西の大陸の端にひっそりと建つ、古ぼけた孤児院をたずねていた。

「この孤児院はな、聖女エミリアの実家なのだよ。彼女はこの施設をとても大事にしていて、聖女としての給金だけではなく、自分の食事まで送っているそうだ」

「なるほど。ではこの孤児院を……」

 不敵に笑ったユグノーは、その手にまとわせた炎でモノクルを光らせた。うむ、と俺も頷いてみせる。

 ☆ ☆ ☆

「ファイアー!!! おい、肉をもっと持ってこい!」

「魔王様、こちら最高級黒毛和牛ステーキでございます!」

「うむ、ごくろう! さっそく鉄板に並べろ! 腹を空かせた子羊たちがヨダレを垂らして待っているぞ!」

「わー! ルキフェルー! ぼくにも肉ー!」

「私にもー!!」

「並べぃッ、子羊たちよ! 順番をきちんと守るのだ」

「「「「はーい!」」」」


「……それで魔王様、この状況はいったい?」

 ふぅ、と一息ついたところでユグノーが困惑気味にたずねてきた。

「ふふん、もちろん"バーベキュー"で孤児院の子供たちの腹を満たしておるのだ」

「……申し訳ございません、魔王様。知性の足りぬわたくしめには魔王様の崇高なお考えがわかりかねるのですが。よろしければ、このバーベキュー作戦の目的をお教え願えますでしょうか……?」

「ふむ。たとえ魔王軍の参謀といえども魔王の頭脳には及ばないこともあるだろう。気にするな。では、説明してやろう」

「ありがたき幸せ」

「よいか。いま、聖女エミリアは弱っている」

「そうなのですか?」

「ああ。自らに与えられし食事をほぼすべて孤児院に送っている彼女はろくなものを食べておらず、その身体はやせ細っている」

「たしかに。出ているところが出ているわりに、小柄な聖女でしたね」

 うむ。……む?
 こいつ、エミリーちゃんの身体をいかがわしい目で見てやがったのか……!?
 よし、あとで記憶を消しておこう。

「ごほん。それでだな、第一に、弱った者を殺すのは俺の趣味ではない」

「そうですね。努力を重ね、万全な状態で挑んできた自信満々の敵を叩き潰すことこそ至高」

「であるからして、まず聖女の体調を万全な状態に戻す。そのためには、孤児院に食料を大量に寄付し、聖女エミリアが食事を送らずとも良い環境を整備する」

「なるほど。敵に塩を送るとは、さすが魔王様です」

「フッ。それだけではない。この寄付により、我が魔王軍は聖女エミリアに恩を売ることができる。するとどうだ? 優しいエミリアのことだ。恩人とは戦えない、という気分になり、戦闘中にでもスキができるのではないか。そこをガバッとだな」

「さすか魔王様。親切なのか小狡いのかわからない最高に悪魔的な妙案です」
 
「そうだろう、そうだろう。わかったならばもっと肉を焼くのだ!」

「ハッ! ──オーク軍、ゴブリン隊、肉を追加だ! 近くの森でじゃんじゃんはぐれ魔物を狩ってこい!」

「承知しました、元帥さま」

 よしよし。

「あ、そうだ。この話がちゃんとエミリアに伝わるように、孤児院のシスターにはくれぐれもよろしく言っといてくれよ」

 フッ───

 これでエミリーちゃんの健康は守られた。
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