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これはあくまで作戦ですから
しおりを挟む「魔王さま、これはどういうことですか!」
「ユグノー」
チッ。
急きょ準備させたティーセットの前に聖女エミリーを座らせ、これから楽しい対談が始まるというときに……クッキーもぐもぐしてるエミリーちゃんかわいい。
「いま舌打ちしませんでした?」
「まぁ聞け」
俺はユグノーの肩に腕をまわし、声を落とした。
「とてもそうは見えぬがあの聖女、勇者よりも手強いぞ。おそらく聖なる力が異常に強いのだろう。一度では殺しきれぬし、下手をすれば俺でも深手を負いかねん」
「まさか」
「お前も見ただろう。聖女の精神攻撃を!」
「っ!」
「あやうく心が持っていかれるところだった。おそらく魅了の魔法」
「魅了は我々ヴァンパイアの特級魔法です! 人間ごときに使えるわけが。まさかあの娘、魔族の血縁者ですか」
「わからぬ。だからこそ、不用意に手を出すべきではない。よく知りもせず下手に攻撃でもしようものなら足をすくわれるぞ」
「では、どうすれば」
「まずは情報を引き出す」
「情報を」
「お前も我が軍の参謀ならば、情報の有用性は十分にわかっているはずだ。俺はこれからエミリーちゃん、じゃなくて聖女エミリアを懐柔し、情報を引き出したうえで彼女の弱点をあぶりだす。そのために、あえて魅了の魔法にかかったフリをしようではないか」
「なんと! あえて魅了にかかったフリを! さすが魔王様でございます。このユグノー、改めて感服する思いです」
「うむ」
こいつが魔王の俺に盲目でよかったー。
「して、勇者と残りの仲間たちはどうしますか」
「適当に相手をしておけ。まだ殺すなよ」
「わかっております。殺すのは、しっかり希望を植え付けたあとで、でございますね」
「よろしい。行くがよい」
「ハッ」
俺はひらひらと手を振り、いちの子分を見送った。
───さて。
振り返ると、最後のクッキーを食べるか迷っているエミリーちゃんの困り顔。
俺は胸を押さえてその場にうずくまった。
……なんったる、可愛さだ!
綿菓子のような栗色の髪、小動物を思わせるどこか寂しそうな黒い瞳、桃色の小さな唇、少し痩せすぎているふしはあるが、出るところの出た小さな身体。大事な部分を辛うじて隠す白い教会服も、身の丈以上の錫杖に振り回されているかんじも、どこをとってもグッとくる。
この感情は何だろう。
とにかくこの娘が可愛くて仕方がない。
聖女エミリアが魅了の魔法を使っていないことくらい、魔王の俺にはわかっている。
この娘の力は単なる治癒。過去の聖女どもと変わらない。勇者やその仲間たちを復活させる厄介な力だ。真っ先に殺すべきだ。こんな小動物、簡単に殺せる。
なのに何故だろう。
俺は聖女エミリアを殺せない。
殺したくない。
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