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聖女エミリア
しおりを挟む「俺と結婚してください!!!!」
………わたしは幻聴を耳にしているのでしょうか。
彼はいつ、玉座から移動してきたのでしょう。
目の前にはスラッと背の高い黒髪のきれいな男の人がわたしに跪いておられます。
数々の困難を乗り越え、わたしは勇者さまとお仲間のみなさんとやっとこの魔王城までたどり着きました。いざ魔王と相まみえ、これから最後の戦いが始まる───というこれはそんな大事な場面でのはなしです。
「あ、あの、えぇっと……?」
わたしの目がおかしくなければ、わたしに求婚(?)しておられる殿方は、さっきまで玉座にどんと構えていた『魔王』だと思うのですが……
こてんと首をかしげると、わたしの栗色の髪がふわりと教会服にかかります。
すると魔王が細く長い指先で顔をおおい、ぐぬぅとうめき声をあげました。
「かわっ、かわいい……」
「魔王様、しっかりしてください! くっ、新手の精神攻撃か。過去には一度もこんなことはッ。この聖女、いったい……!?」
部下らしき銀髪の方が何か言っておられます。わたし、すっごく睨まれてます。
「エミリー、下がって」
「勇者さま」
わたしを背にかばい、勇者さまが前に出られました。金髪碧眼の、絵本に出てくるような勇者さま。
「君のことはぼくが守るよ」
光を放ちそうな笑顔でウインクしてくる勇者さま。
わたしは目をぎゅっとつむりました。
「ぼくは『信念』の勇者、レオンハルト! お前を倒しにここまできた! 魔王、名を名乗れ!」
「お、俺の名前はルキフェルっていうんだ。ルキって呼んでね。あ、あの、君の名前も聞いていい?」
「あ、わたしはエミリアっていいます。みんなはエミリーって呼びます。えと、聖女です」
「おい! 無視するな!」
「ふぅん、エミリーちゃんっていうのか。エミリー、エミリー……なんて愛らしい響きだろう」
「おい! 貴様ふざけているのか!」
「外野がうるさいな」
魔王がパチンと指す鳴らすと、透明な触手のようなものが勇者の首に巻き付き彼を宙吊りにしました。
そしてわたしにとろけるような笑顔を向けるのです。
「君のこと、エミリーちゃんって呼んでもいい?」
これがあの冷酷無慈悲と恐れられる魔王、でしょうか……?
とてもそうは見えません。
黒い瞳は、わたしにはとても優しそうに見てるのでした。
人間にはない角が、ちょっとだけ怖いですけど。
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