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しおりを挟む好きな子の恋を応援する。それも、自分以外の男と付き合う後押しをする。
なんて拷問だ、これ。地獄の閻魔大王さまもびっくりの残酷さだよ。
でもたぶん、死ぬよりはマシだろう。
生きてさえいれば、もっと可愛い別の子と付き合える日だって、きっとくるさ。
ぼくは力を取り戻し、生き残る。
そのために、大塚さんと佐々木先生をカップルにする、その後押しをする覚悟を決めた。
とはいえ、どうすれば二人をカップルにすることができるのか。一番は、大塚さんをけしかけて、佐々木先生に告白させることだ。告白は、必ず成功する。先生と生徒っていう障害はあるけれど、二人はうまくいく。ぼくはその様子を水晶で見たのだから。
と、だいたいの方針を決めたはいいけど、ぼくにはまず、突破しないといけない難関が待ち構えている。
それは、大塚さんと仲良くなること。友達とまではいかなくても、恋のアドバイスができるくらいには、近しい関係にならないと。佐々木先生への告白を後押しすることはできない。
大塚さんと、仲良く───
文字通り、死ぬ気で頑張らねば。これは洒落じゃない。
勢い込んで教室に突入!
しかし、いざ大塚さんを目の前にすると、ぼくはたちまち、挨拶もできないチキンになり下がる。
大塚さんの席を華麗にスルーして、窓側の一番後ろの席に着く。冷たい木の感触を尻に感じた瞬間、いいようのない安堵感に包まれた。もう一歩も、ここから動けそうにない。
ぱらぱらと、少ない人数が適当に挨拶をかけてくる。ただし、ぼくの席で立ち止まって、おしゃべりしようなってやつはいない。
ハブられてるわけじゃないけど、ここには、特別ぼくと仲良くしたいってやつがいない。
たぶんみんな、本能で感づいてるんだ。あいつは、俺たちと違うって。挨拶もするし、必要があれば世間話もするけれど、だから、ぼくと彼らとの間には見えない壁がある。その壁は、防弾ガラスくらいには硬くて、ほとんどのやつらが、割って入ることはできない。
でも。
大塚さんは、あっさりガラスを割って、ぼくの懐に入ってきてくれたよなぁ。
中二の始業式の思い出にしばし酔ったあとで、だけど、これは都合のいい解釈で、間違いだったと思いなおす。
ぼくは大塚さんに一目で恋に落ちて、自分から、防弾ガラスを叩き割ったんだ。そうして、彼女を心の中に引きずり込んだ。
生身の彼女も、手と手が触れ合う距離にまで、引きずり込めればよかった。
大塚さんが、占い研究部にやってくる前に。三年以上も、あったのに。
命の危険に晒されないと何の行動もできないなんて、ぼくはぼくを心から軽蔑するよ。
だけど、ああ。
大塚さんと佐々木先生をカップルにする後押しをするために、いま、彼女と仲良くなろうと頑張ってるなんて、皮肉だな。どうせなら、大塚さんとぼくが付き合うために頑張りたかった。
転機が訪れたのは、一限目のホームルームの時間だった。
担任の桑原先生が、黒板に何やら書いていく。
保健委員、体育委員、図書委員……
ぼくは桑原先生のうしろ姿、おろしたままの栗色の髪を眺めながら、この人も、佐々木先生と噂があったよな、と考えていた。
たぶん、それは二人が同い年だから。若い先生同士が仲良く話してるところを見れば、生徒たちは二人の間に同僚以上の深い関係を想像せずにはいられない。
「前期の委員会決めをします」
涼やかな声で先生がそう言ったとき、ハッとした。
これだと思った。
委員会は、だいたい二人か、多くても四人ずつ。
大塚さんと同じ委員会になれば、しゃべる機会も必然的に増える。きっと仲良くなれるに違いない!
大塚さんが手を挙げたとき、だから、ぼくも迷わず手を挙げた。
「はい。じゃあ、大塚さんと天谷くん、ホームルーム委員に決定ね」
身の程知らずな役職についてしまったことを知ったのは、すでに決定が下された後だった。
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