君の好きな人

灰羽アリス

文字の大きさ
上 下
6 / 22

5

しおりを挟む
 
 好きな子の恋を応援する。それも、自分以外の男と付き合う後押しをする。

 なんて拷問ごうもんだ、これ。地獄の閻魔えんま大王さまもびっくりの残酷さだよ。

 でもたぶん、死ぬよりはマシだろう。
 生きてさえいれば、もっと可愛い別の子と付き合える日だって、きっとくるさ。
 ぼくは力を取り戻し、生き残る。
 そのために、大塚さんと佐々木先生をカップルにする、その後押しをする覚悟を決めた。

 とはいえ、どうすれば二人をカップルにすることができるのか。一番は、大塚さんをけしかけて、佐々木先生に告白させることだ。告白は、必ず成功する。先生と生徒っていう障害はあるけれど、二人はうまくいく。ぼくはその様子を水晶で見たのだから。

 と、だいたいの方針を決めたはいいけど、ぼくにはまず、突破しないといけない難関が待ち構えている。
 それは、大塚さんと仲良くなること。友達とまではいかなくても、恋のアドバイスができるくらいには、近しい関係にならないと。佐々木先生への告白を後押しすることはできない。

 大塚さんと、仲良く───
 文字通り、死ぬ気で頑張らねば。これは洒落しゃれじゃない。

 勢い込んで教室に突入!

 しかし、いざ大塚さんを目の前にすると、ぼくはたちまち、挨拶もできないチキンになり下がる。
 大塚さんの席を華麗にスルーして、窓側の一番後ろの席に着く。冷たい木の感触を尻に感じた瞬間、いいようのない安堵感に包まれた。もう一歩も、ここから動けそうにない。

 ぱらぱらと、少ない人数が適当に挨拶をかけてくる。ただし、ぼくの席で立ち止まって、おしゃべりしようなってやつはいない。
 ハブられてるわけじゃないけど、ここには、特別ぼくと仲良くしたいってやつがいない。
 たぶんみんな、本能で感づいてるんだ。あいつは、俺たちと違うって。挨拶もするし、必要があれば世間話もするけれど、だから、ぼくと彼らとの間には見えない壁がある。その壁は、防弾ぼうだんガラスくらいには硬くて、ほとんどのやつらが、割って入ることはできない。

 でも。

 大塚さんは、あっさりガラスを割って、ぼくのふところに入ってきてくれたよなぁ。

 中二の始業式の思い出にしばし酔ったあとで、だけど、これは都合のいい解釈で、間違いだったと思いなおす。
 ぼくは大塚さんに一目で恋に落ちて、自分から、防弾ガラスを叩き割ったんだ。そうして、彼女を心の中に引きずり込んだ。
 生身の彼女も、手と手が触れ合う距離にまで、引きずり込めればよかった。
 大塚さんが、占い研究部にやってくる前に。三年以上も、あったのに。
 命の危険にさらされないと何の行動もできないなんて、ぼくはぼくを心から軽蔑けいべつするよ。

 だけど、ああ。
 大塚さんと佐々木先生をカップルにする後押しをするために、いま、彼女と仲良くなろうと頑張ってるなんて、皮肉だな。どうせなら、大塚さんとぼくが付き合うために頑張りたかった。

 転機が訪れたのは、一限目のホームルームの時間だった。
 担任の桑原くわはら先生が、黒板に何やら書いていく。

 保健委員、体育委員、図書委員……

 ぼくは桑原先生のうしろ姿、おろしたままの栗色の髪をながめながら、この人も、佐々木先生と噂があったよな、と考えていた。
 たぶん、それは二人が同い年だから。若い先生同士が仲良く話してるところを見れば、生徒たちは二人の間に同僚以上の深い関係を想像せずにはいられない。

「前期の委員会決めをします」

 すずやかな声で先生がそう言ったとき、ハッとした。
 これだと思った。

 委員会は、だいたい二人か、多くても四人ずつ。
 大塚さんと同じ委員会になれば、しゃべる機会も必然的に増える。きっと仲良くなれるに違いない!

 大塚さんが手をげたとき、だから、ぼくも迷わず手を挙げた。

「はい。じゃあ、大塚さんと天谷くん、ホームルーム委員に決定ね」

 身の程知らずな役職についてしまったことを知ったのは、すでに決定が下された後だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一会のためによきことを

平蕾知初雪
ライト文芸
――8月、僕はずっと大好きだった〇〇ちゃんのお葬式に参列しました。 初恋の相手「〇〇ちゃん」が亡くなってからの約1年を書き連ねました。〇〇ちゃんにまつわる思い出と、最近知ったこと、もやもやすること、そして遺された僕・かめぱんと〇〇ちゃんが大好きだった人々のその後など。 〇〇ちゃんの死をきっかけに変わった人間関係、今〇〇ちゃんに想うこと、そして大切な人の死にどう向き合うべきか迷いまくる様子まで、恥ずかしいことも情けないことも全部書いて残しました。 ※今作はエッセイブログ風フィクションとなります。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

秘密部 〜人々のひみつ〜

ベアりんぐ
ライト文芸
ただひたすらに過ぎてゆく日常の中で、ある出会いが、ある言葉が、いままで見てきた世界を、変えることがある。ある日一つのミスから生まれた出会いから、変な部活動に入ることになり?………ただ漠然と生きていた高校生、相葉真也の「普通」の日常が変わっていく!!非日常系日常物語、開幕です。 01

キスで終わる物語

阿波野治
ライト文芸
国木田陽奈子はふとした偶然から、裕福な家庭の少女・小柳真綾と知り合い、小柳家でメイドとして住み込みで働くことになった。厳格なメイド長の琴音や、無口で無愛想なルームメイトの華菜などに囲まれて、戸惑いながらも新生活を送る。そんなある日、陽奈子は何者かから不可解な悪意を向けられ、その人物との対決を余儀なくされる。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

昇れ! 非常階段 シュトルム・ウント・ドランク

皇海宮乃
ライト文芸
三角大学学生寮、男子寮である一刻寮と女子寮である千錦寮。 千錦寮一年、卯野志信は学生生活にも慣れ、充実した日々を送っていた。 年末を控えたある日の昼食時、寮食堂にずらりと貼りだされたのは一刻寮生の名前で……?

処理中です...