25 / 33
第三章 『惚れ薬』騒動
8 美少女転校生イベント発生(無理やり)
しおりを挟む赤星くんが女の子に変わったのは日曜日。その翌日、月曜日にはもう、青葉清涼高校への赤星くんの転入が叶った。
昨日の今日という短期間で『転校生』の受け入れを校長に認めさせるのは普通なら無理。うちは私立なのでまず転入試験をパスしなきゃならないし、その他書類やら制服の用意やらいろいろと準備が必要なので早くても一週間はかかる。じゃあなぜ、昨日の今日で試験も書類もなくして赤星くん(♀)を転入させることができたのか。
「校長も隅に置けませんね」
「なんのことだ?」
「ミルクちゃん」
「!?」
「マンションに愛人囲っちゃうなんて~。しかも今月の誕生日にはバーキンをプレゼントする予定ですか。結構稼いでんですね、田島校長」
「しょ、書類はあとで私が調整しておく。ほかの先生方にも、私から。だからこのことはどうか、どうか──」
「あざーっす!」
ええ、脅しましたとも。
こんなこともあろうかと、校長の弱みは前もってゲットしておきました。
『飛行魔法』、『通り抜け魔法』『盗聴魔法』を使えば深夜の尾行&証拠の確保くらいお手の物だ。
完璧に隠してたのになんで知ってんだ? って、校長は幽霊でも見る目を向けてきたけど、その辺は煙に巻いておく。ただ……私を敵に回したらあかんのやで。よく覚えときいや。
意味深な視線を残してさっそうと去る。
くうーっ! 楽しい!!! 嫌み校長、これにて成敗!
おっと、いけない。言い忘れてた。
くるりと振り返ると、校長は可哀想なほど情けなく飛び跳ねた。
「3年1組の赤星くんと英語の中村先生はインフルで一週間ほど欠席しますんで」
「う、うむ。……え?」
わっくわっく。きました、転校生イベント! ある日突然転校してきた女の子はものすんごい美少女! ざわつく男子たち。値踏みする女子たち。恋のバトル勃発!
「楽しそうだね、ひなこちゃん」
「あったりまえじゃん。あーあー、私も生徒側で転校生を迎えたかったよ」
隣を歩く赤星くん(♀)が大きなため息をついて肩を落とす。窓から吹き込む風が長い赤髪をさらう。女子用の夏服を涼し気に揺らす赤星くんは、正直嫉妬しちゃうくらいめちゃめちゃに可愛い。もう女の子として生きた方がいいんじゃない?ってくらい。芸能界でもアイドルとしてトップ張れそう。まー、元があんだけよかったからな。美少年が女になったらそら美少女なるわな。
「があああ! いらいらする! スカートってこんななの? 外気にパンツ晒してるわけだから、こんなのもうほとんど裸じゃん!」
「そーだねー。女の子はみんなソウダヨ」
スパッツ? 体操服? そんなの履かせておりませんが。美少女のスカートの下はやっぱ夢じゃん! ラッキースケベを夢見る男子たちのため、私のちょっとえっちい下着もちゃんと着せたからね!(サムズアップ)
「でも、ひなこちゃんのパンツには、ちょっと興奮するかも……」
「き、君は! 可愛い顔赤らめさせてなんてこと言うんだ! 君はいま女の子なんだぞ! 自重しろ!」
そーだった。こいつ私にKOI☆しちゃってんだった。いたいけな少年の恋心に自分のパンツ履かせるとか変態か。微妙に自己嫌悪……
そいえば私、赤星くんをこんな目に合わせてるくせにひとりで舞い上がっちゃって。さらに自己嫌悪……
「ごめんね、赤星くん。私が君を眷属なんかにしたせいで変な事件に巻き込んじゃって」
「いいよ、もう。それに女になるとかなかなかできない経験だし。俺も楽しんでるし」
「うん……」
ねえ、と赤星くんが教室の手前で私を止めた。
「なんだい」
「ご褒美ちょうだいよ。そしたら俺、頑張るからさ」
1カメ。灰色スーツ&黒ぶちメガネの地味な教師にカベドンする赤髪美少女の横顔。
2カメ。眼前に迫るとんでもない美少女のドアップ。わあ、黒いおめめキラキラ。
3カメ。徐々に近づいてくる、つやっつやなピンクの唇。
みんなー、背景に百合が咲いてるよ!
微ヤンキー美少女×地味女教師のカプ、けっこう熱いのでは。
て、流されるな私!
「やめんか」
「いてっ」
日直日誌で叩かれた赤星くんは目の端に涙をため、「ちぃ」とふてくされる。なにその顔可愛い。いかん、このままでは新たな扉を開いてしまう。その前に教室の扉を開こう。
まずはそう、転校生を教室の外に待たせての「お知らせ」タイムをこなさねば。転校生を見たみんながどんな反応をするのか、わくわくしながら転校生の来訪を伝える先生って役割もなかなか良いものじゃ。
あちこちで世間話に花を咲かせる生徒たちはまだ、扉の向こうの転校生の存在に気付いていない。赤星くんの欠席は、インフルとだけ簡単に伝えておいた。「夏にインフルとかあいつ運なさすぎ~」と笑いで盛り上がる教室。
「はい、静かにー。代わりと言っちゃなんですが、赤星くんのご親戚がこのクラスに転入します」
「は? 転校生?」
「聞いてねー! いつくんの? 女の子? 女の子?」
「なうです! 女の子ですよ。赤星さん、どうぞ~」
まさに、ドッカーンって感じだった。
赤星くん(♀)がドアを開けて教室に足を踏み入れた途端、湧き上がるクラスメイト達。
赤星くんの周囲には、幻覚でなく風が吹いて見えた。この瞬間、いったい何人の男子たちが恋に落ちたのか。たぶん15人全員だな。冷たい視線で斜に構えてた女子たちも、目をまんまるにして言葉なく魅入ってる。わかるわかる。あれはもう、張り合えるレベルの相手じゃないんだよな。雲の上の存在。天使。誰もが敵わないと悟るから、「あんた調子乗ってんじゃないわよ! イジメてやる!」なんて事態も起こらない。嫉妬は一周回って憧れに変わる。
赤星さんはお父様の仕事の都合で~とか一応でっちあげた物語を語ってみるけど、誰も聞いちゃいないな。
「じゃ、赤星さん、軽く自己紹介してください」
「えと、赤星 颯良(あかほし さら)です。颯太のイトコです。よろしく」
うむ、赤い顔でぺこっと頭下げるの狙ってないんだろうけどぐっときたよ。グッジョブ!
赤星さんの席は小林くんのとなりね、と私は赤星くんを促した。魔女の魔法で学校側がいい感じに操られて劇的に早く赤星くんの転入が叶ったと思ってる小林くんは満面の笑みで手を振った。「サラ!」と。一瞬、時が止まったように教室が静かになった。
「さら?」
「さらって言った?」
「呼び捨てかよ」
「え、知り合い?」
そしてざわつきだす生徒たち。そこへ小林がとんでもない爆弾を落とした。
「知り合いも知り合い。だってこいつ、俺の彼女だもん」
「ばっ、何言って───」
「「「「はあああああああああああああ!?!?!?!?!?」」」」
焦る赤星くんの声は、30人分の悲鳴にかき消された。
小林くん……
美少女転校生は元々知り合いで、しかも自分の彼女。地味な男子が一度は夢見る展開だ。
「あんな美少女と付き合えるとか小林すげえ」って思われたかったのね。赤星くんの秘密を守るんだもん、それくらいの旨みがあってもいい。……わかる、わかるよ小林くん!!! 私だって実は魔女だぜ自慢をしたい女だもの。
だが! 見たまえ、小林くん。あの男子たちの憎しみに燃えた目を! いまの君の宣言は全男子を敵に回したぞ!
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
有涯おわすれもの市
竹原 穂
ライト文芸
突然未亡人になり、家や仕事を追われた30歳の日置志穂(ひおき・しほ)は、10年ぶりに帰ってきた故郷の商店街で『有涯おわすれもの市』と看板の掲げられた店に引き寄せられる。
そこは、『有涯(うがい)……生まれてから死ぬまで』の中で、人々が忘れてしまったものが詰まる市場だった。
訪れる資格があるのは死人のみ。
生きながらにして市にたどり着いてしまった志穂は、店主代理の高校生、有涯ハツカに気に入られてしばらく『有涯おわすれもの市』の手伝いをすることになる。
「もしかしたら、志穂さん自身が誰かの御忘物なのかもしれないね。ここで待ってたら、誰かが取りに来てくれるかもしれないよ。たとえば、亡くなった旦那さんとかさ」
あなたの人生、なにか、おわすれもの、していませんか?
限りある生涯、果てのある人生、この世の中で忘れてしまったものを、御忘物市まで取りにきてください。
不登校の金髪女子高生と30歳の薄幸未亡人。
二人が見つめる、有涯の御忘物。
登場人物
■日置志穂(ひおき・しほ)
30歳の未亡人。職なし家なし家族なし。
■有涯ハツカ(うがい・はつか)
不登校の女子高生。金髪は生まれつき。
有涯御忘物市店主代理
■有涯ナユタ(うがい・なゆた)
ハツカの祖母。店主代理補佐。
かつての店主だった。現在は現役を退いている。
■日置一志(ひおき・かずし)
故人。志穂の夫だった。
表紙はあままつさん(@ama_mt_)のフリーアイコンをお借りしました。ありがとうございます。
「第4回ほっこり・じんわり大賞」にて奨励賞をいただきました!
ありがとうございます!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
紅陽
きのたまご
ライト文芸
高校生のレムは放課後の教室で、小学生時代のある記憶を思い出す。クラスの男子と遊んだ帰り道。彼が残した謎の言葉と、夕焼けに染まった美しい景色。数年が経った今、ようやくその言葉の意味を知る。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる