ある日突然『魔女』になりまして

灰羽アリス

文字の大きさ
上 下
10 / 33
第ニ章 目撃者をつくろう

4 記憶消さなかったのは気の迷い

しおりを挟む
「僕に似た君の兄さん、イサリくんと鏡の悪魔はどうやって知り合ったのかな」

 ナイトがどうしてこの兄弟の前に姿を現したのか、早く知りたかった。

「僕も詳しいことは聞いていないんです。亡くなるずいぶん前に出会っていたようですが。最初、兄さんから悪魔と会っているって聞いた時は心配しました。その時の僕には悪魔って神様と対立している邪悪な印象しかなくて」

「対立? たまにするけど今のところ九対一で悪魔の方が正しいよ」

「僕も兄さんから悪魔が優しいなんて話を聞いて、兄さんがだまされいるんだと思いました」

 なんだか悪魔が気の毒になってきた。名前が悪いのか。それとも完璧なものほど不完全が大多数を占める人間の中では排除の対象になるのか。

「僕は兄さんが殺されたんだと思っています」

「え?」

 僕は足を止めた。

「どういうこと。その悪魔に殺されたとでも?」

 ナイトがそんなことをするわけがない。

「いいえ、何か別のものにです。兄さんは幽霊に狙われてるって言ってました。悪魔は幽霊から兄さんを守っていたのだと思います」

 ナイトがこの子のお兄さんを守るか……人間の世界に干渉するのは神様の仕事で、普通なら悪魔は関心すら持たない。マツリくんが続ける。

「最初に会った時、前も言いましたが、兄さんが死んだ日です。悪魔は僕を優しい目で見ました。兄さんは『悪魔』とだけ言ってその見た目のことはあまり話してなかったんで、ちょっと恐ろしいものを想像していたんですが、でも何ですかね、僕がまず思ったのは、悪魔がこんなにきれいじゃ駄目だろうってことでした。あれじゃあ簡単に惑わされます」

「惑わされてもいいんだよ、悪魔には」

 僕は真面目に言ったのにマツリくんが笑う。

「今はシロキさんを信じます。その悪魔は目と同じ優しい口調で僕に言いました。『お前、兄さんの魂を守れるか?』って。魂を守るって、どう言う意味だったんでしょうか」

 僕は少し胸騒ぎがした。幽霊の正体も、ナイトのやろうとしたことにも心当たりがある。

「それで……その時、悪魔は君に何かした?」

「それが覚えてないんです。記憶がなくて。動揺してたのかな。でも気がついたら、僕は死んだ兄さんに覆いかぶさっていて、悪魔が『お前は良く守ったよ』と慰めてくれたことは覚えています。肩に置かれた温かい大きな手はしっかり記憶にある」

「そう……ありがとう、話してくれて。きっと悪魔の言った通りだね。君は良くお兄さんを守ったよ。君のことは僕が守るよ。悪魔が君の兄さんを守りたかったように僕もそうしたいんだ」

 マツリくんは何かを確かめるように自分の胸に手を当てて僕を見た。

「シロキさんが僕を、ですか。どうしよう、嬉しい。でも何でそこまで。悪魔だってどうして兄さんを守りたかったんでしょうか」

「会ったら直接聞くさ」

 そう言って僕は氷像の参道を抜け、鏡の短冊が並ぶ拝殿前に出た。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

有涯おわすれもの市

竹原 穂
ライト文芸
 突然未亡人になり、家や仕事を追われた30歳の日置志穂(ひおき・しほ)は、10年ぶりに帰ってきた故郷の商店街で『有涯おわすれもの市』と看板の掲げられた店に引き寄せられる。  そこは、『有涯(うがい)……生まれてから死ぬまで』の中で、人々が忘れてしまったものが詰まる市場だった。  訪れる資格があるのは死人のみ。  生きながらにして市にたどり着いてしまった志穂は、店主代理の高校生、有涯ハツカに気に入られてしばらく『有涯おわすれもの市』の手伝いをすることになる。 「もしかしたら、志穂さん自身が誰かの御忘物なのかもしれないね。ここで待ってたら、誰かが取りに来てくれるかもしれないよ。たとえば、亡くなった旦那さんとかさ」    あなたの人生、なにか、おわすれもの、していませんか?  限りある生涯、果てのある人生、この世の中で忘れてしまったものを、御忘物市まで取りにきてください。  不登校の金髪女子高生と30歳の薄幸未亡人。  二人が見つめる、有涯の御忘物。 登場人物 ■日置志穂(ひおき・しほ) 30歳の未亡人。職なし家なし家族なし。 ■有涯ハツカ(うがい・はつか) 不登校の女子高生。金髪は生まれつき。 有涯御忘物市店主代理 ■有涯ナユタ(うがい・なゆた) ハツカの祖母。店主代理補佐。 かつての店主だった。現在は現役を退いている。 ■日置一志(ひおき・かずし) 故人。志穂の夫だった。 表紙はあままつさん(@ama_mt_)のフリーアイコンをお借りしました。ありがとうございます。 「第4回ほっこり・じんわり大賞」にて奨励賞をいただきました! ありがとうございます!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

紅陽

きのたまご
ライト文芸
高校生のレムは放課後の教室で、小学生時代のある記憶を思い出す。クラスの男子と遊んだ帰り道。彼が残した謎の言葉と、夕焼けに染まった美しい景色。数年が経った今、ようやくその言葉の意味を知る。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...