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第ニ章 目撃者をつくろう
1 暇なんで身バレしてみることにした
しおりを挟む『魔女の隠れ家』にて。
『魔女のすゝめ』を片手に、せっせと魔法の練習をする。
まずは心臓の隣にある力の根源を意識。水が流れるイメージで少しずつ力を引き出す。
3メートル先にある本に手を向け、
「〝飛べ〟〝来い〟」
一拍遅れて本が浮き上がる。のろのろと宙をさまよい、10秒後に私の手の中におさまる。
物を引き寄せる魔法は、二つの魔法をかけ合わせないといけない。『浮遊魔法』と『磁気魔法』。まず、『浮遊魔法』で物を浮かせ、『磁気魔法』で静電気を起こし、下敷きにはりつく髪の毛の要領で私の手に引き寄せてくっつける。最初は魔法が発動するまでに一分ほどのタイムラグがあったけど、いまは一拍遅れまでに縮まった。引き寄せの時間だって、30秒も早くなった。ここ最近の鍛錬の賜物だ。達成感はもちろんある。なのになぜだか、
「……ものたりない」
魔女になってから3週間が経った。
ひまである。
とにかくひまである。
私、魔女になったんだよ?
そろそろ劇的な何かが起こってもいいんじゃないでしょうか。
たとえば魔法少女が力を得た場合。まず、悪の組織に目を付けられるでしょ、んで襲い来るモンスターと戦って、新しい魔法少女と出会って共闘、どんどん仲間が増えてって、そのうち好きな男の子とのドキワク展開もあって……イベント盛りだくさんである。
しかし、私ときたらどうだろう。
魔女になった翌日からもせっせと職場に通い、生徒たちに社会科を教え、年配教師たちの嫌みに愛想笑いを返し、中村先生を遠巻きから眺める日々。何にも起こりゃしない。
それでも最初の2週間くらいはよかった。
新しい『魔法』の検証を楽しくこなしてるうちにあっという間に時間が過ぎていく。
平凡な教師。しかしその正体は魔女。誰も彼女の本当の姿を知らない……
っていうシチュエーションは熱い。秘密を抱える影のある女を演じて優越感に浸る時間は楽しかった。
がしかし、マジで誰も知らないんだよなぁ、私が魔女であることは。
知ってる人間と言えば、姪っ子のたまちゃんだけ。
つまるところ、
私は誰かにすごいって思われたい! たまちゃんだけじゃ足りない! ていうかあの子すごいとか言ってくんないし!
うへへ、実は私魔女なんだぜって自慢したい!!!
みなさんは、YouTubeで超能力ドッキリの映像を見たことがあるだろうか。
ある少女がカフェのテーブルでパソコンを操作している。カフェは満員だ。その中には仕掛人だけじゃなく『目撃者』となるべき一般人も混じっている。「オーマイガッ!」少女の怒りと驚きに満ちた声が店内に響き渡る。『目撃者』たちの注目が少女に集まる。どうやら男性が少女のテーブルにぶつかり、少女のパソコンを珈琲で水浸しにしてしまったようだ。「ソーリー」軽く謝る男性に、少女はブチ切れ。「私に触んないで!」と男性に手を向けると、なんと男性は少女に触れられてもいないのに吹っ飛び壁に激突。そのまま壁の中腹に張り付けにされるではないか。一斉に驚く『目撃者』たち。驚いたのは少女も同じだった。手を下に向けると、少女の周りのテーブルと椅子がひとりでに遠ざかっていく。困惑の中、少女は絶叫する。するとカフェの棚の中身が全て落ちていく。驚く『目撃者』たち。信じられないことに、彼女は超能力者なのだ───
いいなー、私も『目撃』されたい。
やべえ、あいつ。ほうきで空飛んでる! 魔女じゃね? って思われたい。
満たされない承認欲求、抑えがたい衝動をぶらさげて、白昼堂々お空を飛んじゃいたくなるぜ。
《日奈子ちゃんへ。みだりに力を使って目立たないほうがいいよ。魔女狩りにあって、人体実験とかされちゃうかもよ》
神様の忠告は正しい。もし捕まれば、人体実験コースだって私もわかってる。
でもさ、ぶっちゃけ捕まらなければいいんだよね。
2組の大塚さんがこないだ魔女見たってよ。えー、嘘だろ、魔女なんているわけねーじゃん。だよなー。
そんくらいの知名度まで顔出しするくらいよくないですかね?
ほら、幽霊と同じだよ。目撃談はあるけれど、にわかには信じがたい。子どもは好奇心にまかせて「探してみようぜ!」てなことになるかもしれないけど、大人は誰も相手にしない。
そんな幽霊みたいな魔女に私はなりたい。
「『目撃者』なら俺たちがいるだろ」
ジジは呆れたように言うけど、わかってないなー。
「君たちはこっちサイドの存在でしょ。『目撃者』っつーか『共犯者』じゃん。私はね、赤の他人で何の力も持ってないただの人間に目撃されたいわけ。で、すげーって思われたいわけ」
「くだんねー」
まあ、そう言ってくれるなよ。
誰でも思うんじゃないかな。自分に他人と違う能力があったら、それをちょっとばかし見せびらかしたいって。
待ってても敵は襲ってこない。仲間にも出会えない(そもそも私のほかに魔女いるの?)。好きな男の子に力を使う現場を目撃されて秘密の共有関係ができるわけでもない。
ただひとりでこそこそ魔法を楽しんで、「ぐへへ」って自己満足。褒めてくれる人や力をぶつける相手などもちろんいないから、そこで完結。そんな日常をぼーっと繰り返して、そのうち私、おばあさんになっちゃうんだ。そんで死に際孫だけに「実はばあちゃんな……」って打ち明ける。なるほどこのシチュエーションも熱い。だが! そこまで待ってられない。
私は! 今! 劇的な展開がほしい!
てなわけで、
「起きぬなら、起こしてみせよう、劇的ドラマ☆」
自作自演、上等である。
ドキワクなイベントを自分にプレゼントしよう。
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