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20 迷惑な訪問者と、嬉しい訪問者

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 今日も、ロキが城にやってきた。こうも毎日来られると、さすがにうんざりしてくる。
 
 当たり前のようにソファに座り、ママの侍女であるティナからジュースをついでもらうロキを睨む。

「ティナ、ロキに良くしてあげなくていいから!」

「しかし、お客様ですし……」

「ロキも、ここはアンタの家じゃないのよ!こう毎日来ないでよ!」

「だって、ここのめしうめぇし」

「安い言い訳だな」

 別のソファに座るパパが、頬杖をつきながら不機嫌そうに言った。びく、とロキの肩がはねた。

「もう、ヴィ」とママがとなりのパパをたしなめる。だって、とパパは唇をすぼめた。なぜかそこから甘い雰囲気に包まれつつあるママとパパのひざに、トニーが飛び込んでいく。

「ぼく、知ってる!ロキはね、トリーに会いたくてここに来てるんだよ」

 ロキの顔はみるみるうちに真っ赤になった。犬耳としっぽをピンと立て、ぷるぷる震わせる。 

 あたしはため息をついた。

 あたしだって、馬鹿じゃない。ロキがあたしを好きだってことくらい、知ってるわ。でも、いちいちそういう"意識した"態度を取られると面倒なのよ。

「パパは許しませんからね!!!」

 ………ねぇ、パパ、話の脈絡って知ってる? どこをどうしたら、そんな話になるのよ。

「安心して、パパ。ロキはあたしの下僕げぼく。下僕に恋するあるじなんていないでしょ?」

 トリー、とすかさずママのおしかりが飛んだ。

「げぼ、げぼ……」とロキは壊れた機械みたいに繰り返してる。

「何驚いてるのよ、ロキ。当たり前のことでしょ。あなたがあたしと対等だとでも思ってた?」

「た、確かに身分はちげぇけど!」

「違うどころじゃない。あたしは神で、あなたは道端のありんこ。それくらいひらきがあるの」

「そこまで言わなくたっていいだろ!!」

「お行儀が悪いわよ、わんちゃん。ちゃんと座りなさい。床にね」

「トリー!!!もう、なんてこと言うの!」
  
 ママはカンカンだ。
 ………ここではこれ以上言い合いを続けるべきじゃないわね。罰として、"淑女教育"の時間を増やされたらたまらない。
 あたしは淑女らしく、紅茶を優雅に口に運んでみせた。

「あたしと付き合いたいなら、まずはその下品なしゃべり方からなおしなさい。それと、浮浪者みたいなその汚い服もやめて。話はそれからよ」

 ロキは床をじっとにらんで何か考え込むと、やがて頷いた。

「…………わかった」

 ええっ、わかっちゃったの? 遠回しなお断りの文句なのに。あなたみたいな理解力のない犬っころ、あたしの好みじゃないのよ。あたしが好きなのは────

「やぁ、子どもたち」

「「フェルナンデスおじさま!!!」」

 あたしとトニーは、思わぬ、そして嬉しい訪問者に駆け寄り、抱きついた。

 ママやトニーとそっくりの銀の髪は、いつもながらサラサラだ。茶色の双眼を優しく細めておじさまは笑った。




 
 
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