13 / 22
13 作戦開始!(過激Ver)
しおりを挟むコツコツ、と高いヒールの音を響かせながら、龍姫が階段をおりてくる。どうしてあんなに腰をくねらせないと歩けないのかしら。きっと、くらげみたいに骨がないのね。
壁際に留めてあるシャンデリアの紐を解く。シャンデリアはその重さに任せて、ぶん、と振り子のように動く。計算上、いま階段をおりる龍姫の頭にクリーンヒットするはずだった。
だけど───
ブン!
シャンデリアが振り切れるすんぜん、龍姫は足元に落ちたイヤリングを拾うためにしゃがんだ。そのせいで、シャンデリアの振り子は龍姫の頭上でむなしく振りかぶった。
チッ、悪運の強いやつめ……!
もう少しだったのに……!
悔しくて、キーッとその場で地団駄を踏む。
「トリー、トリー」
「なによ、トニー」
「シャンデリア、戻ってくるよ」
振りかぶったシャンデリアが次に向かう先は、元あった場所。ブン、と勢いを増してシャンデリアが戻ってくる。
「「きゃーーーーっ!!!!!」」
と、シャンデリアが爆発した。パラパラとふってくる破片は、頭上の見えない壁に阻止され、あたしたちには当たらない。
「なにしてるの、君たち」
ひどく平坦な声がした。ラニだ。寝癖のついた焦げ茶色の髪が不安定に揺れ、今日も不機嫌そうに眉を寄せている。
「ラニー!怖かったよ~!」
トニーがラニの足にしがみついた。ラニは無感動にトニーを見下ろす。
「トニー、これくらい君にもできるよね? 僕が教えたんだから。いつも言ってるけど、トニーはやっぱり、とっさの判断力と行動力に欠ける。また修行だよ」
「えぇ~、いまそれ言うぅ? ぼくの感動がだいなしだよぉ……」
「ていうかこれ、どうしよう。フィオリアさんのお気に入りのシャンデリアだったのに」
「ラニにしては、雑な魔法だったわね」
あたしは腕を組んで言った。こうしてないと、ばくばくした心臓が飛び出しそうなんだもん。良かった。助かった。怖かった。
「だーれが雑だって?」
「い、痛い、痛い」
ぐりぐりと、こぶしで頭をはさまれる。振り返らなくてもわかった。このだみ声。ラニの双子の片割れ、ラミだ。
「爆発させたのは、ラミだよ」とラニが言う。教えてくれるのが遅いのよ。
「ごきげんよう、ラミ。今日も寒そうなかっこう」
ラミは黒いミニスカートとタンクトップ姿で、青いバラのタトゥーが施された細い手足をおしげもなくさらしている。龍姫より薄着だけど、なんでか、龍姫みたいに下品には見えない。短く切り揃えられた焦げ茶色の髪が、かっこよく見えるせいかも。なにより、こういうスタイルはラミに似合ってる。
「で、なんでシャンデリアの紐が切れてんだ?」
「それは……」
あたしとトニーは顔を見合わせる。
ラミの疑いたっぷりの視線で、わかった。バレてる。怒られるかな? パパたちに報告されるかな? 不安になっていると───、
「ま、おイタも程々にな?」
あたしの頭に手を置き、ラミはにっと笑った。気づいても、それがだめなことでも、自由にさせてくれる。だからラミが大好きだ。オトナだけど、あたしたちの仲間に入れてあげてもいい。
だけど、ラミはさめてるから。面倒ごとに関わるのはかんべんだって、誘いはすげなく断られてしまった。
シャンデリアにまったく気づかなかった危機感のうすい龍姫は、いつの間にかいなくなっていた。たぶん、いつものようにパパの執務室に向かったのだと思う。
0
お気に入りに追加
334
あなたにおすすめの小説
【完結済】姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです
鳴宮野々花@初書籍発売中【二度婚約破棄】
恋愛
王国の片田舎にある小さな町から、八歳の時に母方の縁戚であるエヴェリー伯爵家に引き取られたミシェル。彼女は伯爵一家に疎まれ、美しい髪を黒く染めて使用人として生活するよう強いられた。以来エヴェリー一家に虐げられて育つ。
十年後。ミシェルは同い年でエヴェリー伯爵家の一人娘であるパドマの婚約者に嵌められ、伯爵家を身一つで追い出されることに。ボロボロの格好で人気のない場所を彷徨っていたミシェルは、空腹のあまりふらつき倒れそうになる。
そこへ馬で通りがかった男性と、危うくぶつかりそうになり──────
※いつもの独自の世界のゆる設定なお話です。何もかもファンタジーです。よろしくお願いします。
※この作品はカクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェにも投稿しています。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
え?私、悪役令嬢だったんですか?まったく知りませんでした。
ゆずこしょう
恋愛
貴族院を歩いていると最近、遠くからひそひそ話す声が聞こえる。
ーーー「あの方が、まさか教科書を隠すなんて...」
ーーー「あの方が、ドロシー様のドレスを切り裂いたそうよ。」
ーーー「あの方が、足を引っかけたんですって。」
聞こえてくる声は今日もあの方のお話。
「あの方は今日も暇なのねぇ」そう思いながら今日も勉学、執務をこなすパトリシア・ジェード(16)
自分が噂のネタになっているなんてことは全く気付かず今日もいつも通りの生活をおくる。
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
婚約破棄の『めでたしめでたし』物語
サイトウさん
恋愛
必ず『その後は、国は栄え、2人は平和に暮らしました。めでたし、めでたし』で終わる乙女ゲームの世界に転生した主人公。
この物語は本当に『めでたしめでたし』で終わるのか!?
プロローグ、前編、中篇、後編の4話構成です。
貴族社会の恋愛話の為、恋愛要素は薄めです。ご期待している方はご注意下さい。
【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~
北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!**
「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」
侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。
「あなたの侍女になります」
「本気か?」
匿ってもらうだけの女になりたくない。
レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。
一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。
レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。
※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません)
※設定はゆるふわ。
※3万文字で終わります
※全話投稿済です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる