3 / 22
3 敵情視察
しおりを挟む長旅の疲れを癒やすように、と龍姫は客室へと案内されていった。……っと、おとなしく見送ってる場合じゃない。あたしたちも、さっそく行動開始よ!
「トニー、敵情視察に行くわよ!」
「わーい!しさつ!しさつ!」
たぶん、トニーは"敵情視察"が何なのかわってないけど、ちゃんとあたしのあとをついてくる。
パパに一目惚れした龍姫は、これから全力で側室の座を奪いに来るだろう。あたしとトニーは彼女の望みを打ち砕く戦士である。ママの幸せをまもるため───これは正義の戦いである。
先人たちは言っている。戦いに勝ちたければ、敵をよく知ること。敵の弱点をあぶりだし、的確な攻撃を展開し、確実な勝利を得るのだ!
ということで、まずは情報収集というわけ。
「気配を断つ魔法、使えるでしょ?」
「うん!」
「トニーのほうが得意だから、あたしにもかけて」
「いいよー!」
トニーはすらすらと呪文をとなえた。座学や実験はあたしのほうが得意だけど、実践魔法はトニーのほうが得意。トニーは感覚でコツをつかむのがうまいのだ。そのかわり、教えるのは壊滅的にへただけど。だけど問題ない。あたしたちは、双子。それぞれの欠点をおぎなえば、完璧な一人の人間になれる。あたしたちにできないことはない。
気配遮断の魔法をかけてもらうと、透明のベールに包まれたような感覚になる。なんだか、神聖な気分。
いざゆかん。敵は龍姫、客室にあり───!
「──ああ、ヴィ様、とっても素敵だった。あの熱く燃えるような赤い瞳。あの方の視線を独り占めにできたら、どんなにいいかしら」
龍姫は入浴中だった。あらわになった肌には、赤い鱗のようなものがついていた。まるでトカゲみたい。龍の国の民はドラゴンの末裔だって聞いてたけど、本当なのかも。
龍姫は全身鏡に向かってポーズをとりながら、自分の顔や体をしきりに褒めている。「この美貌を使えば魔王様もイチコロよ」なんて言いながら。
「きっと側室の座を手に入れてみせるわ。いいえ、側室だけじゃ満足できない。ゆくゆくは正室の座を手に入れる。そう、そして、ヴィ様との間に産まれた子どもを次の魔王にするのよ……!ああ、でもそうなると───あのクソガキどもが邪魔ね」
「クソガキ」
ばしゃん、とお湯がはねる。
「あ、やだ、ビクトリア姫じゃないですか」
あたしの呟きで、気配遮断の魔法が解けた。龍姫はあたしとトニーに気づいてあせっている。
「それはあたしたちのことかしら?」
「まさか!めっそうもない!」
「ねぇねぇ、トリー。このおばさん、誰と話してたの? ほかには誰もいないよ?」
「トニー。このおばさんは独り言を言ってたのよ。ずいぶん大きな独り言だったから、独り言に思えなかったけど、独り言だったの。話し相手がいないのね。かわいそうだからそっとしておいてあげましょ」
「わかったー!かわいそうだから、そっとする!」
「うぐっ……」
「お気をつけて、龍姫さま。壁に耳あり障子に目ありと言いますわ。軽い気持ちで放った一言が、文字通り、命取りになるかも」
「ご、ご忠告、痛みいりますわ……おほほほ……」
あたしとトニーは自分たちのへやに戻った。
「ねぇ、トリー。あのおばさん、ぼくたちのこと"クソガキ"って言った。ぼく、知ってるよ。これって、"暴言"ってやつなんでしょ。ぼく、許せない」
「ええ、トニー。もとより、許すつもりなんてないわ。あたしたちを馬鹿にしたこと、後悔させてやる」
「でも、どうやって?」
「ふふ、それはね───」
こそこそと、耳打ちする。きゃーっと、トニーは歓声を上げた。
「それすっごくいいね!」
「あたしたちの恐ろしさを思い知らせてやりましょう」
ふふ、ふふふ、とあたしたちは笑いあった。
0
お気に入りに追加
335
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

ええ。私もあなたの事が嫌いです。 それではさようなら。
月華
ファンタジー
皆さんはじめまして。月華です。はじめてなので至らない点もありますが良い点も悪い点も教えてくだされば光栄です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「エレンベール・オーラリー!貴様との婚約を破棄する!」…皆さんこんにちは。オーラリー公爵令嬢のエレンベールです。今日は王立学園の卒業パーティーなのですが、ここロンド王国の第二王子のラスク王子殿下が見たこともない女の人をエスコートしてパーティー会場に来られたらこんな事になりました。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!


魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

その国が滅びたのは
志位斗 茂家波
ファンタジー
3年前、ある事件が起こるその時まで、その国は栄えていた。
だがしかし、その事件以降あっという間に落ちぶれたが、一体どういうことなのだろうか?
それは、考え無しの婚約破棄によるものであったそうだ。
息抜き用婚約破棄物。全6話+オマケの予定。
作者の「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹が登場。というか、これをそっちの乗せたほうが良いんじゃないかと思い中。
誤字脱字があるかもしれません。ないように頑張ってますが、御指摘や改良点があれば受け付けます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる