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しおりを挟むひと山越えたリンは、仕事疲れの癒しを求めるように、図書室通いを再開した。
今日も今日とて、机上にフェイク用の本を置き、御手洗さんを観察している。そして、御手洗さんの手が空くと、すかさず話しかけに行く。あれだけ奥手だったのが嘘のように、いまではすんなり会話できるようだった。空いた席に座るおれに時々視線を走らせては、うまくいってると言うように、親指を立てて見せる。楽しそうでなによりだ。
自分から、富田太郎以外の話題も振れているようだし、根暗女子からは卒業かな。
……なんて思うには、まだ早かったようだ。
「御手洗さんがね、今日、どこかに出かけるみたいなの。お仕事、16時半に終わるみたいで、そこからすぐ出るみたい。だから、尾行するわよ」
リンの言葉に、おれは耳を疑った。
「尾行だって? やばいよ、それは」
だって、完全に、ストーカーの発想じゃん。
「しかたないのよ。だって、デートかもしれないじゃない。相手の女の顔、確かめなくちゃ」
かも、と言いつつ、リンはデートだと決めつけているようだ。色付きリップで唇を整え、鏡で前髪をチェックし、女の戦闘態勢に入っている。
一度こうと決めたリンに何を言っても聞く耳を持たないことは、学習済みだ。ここで「やめときなよ」なんてたたみ掛ければ、ブチ切れられる。
てことで、説得は諦めることにする。
だけど、これだけははっきりさせておかないと。
「あのさ、『尾行するわよ』って、おれの同行を前提にしてるみたいだけど、おれ、この学校に縛られた地縛霊なんだ。昇降口から外には出られない」
「あら、そんなこと?」
当然知ってるわ、と言わんばかりに頷いたリンは、学校かばんをあさりだす。出てきたのは、青いお札だ。赤い札と違って、怖くない。それどころか、魅力的に映る。
「なにこれ? すごい美味しそうなんだけど」
「これはね、地縛霊の依り代になるお札なの。このお札に乗り移れば、お札を持った私といっしょに、昇降口から外にも出られる」
はぁ、とおれは気後れする。
何でもありかよ、佐久間家。こわ。
お札に乗り移るのは簡単だった。この札に入りたい、と強く思えばいい。
お札の効果時間は、5時間ほど。効果が切れたら、おれの魂は強制的に学校に戻される。
「5時間もあれば十分よね」
こうして、放課後。リンは意気揚々と、おれを学校から連れ出した。
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