転生エルフさんは今日も惰眠を貪ります

白波ハクア

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第3章

無意識の攻撃?です

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 無事に神社巡りが終わり、私達は次の場所へ移動となりました。

 新たに追加した二人のうち、ウンディーネは空中をふわふわしているので問題はないのですが、ミリアさんを飛ばすことは流石に難しいですし、やれたとしても彼女からの苦情を聞くのは面倒臭いです。

 移動には人力車を使います。
 急に一人分増えるけれど大丈夫か? といった旨を説明すると、御者の方は快く承諾してくれました。


「子供が一人増えたところで変わりはしませんぜ!」


 と、嫌な顔一つせずに言ってくれたのはありがたかったのですが、ミリアさんの前で『子供』と言ったせいで、我らが魔王様は少しご機嫌斜めになってしまいました。

 まぁ、頭をポンポンしてあげたら、すぐに直りましたが……。



 ということで私とアカネが人力車に座り、ミリアさんは私の膝の上。ウンディーネは私に抱きつく格好となり、魔王軍御一行は次の目的地へと出発しました。



「それでアカネ。次はどこへ向かうのです?」

 今回のデート──もうデートではなくなってしまいましたが──は、全てアカネさんに任せっきりです。
 次はどこへ行くのかを何一つ聞いていない私は、そのように問いかけました。

「そろそろ腹も空いてきた頃かと思うのじゃ。良い店を予約しておいたので、そこに行こう」

「ご飯か!?」

 アカネさんの言葉に反応したのは、やはり魔王様でした。

 かなりお腹が空いているのでしょう。
 口からはじゅるりと、よだれが垂れていました。

 本人は気がついていないようですが、彼女を膝の上に乗せている私が汚れるのは嫌なので、ハンカチで口元を拭っておきます。

「ウンディーネ、ごめんなさいね。ただ見ているだけなんてつまらないでしょう?」

『ううん! みんなが楽しそうにしているのを見ているのも、すっごく楽しいよ……! それに、次からも一緒に居られるから、うちは嬉しいな。……えへへ』

「ミリアさんちょっと退いてください。私の膝の上にウンディーネを置きますので」

「なぁっ!? ちょ、それは酷いのだ! 余が先なのだから、ここは譲らぬぞ!」

『うちは、こうしているだけで……満足だよ。だから、あまりミリアちゃんをいじめないであげて?』

「わかりました。ウンディーネがそう言うのであれば、私も我慢しましょう」


 本当は抱きつかれるのではなく、こちらから抱きついてやりたいのですが、私ばかりがわがままを言うのも大人として問題があります。

 それに今はアカネさんの婚約者という立場にいるので、あまり過激なことはできませ──って、え? 手遅れ? ……何を言っているのかわかりませんねぇ。


「相変わらず、ウンディーネには甘々じゃな」

 アカネさんは怒ることなく、若干呆れつつも笑っていました。

 本当なら自分も混ざりたいという感情が、ビシビシと感じます。

 なのに我慢している。
 我慢できてしまうところがアカネさんの素敵なところであり、弱点でもあります。

「アカネも、甘えて良いのですよ?」

「何を言う。妾はそんなこと……」

「先程から羨ましそうに見つめているくせに、何を今更」

「~~~~っ!」

 正論をぶつけると、途端に耳が真っ赤に染まりました。
 ウンディーネが誰にも聞こえないように小さく『可愛い』と言っていましたが、耳の良い私はそれを聞かなかったことにします。


「アカネが照れているぞ!」

 ──はい、空気読めない魔王様が一人。
 指摘されたアカネさんは、首まで赤くしてしまいました。





「アカネ」





 婚約者の耳元まで顔を近づけ、囁くように名を呼びました。

「──今晩は二人きりです」

「ブフォッ!!!」

 アカネさんは吹き出し、咳き込みました。
 ……深い意味はなかったのですが、どうしたのでしょう?

 私は単純に、今晩も二人きりなので、その時になったら甘えてくださいと言っただけなのですが、言葉を上手く伝えるのは難しいですね。


『リフィ……今のはうちでも、ああなるよ……』


 どうやら先程の言葉は、ウンディーネにも聞こえていたようです。
 彼女が直接言われたわけではないのに、なぜかアカネさんと同じように首元まで赤く染め、両手で頬を押さえつけていました。

「…………?」

 唯一理解していないのは、ミリアさんだけです。


「なんですか。本当のことを言っただけなのに」

「それがダメなのじゃ!」
『それがダメなの!』

「お、おう……?」

 呆れたように呟くと、すかさず両側から言葉のダブルパンチを喰らいました。

 本当になんなのでしょう?
 マジでわからないので、誰か教えて欲しいです。


「…………?」

 ミリアさんは次の店に着く最後の時まで、首を傾げたままでした。
 …………もうあんたはそのままで居てくれと、私は内心そう願うのでした。

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