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第3章
エンカウントしました
しおりを挟む最初に連れて来られたのは、大きな神社です。
参拝の季節ではなくても、この神社は年中人で賑わっているとアカネさんは言っていました。
それほどご利益がある場所なのか、何か他に理由があるのか。
でも確かに、不思議な力は感じますね。
「ここに祀られている神は『輪廻転生』を司る神様とされている。死んだ魂がもう一度、この世界で生を受けられるよう……そして、また誰かと共に幸せな生活が出来るよう、皆は祈りを捧げる」
「ほう、輪廻転生ですか」
聞き覚えのある単語が出てきました。
──輪廻転生。
普通なら、本当にそんなことがあり得るのかと疑問に思うところですが、それに似たことを体験した私は、なぜかこの神社に信憑性を感じていました。
「リフィには、ちと関係がある神社かもしれぬな」
魔王軍の皆さんには、私が異世界からの『転生者』だということを話しています。
だからアカネさんは最初に、私をここへ連れて来たのでしょう。
「……そう、ですね。他人事とは思えないです」
そういえば、私をこの世界に送り込んだロリ神様は元気でしょうか。
こうしている時にも、また他の魂をこちらに送り込んでいるのか、それとも暇だから下界の様子を見ているのか……あの人のことですから、心配になって私のことを観察しているかもしれませんね。
もし次に会ったなら、エルフの件で面倒なことになったと、一言か二言くらい文句を言ってやります。
その時の反応を面白がっても、バチは当たらないでしょう。
「リフィ……?」
黙り込んだ私を心配したのか、気が付けばアカネさんの顔がすぐ近くまで迫っていました。
「何でもありません。……少し、その時のことを思い出していただけです」
「その時とは、転生した時のことか?」
「まぁ、そうですね」
正しく言うならば、転生する直前のことでしょうか。
「あの時は、まさかこんな生活を送ることになるとは思っていませんでした」
「ミリアが仕事をサボって森に行かなければ、リフィとはこうして出会っていなかったじゃろうなぁ……。もしそうなっていたならば、リフィは今もあの森でぬくぬくと眠り続けていたかもしれぬ」
「いや、それはどうでしょう」
アカネさんの言葉を、私は否定しました。
彼女は首を傾げ、少々驚いたようにこちらを見つめました。
「あそこでミリアさんと出会っていなかったとしても、何らかの形で私は皆さんと出会っていました。そして私は、みなさんと仲良くなり、アカネと夫婦になっていたでしょう。根拠はありませんが、私はそうだと思っています」
「そうじゃろうか?」
「ええ、そうです。それが運命というやつですよ」
そりゃもちろん、最初は私も抵抗するでしょう。
眠り続けたいのに、わざわざ魔王軍とかクソ面倒臭そうな場所に行ってたまるかと、全力で拒絶するでしょう。
でも、ミリアさんなら諦めずに誘い続けてくれる。最初から強引に、時には強引に、そして強引に、最後の手段で強引に……彼女らしい力づくな方法で誘い続け、私の方が諦めて魔王軍に所属することになる。
出会う場所、時間。
色々と異なっていても、最終的には同じ道を辿る。
……そんな気がするのです。
「運命、か……そうじゃな。妾達は運命で結ばれているならば、それは何よりも誇らしく、嬉しいことじゃ」
「それだけの絆があると、私も信じていますよ」
「じゃが、もし運命とやらに阻まれた場合はどうする? 妾達の誰かが居なくなることが運命なのだとしたら、妾達はどうすればいい?」
「ぶっ潰します」
「──はぇ?」
「ぶっ潰しますよ。そんな運命は糞食らえです。私が望まない運命は力づくで捩じ伏せてやります。そこから軌道修正すれば、それはそれでハッピーエンドではありませんか?」
チート能力とは、そういうものです。
それだけの力が私にあるかわかりませんが、運命を諦める理由にはなりません。
今はまだ、まぁ出来るでしょう……という楽観的なものでしかありません。
それでも仲間のために最後まで動くのが、『魔王軍』というものです。
「ふっ……リフィはわがままじゃな」
「わがままで結構。私は元からそういう性格なのです」
「確かにそうじゃな。普段は眠ってばかりで、仕事中なのにも関わらず居眠りを続け、挙句には護衛対象であるミリアを抱き枕にして眠り始める。自分から動こうとしないリフィに、妾達がどれだけ苦労していると思っているのじゃ?」
ニヤニヤと悪戯っぽく笑うアカネさんに、私は視線を泳がせました。
「ほらっ、いつまでも突っ立っていると邪魔になります。早くお参りしちゃいましょう」
「逃げたか。流石はリフィじゃな」
「うっさいですよ」
手を繋ぎ、歩き出します。
お参りするには、最初にやることがあります。
それは、手を清めることです。
これにも順序がありますが、日本にも参拝の習慣はあったので、今更迷いはありません。
「……驚いた。手を清める順序も知っているとはな」
「元居た場所の文化と同じで幸いでした。……はい、ハンカチをどうぞ」
手を清めたら、ようやく鳥居を潜ります。
そこにも沢山の人が通っていましたが、皆さんお行儀よく右と左に分かれ、真ん中は誰も通ろうとしません。それには理由があります。
「真ん中は神様が通る場所と言われていますが、本当に神様は通っているんですかね」
「さぁ? 確かにそう言われておるが、普通の者からしたら神を認識出来ぬだろうし、神の方も普通の人間を装っていると思うからな。もしかしたら今この場にも紛れ込んでおるかもしれぬ」
「ははっ、流石にそれはないでしょう」
と話している時、トトトッと小走りで少女が横を抜けて行きました。
少女は誰も通っていない鳥居の真ん中を、堂々と潜ります。
──よくある光景です。
「あそこは神様が通る場所なんですよ」と教えたら、ほとんどの子供は「じゃあ自分も神様になる!」と言って真ん中を潜りたがります。
かくいう私も、小さかった頃は通りました。
あの子も同じなのでしょう。
……にしても、少し変わった子ですね。
和服なのには違いありませんが、改造しているのか他とはデザインが異なります。
というか和服の袖辺りが透けていません?
どのような生地で出来ているのでしょう?
雰囲気も他とは異なります。
影が薄いのに、一度認識したら目を離せない。
そんな不思議な感覚に陥りました。
妙な子供です。
背丈はミリアさんと同じか、それよりも少し小さいでしょうか?
「うむ! 久しぶりに来てみたが、わしの神社は大盛り上がりだな!」
少女はどこか偉そうに、胸を張って大声を上げていました。
……………………って、あれ?
「ふっふっふっ! やはり休日は下界巡りに限る!」
……………………なんか、聞いたことがある声ですね。
「あぁ! ロリ神だ!」
「だぁれがロリ神だ、この無礼者!」
ポンッと手を叩くと、少女は声を荒げて振り返りました。
「…………あ、」
「…………あ、」
見つめ合い、無言になります。
私、リフィ・ウィンド。
この度、神様とエンカウントしました。
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