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第2章
しばしの別れです
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「はぁ~。馬鹿みたいにでっかい木ですねぇ」
エルフの里が中心にしているのは、それはそれは巨大な木でした。
その巨木の名は『世界樹』というらしく、エルフ達にとっての御神木のようなものみたいです。ファンタジーマニアなら、鼻息を荒くさせて興奮するくらいの、有名な木ですね。
…………でも、どうしてかその世界樹は半分以上が枯れ果てていました。
それらの周りにはエルフが集まり、お祈りを捧げています。彼らの表情は暗く、皆口々に「救いを」だとか「世界樹の加護を」とか……まるでこの世の終わりみたいな雰囲気ですね。
私が知っている世界樹は、神に近い存在として崇められ、何事があっても干渉されない、エルフにとっての絶対な存在でした。でも、実際に世界樹は枯れている。
なんか、嫌な予感がしますが、まさか……ね。
「こっちだ」
と、私が世界樹を見ているのを横目に、ダインさんはさっさと歩いて行ってしまいます。
……あのような空気の読めない男が、女から嫌われるんですよ。
世の中の男性はよく覚えておいた方がいいですよ。絶対に。
「はぁ……」
私は溜め息をつきながら、ダインさんの背中を追いかけます。
心底面倒ですが、エルフの里に来てしまったのだから、今は彼に従っておいた方が身のためでしょう。
それに周りの目がうるさかったので、それらから逃げたいという思いもありました。
やはり外から誰かが来るのは珍しいのでしょう。それが同種族のエルフだとしても、ずっとここで暮らしているエルフは、私のことを奇異な視線で見つめて来ました。
でも、すぐ近くにいるのがダインさんだとわかると、その視線が少しだけ和らぐのです。
…………いや、和らぐ。というのは少し違うのでしょうか? どちらかというと視線を逸らされている感じですかね。
ダインさん、もしかして嫌われています? ざまぁ?
「…………なんだ」
私の視線を察知したのでしょう。
無表情に、でもどこか不機嫌そうに振り向かれました。
「いいえ、なんでもありませんよー」
ここで正直に話したら面倒なことになりそうなので、微笑み、適当にはぐらかします。
するとダインさんは「ふんっ」と鼻を鳴らして再び歩き出しました。
「…………ここだ」
「は?」
案内された場所は、里から少し離れた茂みの中。
「……あれ、ですか?」
私は指差し、疑問を口にします。
そこにあったのは、空中に浮遊する湾曲した空間でした。
ゲームで例えるのなら、『ワープポータル』でしょうか。入ったら別の場所に飛ばされそうな雰囲気が、その空間から感じられます。結界を生成していた歪な魔力とは別物ですが、特殊な魔法であることには変わりありません。
「あの先に、魔女の住処がある。リーフィア・ウィンドには、準備が整うまでそこで待っていてもらう」
──って、本当にワープポータルでしたか。
「ちなみに行き来することは?」
「出来ない。この術を操れるのは俺だけだ」
「つまり私は、今から隔離されるということですね」
「…………」
ダインさんは無言でした。
でも、それが何よりの答えです。
「危険はない。ただ広いだけの森が広がっている。好きに使うがいい」
「はぁ、そうですか」
「……さ、入れ」
隔離されるとわかっていて「はいわかりました」で入る人は、果たしているのでしょうか?
危険は無いと言われても、怪しさ満点です。
エルフの言うことなので、怪しさポイント倍増です。
……でもまぁ、ここで立ち竦んでいても何も始まらないので、大人しく従いますか。
「準備はどのくらい掛かりますか?」
「一ヶ月ほどだ」
「長いですね」
「仕方ないだろう。神聖な儀式というのは、そういうものだ」
神聖な儀式ですか。
一体何の、とは教えてくれないのですね。
どうせそんなことだろうと思っていましたが、私に関係があるということは、魔女に関しての儀式なのでしょう。
「……まぁいいです」
うじうじ考えていても、何もわかりません。だったら流れに乗っておくのが一番効率が良いでしょう。
『ウンディーネ。貴女は念のため、こっちに残ってください』
『本当に大丈夫?』
『エルフにとって重要な役割である魔女に、彼らも危害は加えられないでしょう。だから大丈夫だと思います』
『……わかった。でも、気をつけてね』
『ええ、わかっています』
念話が途切れると同時に、ウンディーネの魔力が離れるのを感じました。
それを確認した後、私はワープポータルに近づき、片手を謎の空間に突っ込みました。
反応は…………普通ですね。向こう側で嫌な空気は感じられません。
「一週間ごとに食料を送る。何が食べたい」
「肉で」
即答したら、ダインさんは微妙な顔をしました。
「…………エルフはあまり肉を食べない」
「いいえ、肉で」
「…………わかった。肉を多めに送ることにしよう」
会話が途切れたところで、ダインさんは「さっさと行け」と視線で促しました。
…………はぁ……行きますか。
「では、一ヶ月後に会いましょう」
私は躊躇うことをせず、中に入りました。
空気が一瞬にして切り替わり、目を開くとそこには別空間が広がっていました。
森なのには変わりありませんが、エルフの里周辺にある森ではありません。
空気は美味しいままですが、辺りに漂う魔力が異常に濃いです。ここまで濃厚だと魔物が湧いていてもおかしくないのですが、不思議と魔物の反応は一切感じられません。
「…………まるで創られた。そんな雰囲気ですね」
魔物だけではなく他の生命体の反応すらないのは、はっきり言って不気味でした。
「でもまぁ、関係ありませんね」
私は辺りを見回します。
ダインさんは魔女の住処があると言っていましたが、それらしきものは見当たりません。
……もう少し歩けば辿り着けるのでしょうか?
「…………ふむ」
私は『アイテムボックス』から布団を取り出し、地面に敷きました。
……え? 家に行かないのかって?
いやいや、歩くの面倒ですってば。
「……んしょ、っと……」
私は体の汚れを『浄化』してから、布団に潜りました。
一週間後に食料が送られてくる。でしたっけ? それまではゆっくりと眠ることにしましょう。
「では、おやすみなさい」
瞼を閉じた私の意識は、一瞬で夢の中へと落ちていくのでした。
エルフの里が中心にしているのは、それはそれは巨大な木でした。
その巨木の名は『世界樹』というらしく、エルフ達にとっての御神木のようなものみたいです。ファンタジーマニアなら、鼻息を荒くさせて興奮するくらいの、有名な木ですね。
…………でも、どうしてかその世界樹は半分以上が枯れ果てていました。
それらの周りにはエルフが集まり、お祈りを捧げています。彼らの表情は暗く、皆口々に「救いを」だとか「世界樹の加護を」とか……まるでこの世の終わりみたいな雰囲気ですね。
私が知っている世界樹は、神に近い存在として崇められ、何事があっても干渉されない、エルフにとっての絶対な存在でした。でも、実際に世界樹は枯れている。
なんか、嫌な予感がしますが、まさか……ね。
「こっちだ」
と、私が世界樹を見ているのを横目に、ダインさんはさっさと歩いて行ってしまいます。
……あのような空気の読めない男が、女から嫌われるんですよ。
世の中の男性はよく覚えておいた方がいいですよ。絶対に。
「はぁ……」
私は溜め息をつきながら、ダインさんの背中を追いかけます。
心底面倒ですが、エルフの里に来てしまったのだから、今は彼に従っておいた方が身のためでしょう。
それに周りの目がうるさかったので、それらから逃げたいという思いもありました。
やはり外から誰かが来るのは珍しいのでしょう。それが同種族のエルフだとしても、ずっとここで暮らしているエルフは、私のことを奇異な視線で見つめて来ました。
でも、すぐ近くにいるのがダインさんだとわかると、その視線が少しだけ和らぐのです。
…………いや、和らぐ。というのは少し違うのでしょうか? どちらかというと視線を逸らされている感じですかね。
ダインさん、もしかして嫌われています? ざまぁ?
「…………なんだ」
私の視線を察知したのでしょう。
無表情に、でもどこか不機嫌そうに振り向かれました。
「いいえ、なんでもありませんよー」
ここで正直に話したら面倒なことになりそうなので、微笑み、適当にはぐらかします。
するとダインさんは「ふんっ」と鼻を鳴らして再び歩き出しました。
「…………ここだ」
「は?」
案内された場所は、里から少し離れた茂みの中。
「……あれ、ですか?」
私は指差し、疑問を口にします。
そこにあったのは、空中に浮遊する湾曲した空間でした。
ゲームで例えるのなら、『ワープポータル』でしょうか。入ったら別の場所に飛ばされそうな雰囲気が、その空間から感じられます。結界を生成していた歪な魔力とは別物ですが、特殊な魔法であることには変わりありません。
「あの先に、魔女の住処がある。リーフィア・ウィンドには、準備が整うまでそこで待っていてもらう」
──って、本当にワープポータルでしたか。
「ちなみに行き来することは?」
「出来ない。この術を操れるのは俺だけだ」
「つまり私は、今から隔離されるということですね」
「…………」
ダインさんは無言でした。
でも、それが何よりの答えです。
「危険はない。ただ広いだけの森が広がっている。好きに使うがいい」
「はぁ、そうですか」
「……さ、入れ」
隔離されるとわかっていて「はいわかりました」で入る人は、果たしているのでしょうか?
危険は無いと言われても、怪しさ満点です。
エルフの言うことなので、怪しさポイント倍増です。
……でもまぁ、ここで立ち竦んでいても何も始まらないので、大人しく従いますか。
「準備はどのくらい掛かりますか?」
「一ヶ月ほどだ」
「長いですね」
「仕方ないだろう。神聖な儀式というのは、そういうものだ」
神聖な儀式ですか。
一体何の、とは教えてくれないのですね。
どうせそんなことだろうと思っていましたが、私に関係があるということは、魔女に関しての儀式なのでしょう。
「……まぁいいです」
うじうじ考えていても、何もわかりません。だったら流れに乗っておくのが一番効率が良いでしょう。
『ウンディーネ。貴女は念のため、こっちに残ってください』
『本当に大丈夫?』
『エルフにとって重要な役割である魔女に、彼らも危害は加えられないでしょう。だから大丈夫だと思います』
『……わかった。でも、気をつけてね』
『ええ、わかっています』
念話が途切れると同時に、ウンディーネの魔力が離れるのを感じました。
それを確認した後、私はワープポータルに近づき、片手を謎の空間に突っ込みました。
反応は…………普通ですね。向こう側で嫌な空気は感じられません。
「一週間ごとに食料を送る。何が食べたい」
「肉で」
即答したら、ダインさんは微妙な顔をしました。
「…………エルフはあまり肉を食べない」
「いいえ、肉で」
「…………わかった。肉を多めに送ることにしよう」
会話が途切れたところで、ダインさんは「さっさと行け」と視線で促しました。
…………はぁ……行きますか。
「では、一ヶ月後に会いましょう」
私は躊躇うことをせず、中に入りました。
空気が一瞬にして切り替わり、目を開くとそこには別空間が広がっていました。
森なのには変わりありませんが、エルフの里周辺にある森ではありません。
空気は美味しいままですが、辺りに漂う魔力が異常に濃いです。ここまで濃厚だと魔物が湧いていてもおかしくないのですが、不思議と魔物の反応は一切感じられません。
「…………まるで創られた。そんな雰囲気ですね」
魔物だけではなく他の生命体の反応すらないのは、はっきり言って不気味でした。
「でもまぁ、関係ありませんね」
私は辺りを見回します。
ダインさんは魔女の住処があると言っていましたが、それらしきものは見当たりません。
……もう少し歩けば辿り着けるのでしょうか?
「…………ふむ」
私は『アイテムボックス』から布団を取り出し、地面に敷きました。
……え? 家に行かないのかって?
いやいや、歩くの面倒ですってば。
「……んしょ、っと……」
私は体の汚れを『浄化』してから、布団に潜りました。
一週間後に食料が送られてくる。でしたっけ? それまではゆっくりと眠ることにしましょう。
「では、おやすみなさい」
瞼を閉じた私の意識は、一瞬で夢の中へと落ちていくのでした。
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