上 下
102 / 233
第2章

拉致られました(3回目です)

しおりを挟む
 それはいつも通りののことでした。

 スヤスヤと自室のベッドで眠っていた私は、ふと感じた変な視線に目を覚まします。
 ……最近、エルフのことがあってから誰かの視線には敏感になって来ました。

「……………………は……?」

 目を擦りながらゆっくりと体を起き上がらせると、そこは私の部屋ではなく、ほぼ何もない殺風景な訓練場のド真ん中に私は居ました。

 予想もしなかった光景に、私は何が起こったのかを考え…………再び布団に潜り込みました。

「夢なーらばどーれほど、よかったでしょう……すやぁ」

「寝るなぁ!!!!」

「おっと、危ない」

 私は素早さを活かして布団を即座に『アイテムボックス』に収納し、その場から大きく飛び退きました。
 その一瞬後に私の居た場所に衝撃が舞い降りて、訓練場に砂埃が巻き起こります。

「んーー、もう邪魔……」

 視界の邪魔なので適当に風を巻き起こし、砂埃をどこかに飛ばしました。

「…………で、何するんですか──ミリアさん」

 私に飛び蹴りを喰らわせようと降って来たのは、ミリアさんでした。

 ……まぁ、寝ている間に連れ去られたことを考えると、どうせこの人が犯人だろうなぁと予想は付いていました。

 以前に似たようなことがあったため、寝る前に扉を入念に強化したのですが……今置かれてている状況を鑑みるに、どうやら意味は無かったらしいですね。

「ふっふっふっ、リーフィア! 余はお前に決闘を申し込む!」

「え、嫌ですけど」

 かっこよく決めポーズを取ったミリアさんは、その体勢のままコケました。

「──もっと何かあるだろう!?」

「え、お断りします」

 立ち上がってこちらを指差したミリアさんは、再びその体勢のままコケました。

「こう、なんか……こう……!」

「うっさいですねぇ。こっちは寝起きなんですから、もう少し静かに出来ないのですか?」

「あ、すまん──って、ちがーーーーう!」

「いやうるさっ」

 うーん、一向に話が進みませんね。

 どうして私はここに居るのか。
 どうして私はミリアさんに決闘を申し込まれたのか。

「というか三回目ですよ三回目。この数字がわかりますか?」

「い、いや……?」

「私を拉致した回数です。上司がそう簡単に部下を拉致して良いと思っているのですか?」

「……いや、そこは本当にすまん」

「すまんで済まされるのなら警察はいらないんですよ」

「警察……というのはあまりわからんが、兵士ならば余の配下だぞ?」

「……そうでした」

 ここの兵士の誰もがミリアさんラブなんですけど、法を取り締まる警察……もとい兵士がこれって…………案外この国終わってません?


「──やぁ、リーフィア。おはよう」

 気楽に手を振りながらゲートからやって来たのは、ヴィエラさんでした。
 ミリアさんのターゲットが私に向いていることに安心しているのか、どこか晴れやかな微笑みなのが無性にムカつきます。

「というわけで、ミリア様の相手をお願いするよ」

「何が、というわけで何ですか。意味わかりませんし、嫌なんですけど」

 どうしてでしょうね。私は嫌だと言っているのに、誰もそれを意識してくれません。

 ……うーん、言葉が通じなくなりましたか?
 言語理解は問題なく機能しているはずですが、おかしいですねぇ。

「まず、決闘をするに至った経緯を話していただけますか?」

「うん。それはね……」

 どうやらミリアさんは、私と兵士達の決闘を見た時から体を動かしたいと思っていたようです。ちょうどエルフの件で気を引き締める必要もあったし、いつまでも事務処理をしていたら腕が鈍ってしまうということで、私との決闘を強制的に……ええ、強制的に組み込まれたらしいです。

 でも、私がそれを聞いて素直に頷くわけがない。
 そこで諦めてくれたら嬉しかったのですが、現実はそこまで甘いわけがなく、どうするかと悩んだ結果、ミリアさんはふと思いついたようにこう言ったそうです。


「そうだ。拉致ろう」


 素直にぶん殴ろうかと思いました。
 私に影響されたのは別にいいのですが、そのことで私が巻き込まれるのは迷惑甚だしいですね。

「で、ミリアさんはあんなにやる気なんですね」

 横目にミリアさんを見ると、彼女は意気揚々とシャドウボクシングをしていました。無駄に型が出来ているのがムカつくので、やっぱり殴って良いですかね?

 ああ、これから決闘をするのでした。
 …………よし、殴りましょう。どうせ逃げられない運命なのです。決闘です。一発くらい殴らないと気が済みません。

「お! なんだリーフィアもやる気ではないか!」

「ええ、今しがたやる気が湧いて来ました」

「そうかそうか! では遠慮なく決闘出来るな!」

 ミリアさんは腰に手を当て、豪快に笑います。
 そんなに私と戦うのが楽しみですか。そうですか。

「リーフィアと出会ったのは、あのヴィジルの森だったな。そこで余はお前に負けた。──だが! あれは油断していたのが敗北の原因だ。もう油断しない! 今こそ魔王の威厳を取り戻してやるんだ!」

「……なるほど。それが目的ですか」

 確か最近のミリアさんは魔王らしくありませんでした。……というか、魔王らしさが全くありませんでした。

 ここで挽回をしないと『馬鹿で大食いなお子様』という印象が定着してしまいます。もう時すでに遅しな気がしますが、それを言ってしまったら可哀想なので黙っておきましょう。

「あ、あの……リーフィア? 一応言っておくけど程々にお願いするよ? あの人、あれでも魔王だから。怪我されると困る」

「わかっています。ちょっとわがままな魔王様にお仕置きするだけなので」

「本当に大丈夫かなぁ……」

 ヴィエラさんは心配そうにしていますが、私だってそこら辺は弁えています。

「あ、私が勝ったら報酬をもらいますよ。休日二週間。これでどうです」

「緊急時は動いてもらうけれど、それで良い?」

「そこは仕方ありませんね」

 エルフは今一番警戒する必要があります。
 緊急時というのは、つまりそういうことでしょう。

「それじゃあ、ルール説明を始めるよ」

 ルールその1。
 片方が負けを認めるまで決闘は続く。

 ルールその2。
 命の危険があるような攻撃はしないこと。

 ルールその3。
 特になし!

 最後は言う必要あったのか気になりましたが、まぁいいでしょう。
 とにかく、どっちかが負けを認めるまで決闘は続き、致命傷を与えるのは禁止。とても簡単なルールですね。

「両者準備は良いかな?」

 この訓練場には私とミリアさん、ヴィエラさんの三人のみです。
 兵士の姿は見えず、どこかで訓練でもしているのでしょう。

 なので、好き勝手暴れることが出来ます。


「では──始め!」


 決闘の火蓋は切って落とされました。
しおりを挟む
感想 247

あなたにおすすめの小説

異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜

トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦 ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが 突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして 子供の身代わりに車にはねられてしまう

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。 【あらすじ】 イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。 しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。 ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。 そんな一家はむしろ互いに愛情過多。 あてられた周りだけ食傷気味。 「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」 なんて養女は言う。 今の所、魔法を使った事ないんですけどね。 ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。 僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。 一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。 生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。 でもスローなライフは無理っぽい。 __そんなお話。 ※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。 ※他サイトでも掲載中。 ※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。 ※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。 ※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。

【超不定期更新】アラフォー女は異世界転生したのでのんびりスローライフしたい!

猫石
ファンタジー
目が覚めたら、人間と、獣人(けものびと)と鳥人(とりびと)と花樹人(はなきひと)が暮らす世界でした。 離婚後、おいしいお菓子と愛猫だけが心の癒しだったアラフォー女は、どうか自分を愛してくれる人が現れますようにと願って眠る。 そうして起きたら、ここはどこよっ! なんだかでっかい水晶の前で、「ご褒美」に、お前の願いをかなえてあ~げるなんて軽いノリで転生させてくれたでっかい水晶の塊にしか見えないって言うかまさにそれな神様。 たどり着いた先は、いろんな種族行きかう王都要塞・ルフォートフォーマ。 前世の経験を頼りに、スローライフ(?)を送りたいと願う お話 ★オリジナルのファンタジーですが、かなりまったり進行になっています。 設定は緩いですが、暖かく見ていただけると嬉しいです。 ★誤字脱字、誤変換等多く、また矛盾してるところもあり、現在鋭意修正中です。 今後もそれらが撲滅できるように務めて頑張ります。 ★豆腐メンタルですのであまめがいいですが、ご感想いただけると豆腐、頑張って進化・更新しますので、いただけると嬉しいです、小躍りします! ★小説家になろう 様へも投稿はじめました。

理由あり聖女の癒やしの湯 偽物認定されて処刑直前に逃げ出した聖女。隣国で温泉宿の若女将になる

でがらし3号
ファンタジー
万病に効く名湯!  最果ての地、魔の大樹海に近い辺境のひなびた温泉宿の湯に浸かればどんな身体の不調も立ち所に治ってしまうと噂になっている。  だがその温泉宿『一角竜』の若女将、エマには秘密が有る。  エマの正体は、隣国で偽聖女として断罪されたスカーレット。  だがスカーレットを本物の聖女だと信じて疑わない者達によって、処刑直前に逃される。  他人の身分証を得たスカーレットは名前を改め、忠誠を誓う侍女と共に国外に逃亡する。  そして逃げた先の隣国で、辺境の温泉宿屋の若女将としてスローライフを満喫しつつ、客の持ち込むトラブルに奮闘する。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

嫌われ賢者の一番弟子 ~師匠から教わった武術と魔術、世間では非常識らしいですよ!?~

草乃葉オウル
ファンタジー
かつて武術と魔術の双方において最強と呼ばれた賢者がいた。 しかし、賢者はその圧倒的な才能と野心家な性格をうとまれ歴史の表舞台から姿を消す。 それから時は流れ、賢者の名が忘れ去られた時代。 辺境の地から一人の少女が自由騎士学園に入学するために旅立った。 彼女の名はデシル。最強賢者が『私にできたことは全てできて当然よ』と言い聞かせ、そのほとんどの技術を習得した自慢の一番弟子だ。 だが、他人とあまり触れあうことなく育てられたデシルは『自分にできることなんてみんなできて当然』だと勘違いをしていた! 解き放たれた最強一番弟子の常識外れな学園生活が始まる!

転生幼女が魔法無双で素材を集めて物作り&ほのぼの天気予報ライフ 「あたし『お天気キャスター』になるの! 願ったのは『大魔術師』じゃないの!」

なつきコイン
ファンタジー
転生者の幼女レイニィは、女神から現代知識を異世界に広めることの引き換えに、なりたかった『お天気キャスター』になるため、加護と仮職(プレジョブ)を授かった。 授かった加護は、前世の記憶(異世界)、魔力無限、自己再生 そして、仮職(プレジョブ)は『大魔術師(仮)』 仮職が『お天気キャスター』でなかったことにショックを受けるが、まだ仮職だ。『お天気キャスター』の職を得るため、努力を重ねることにした。 魔術の勉強や試練の達成、同時に気象観測もしようとしたが、この世界、肝心の観測器具が温度計すらなかった。なければどうする。作るしかないでしょう。 常識外れの魔法を駆使し、蟻の化け物やスライムを狩り、素材を集めて観測器具を作っていく。 ほのぼの家族と周りのみんなに助けられ、レイニィは『お天気キャスター』目指して、今日も頑張る。時々は頑張り過ぎちゃうけど、それはご愛敬だ。 カクヨム、小説家になろう、ノベルアップ+、Novelism、ノベルバ、アルファポリス、に公開中 タイトルを 「転生したって、あたし『お天気キャスター』になるの! そう女神様にお願いしたのに、なぜ『大魔術師(仮)』?!」 から変更しました。

処理中です...