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第2章

やって来ました

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 魔王城から家出した私は、ウンディーネと初めて出会った泉まで来ていました。

「やはり、ここは空気が綺麗です」

 それはウンディーネが頑張ってここを守っている証拠なのでしょう。
 ただ居るだけでは、ここまで自然も生き生きしていません。

 流石は私の契約精霊ですね。

『……なんか。恥ずかしいな……』

「何を恥ずかしがることがありますか。あなたは頑張っているのですから、もっと胸を張っていいのですよ?」

『でも、うぅ……ありがとう』

 褒められて顔を真っ赤にしているウンディーネ。声はとても弱々しく今にも消えてしまいそうでしたが、確かに私の耳には感謝の言葉が聞こえました。

 私はそれに頷きます。

「さて、と……」

 私は布団を取り出します。
 それを泉の横に敷き、横になりました。

「今日は疲れました。私は寝ますね」

『あ、うん……おやすみなさい』

「…………ふふっ……」

『ど、どうしたの? ……いきなり笑い出して』

「……いえ、昔と変わったなぁと思いまして」

 ウンディーネと契約した時は、いつまでも眠っていることに驚かれたものです。ですが、今ではそれも当たり前のように受け入れてもらえています。
 あの時のことが懐かしくて、つい笑ってしまいました。

「それだけです。……では、おやすみなさい」

 魔王城からここまで歩くのに疲れていたのでしょう。
 睡魔はすぐにやって来ました。
 私はそれに抗うことをせず、ゆっくりと瞼を閉じるのでした。



          ◆◇◆



 眠り続けて一日が経ったでしょうか。
 誰にも邪魔されず、穏やかに眠れるというのは素晴らしいものです。

 あれからミリアさん達はこちらに来ていません。
 私が今どこに居るかの予想は付いているのでしょう。
 ですが、一向に来ようとはしない。

 おそらく私が怒って家出した……と思っているのでしょうか?
 それは大きな勘違いです。というかあの程度で怒るなんて、私どれだけ器が小さいと思われているのでしょうか。

 でもまぁ、それで安らかに眠れるのだから、私としては嬉しい限りです。
 今回のことを反省して睡眠妨害をしないようになっていただければ、もう最高ですね。

 ──そう、このまま誰にも邪魔されずに眠ることが出来れば、最高です。

「…………最高、なんですけどね」

 私はゆっくりと瞼を開きました。

『……リーフィア……』

「…………ええ、わかっています」

 ウンディーネも気が付いたのでしょう。
 警戒したように、辺りをキョロキョロと見渡しています。

「さて、お客様のお出ましですね」

 私は憂鬱気にそう言い、上半身を起き上がらせます。

「ったく、好き放題に睡眠出来ると思っていたのに……邪魔してくれちゃって」

 数名の反応が、ウンディーネの泉を囲むように潜んでいました。
 ですが、こちらからは姿が見えません。おそらく木の枝などに身を隠しているのでしょう。

「見えているのですよ。さっさと姿を現しなさい」

 これは警告でした。
 しかし、いつまで経っても姿を現しません。

 ……警戒心が強い方々ですね。

 今の警告も、姿をあぶり出すための嘘だと思っているのでしょうか。
 だったら仕方ありません。

『ウンディーネ。見えていますか?』

 彼らに気付かれないよう、私は『念話』で話しかけます。

『うん。ばっちりだよ』

『では──殺さないようお願いします』

『わかった……!』

 私達を囲んでいる数は、10人。
 少し多いですが問題はありません。

『リーフィアの邪魔しないで!』

 ウンディーネの魔力が一瞬だけ跳ね上がり、そして全てが静まります。
 遅れて周囲の木々からドサドサッと何かが落ちる音が聞こえました。そちらに視線を向けると、緑色の装束に身を包んだ人が倒れていました。

 その者の頭部を包むように、水の球体が浮かんでいます。
 それは私達を囲んでいた10名全てにありました。
 ウンディーネが平和的に気絶させたのです。

「よく出来ました」

 私はその者達を風で纏め、絶対に動けないようロープをキツめに巻き付けます。
 意識を取り戻して騒がれたら面倒なので、ついでに猿ぐつわも装着させました。

 これで、捕縛完了です。

『……リーフィア、この人達って……』

 潜むように現れた彼らを見て、ウンディーネが重々しく口を開きました。

 彼らには特徴がありました。

 ──太陽の木漏れ日に照らされて輝く金色の髪。
 ──人間とは違う三角の尖った耳。
 ──何度も、嫌になるほど見てきた特徴的な姿です。

 そう、彼らは…………

「エルフ。ですね」
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