上 下
61 / 233
第2章

遊びにも本気です

しおりを挟む
「さぁ、何をして遊ぶ!」

 ミリアさんに手を引かれ、やって来たのは魔王城の庭園でした。
 そこは大人数で駆け回っても十分なくらい、とても広い場所です。隅の方には長椅子が設置されており(私が設置させました)、天気の良い日にあそこで日向ぼっこをすると、とても気持ちよく眠ることが出来ます。

「…………」

 今日は晴天。
 その天気の良い日でもあります。

 ……ああ、睡眠の誘惑が私を……。

「おい待て」

 長椅子に誘われる私の腕を、ミリアさんがガシッと掴みます。

「遊ぶと言っているのに、何を早速寝ようとしておるのだ?」

「日光と長椅子の誘惑に負けるところでした……」

「お前、強いくせして本当にそれだけは弱いよな」

「まぁ……性分なので」

 眠りたいと思ったら眠る。
 それが私の掲げている志であり、絶対不変のルールです。

 ……と格好つけてみますが、ただ単純に眠いだけですね。

『ダメだよリーフィア……! 遊ぶって約束したんだから、約束は守らないと、だよ』

 ウンディーネが珍しく張り切っています。そのやる気を、主人である私が無下にするわけにはいきません。……張り切っているウンディーネを見るのも、十分に癒されますし。

「……お前、本当にウンディーネにだけは甘いよな」

「そうでしょうか? ……そうかもしれませんね」

 なんたってウンディーネは、この世界に来て初めて出会った私の友人なのです。甘やかすのは当然でしょう。

「余を甘やかしてくれても良いのだぞ?」

 ……上目遣いで何を言っているのですかね、この魔王は。

「あなたは十分甘やかされているでしょう。これ以上求めると、馬鹿になりますよ? ……っと、手遅れか」

「おい最後! 聞こえてるのだぞ!?」

「…………さぁ? 何を言っているのか、さっぱり」

「そこでとぼけるか!?」

「まぁ、細かいことは気にしない気にしない。それより、遊ぶなら早く遊びましょう? 時間は有限。このままお話も良いですが、それでは納得しないでしょう?」

 今は昼時。
 日が暮れても遊ぶとヴィエラさんが注意してきそうですし、夕飯もあります。
 そこがタイムリミットでしょう。

 私としてはそっちの方が疲れないので嬉しいのですが、ミリアさんとウンディーネは足りないと言いそうです。
 そうなれば明日も同じようなことを言われてしまいそうなので、このお子様方(精神のみ)を満足させなければなりません。

「今日はボール遊びをするぞ!」

「…………(ふっ)」

「なんか、今無性に馬鹿にされた気がする」

「いえ、ミリアさんらしいと思いますよ?」

 やはり、子供はボール遊びですよね。
 うん。良いと思いますよ。ボール遊び。

「でも、ボール遊びと言っても種類はあります。何をするのです?」

「この前ディアスに教えてもらった……『さっかー』だ!」

「ああ、サッカーですか」

『……? さっかーって、なぁに?』

 ウンディーネはサッカーについて何も知らないようです。
 わかっていたことですが、やはりこの世界と元の世界では、文化がちょっとだけ異なるようです。

 ミリアさんもディアスさんに教えてもらったと言っていますし、地球で流行っていた遊びは基本的に存在しないと思って良さそうです。

 ……あれ? これで金稼ぎできるんじゃね?

 と思ったそこのあなた。面倒なのでその役は任せます。

 そんなのを流行らせて儲けるよりも、私にとっては睡眠の方が大切ですからね。
 それに生活はこの魔王城で十分なので、これ以上稼ぐ必要もありませんし、意外と充実した生活なんですよねぇ、これ。
 うるさいのが玉に瑕たまにきずですけれど。

「まずはウンディーネにサッカーのルールを教えましょうか」

 と言っても私だってガチ勢ではありません。

 ボールを相手のゴールに入れる。
 手はゴールキーパー以外使えない。
 悪質な接触は禁止。

 オフサイドという言葉がありますが、それは説明が面倒です。別に教えなくても良いでしょう。
 それに今日は三人です。基本的なルールさえ守っていれば、後は適当で問題はありません。

「……と、このような遊びです。理解は出来ましたか?」

『うん……このボールを、蹴ればいいんだね?』

「はい。蹴ってゴールに入れる。そんな簡単な遊びです」

 昔、子供の頃の話ですが、休憩の時間に友達と遊んでいました。
 ルールだけを聞けばとても簡単な遊びですが、これが熱中すると奥が深い遊びでもあります。……まぁ、私は何かに熱中するということが子供の頃から皆無だったので、遊ぶとしても自分からはやりませんでした。

「チーム分けは、私。それとミリアさんとウンディーネの二人で良いでしょう」

「……ふむ、良いのか? それではリーフィアが不利では無いのか?」

「──ハンッ! こちとら数十年前からサッカー知っているのですよ。最近覚えた程度のお子様には負けません」

 私は挑発するようにそう言い、ちょいちょいと手を曲げてみせます。

 それがミリアさんのプライドに触れたのでしょう。
 こめかみをピクピクと動かし、ふっふっふっと不気味に笑います。

 ……気のせいでしょうか。
 彼女の背後には、黒い靄がかかっているように見えます。

 まぁ、だからどうしたって話ですが。

「ウンディーネ……やるぞ」

『えっと……うんっ! 頑張ろうね、ミリアちゃん!』

 お二人はやる気十分のようですね。

「どうせ遊ぶのです──本気でやって差し上げます」

 こう見えて私は、かなりの負けず嫌いです。

 人数差がある。
 相手は魔王と上位精霊。

 そんなの関係ありません。

 やるのなら、本気でやる。
 そしてその後、思うままに寝る。

「では、始めましょう」

 何処からともなく、試合開始のホイッスルが鳴ったような気がしました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役だった令嬢の美味しい日記

蕪 リタ
ファンタジー
 前世の妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生した主人公、実は悪役令嬢でした・・・・・・。え?そうなの?それなら破滅は避けたい!でも乙女ゲームなんてしたことない!妹には「悪役令嬢可愛い!!」と永遠聞かされただけ・・・・・・困った・・・・・・。  どれがフラグかなんてわかんないし、無視してもいいかなーって頭の片隅に仕舞い込み、あぁポテサラが食べたい・・・・・・と思考はどんどん食べ物へ。恋しい食べ物達を作っては食べ、作ってはあげて・・・・・・。あれ?いつのまにか、ヒロインともお友達になっちゃった。攻略対象達も設定とはなんだか違う?とヒロイン談。  なんだかんだで生きていける気がする?主人公が、豚汁騎士科生たちやダメダメ先生に懐かれたり。腹黒婚約者に赤面させられたと思ったら、自称ヒロインまで登場しちゃってうっかり魔王降臨しちゃったり・・・・・・。もうどうにでもなれ!とステキなお姉様方や本物の乙女ゲームヒロインたちとお菓子や食事楽しみながら、青春を謳歌するレティシアのお食事日記。 ※爵位や言葉遣いは、現実や他作者様の作品と異なります。 ※誤字脱字あるかもしれません。ごめんなさい。 ※戦闘シーンがあるので、R指定は念のためです。 ※カクヨムでも投稿してます。

鉱石令嬢~没落した悪役令嬢が炭鉱で一山当てるまでのお話~

甘味亭太丸
ファンタジー
石マニアをこじらせて鉱業系の会社に勤めていたアラサー研究員の末野いすずはふと気が付くと、暇つぶしでやっていたアプリ乙女ゲームの悪役令嬢マヘリアになっていた。しかも目覚めたタイミングは婚約解消。最悪なタイミングでの目覚め、もはや御家の没落は回避できない。このままでは破滅まっしぐら。何とか逃げ出したいすずがたどり着いたのは最底辺の墓場と揶揄される炭鉱。 彼女は前世の知識を元に、何より生き抜くために鉱山を掘り進め、鉄を作るのである。 これは生き残る為に山を掘る悪役令嬢の物語。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

処理中です...