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第2章

遊びの誘い

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 あれから一週間。

 私は相変わらず、ベッドで惰眠を貪っていました。
 隣にはウンディーネが横になり、おとなしく私の抱き枕となっています。

 彼女は精霊です。
 形を保つだけで契約者……つまり私ですね。そこから魔力を吸います。しかも上位精霊となれば、かなりの消耗です。
 勿論、ウンディーネはそれを心配していました。

 でも、私にとってはそんなものどうでもいいです。

「この抱き心地に比べれば、安い消費ですよねぇ……」

「うぅ……恥ずかしいよぉ」

 もう一週間も経つというのに、ウンディーネはこの恥ずかしさに慣れていないようです。
 そろそろ慣れていいのではないかと思うのですが、この子は超が付くほどの恥ずかしがり屋で、極度のあがり症です。いくらやっても慣れることはないのでしょうね。

 ──コンコンッ。

 でも、そんなウンディーネの恥ずかしがる姿も可愛いので、このままで良いとも思ってしまいます。
 なんか微笑ましくなるんですよねぇ……。これを母性というのでしょうか?

 ──コンコンッ!

 おそらく、ウンディーネがこの羞恥に慣れてしまったら、少し寂しくなるのでしょうね。
 ……ああ。想像しただけで哀愁感が。

 ──ドンッ!!

「り、リーフィア?」

「はい、なんですか?」

「誰か、来ているけれど……出なくて良いの?」

「はい、出なくて良いです」

 どうせろくなことではないでしょう。
 なので、絶対に出ません。出たくありません。

「でも──」

「出たらウンディーネを嫌いになります」

「絶対に出ない……!」

「よし」

「──よし、じゃなぁーーーーい!」

 ドカァンッ! という轟音。
 案の定、扉はぶち破られました。

「定番になっていますねぇ……いやぁ、勘弁して欲しいのですが?」

 私はベッドから起き上がり、扉を壊す常習犯に文句を言います。

「それで、何の用です? 遊びに来たんですか?」

「そうだ!」

 うっわ。言い切った。
 どうせ「違うわい!」と言われると思っていたのですが……これは予想外です。

 私はこめかみに手を当てます。

「子守なら他を当たってくれます?」

「誰が子守だ!」

 そこは予想通りに反論してきましたね。
 ……ですが、ミリアさんの遊び相手になる、イコール、子守では? と言ったら、また何か言われてしまいそうですね。

「お帰りください」

 私はそう言い、扉を…………ああ、壊されたのでしたね。

「──まぁ、遊んであげてくれ」

 そこで新たに登場したのは、ヴィエラさんです。
 彼女は困ったように、私に笑いかけてきます。……いや、そんな感じで笑われても心は動きませんよ?

「あなたが出てくるのは珍しいですね……それで、遊んであげてくれとは?」

「言葉の通りだよ。今日は珍しく早めに仕事が終わってね。暇になったミリア様は、君と遊びたいと言ったんだ。……ふっ、好かれているね」

「いや、これっぽっちも嬉しくないです」

「なぁ!?」

 ミリアさんは「そんな馬鹿な!」と言いたげに私を見つめますが、私はそれをあえて無視しました。面倒なので。

「ヴィエラさんも暇そうにしているのですから、彼女に遊んでもらえば良いではないですか」

「余はリーフィアが良いのだ!」

 そんなにはっきり言っちゃうんですね。
 ほら、ヴィエラさんが泣き出しそうな顔をしていますよ。こっちも少しだけ申し訳なくなります。

 ……にしても、本当に懐かれましたね。
 自分で言うのはなんですが、サボることしか考えていない私のどこが良いのでしょう。私が思いつく自分の良いところなんて『美人』という点だけですよ?

「とにかく面倒なので、お引き取りください」

「おおぅ……ついに面倒だとはっきり言いおったな」

「こうでも言わないと帰ってくれないでしょうから」

 だからほら帰った帰ったと、私はしっしっと手を振ります。

 すると、途端にシュンとなるミリアさん。

「リーフィアは、そんなに余のことが嫌いか?」

 うぐっ……そこで上目遣いはずるいですって。

「嫌いではありませんよ」

「……なら!」

「でも、それとこれとは別問題です」

 私はミリアさんのことが嫌いではありません、むしろここまで慕う相手はいないくらい、好きな部類だと言えるでしょう。
 ですが、私は眠りたいのです。それだけは邪魔することを許しません。それが例えミリアさんであろうとも、私の欲望だけは邪魔させません。

「リーフィア、うちは……遊んであげても良いと、思おうよ?」

「ウンディーネ……」

「これじゃあ、ミリアちゃんが、可哀想。ミリアちゃんの悲しい顔を見るのは、嫌だよ……」

 ミリアさんとウンディーネ。
 両方から挟まれ、私はたじろぎます。

「はぁ~~~~ぁ……わかった。わかりましたよ」

 私は長い溜め息の後、お手上げだと両手を挙げました。

「休暇、二日分ですからね」

「──うむ!」

 花が咲いたような笑顔を浮かべ、ミリアさんは一瞬にして上機嫌になります。

「ありがとな、リーフィア! ウンディーネ!」

「よかったねミリアちゃん!」

 二人は手を取り合って喜びます。

 ヴィエラさんはそれを見つめ、私に「それじゃあ、よろしく頼んだよ」と言って去って行きました。
 ……おそらく、彼女はまだ事務作業が残っていたのでしょう。それなのにミリアさんの遊び相手を頼むために来るなんて、あっちが一番ミリアさんのことを甘やかしていますよね。

「では、遊ぼう!」

 ミリアさんは私の手を取り、廊下を走り出しました。
 私はそれに従い、ウンディーネはその後ろを浮遊して追いかけます。


 ……予定外のことが起こってしまいました。
 でもまぁ……その代わりに二日分の休暇を頂けたので、今回はそれで良しとしましょう。
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