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第2章

つまり実力行使です

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「なぁリーフィア。ちょっと良いか?」

「…………ダメです」

 不意に声をかけてきた人物は、ディアスさんでした。
 話しかけられるとは思っていなかった私は、返答に少し遅れてしまいました。彼と私の接点はあまり無かったので、あちらから話しかけて来るのは珍しいことです。

 それでも拒否はしますけど。

「そんなに警戒しないでくれって」

 ディアスさんは困ったように笑いました。

「いえ、警戒なんてしていません」

 仲間に対して警戒するつもりはありません。
 勿論、怪しい動きをすればそうするでしょう。

 でも、ディアスさんの働きぶりは誰もが認めていますし、彼自身もミリアさんを裏切るようなことはしないと本心から思っているようです。ならば警戒は不要です。

「一応聞きますが、何の用です?」

「ああ、兵士についての頼みなんだが──」

「お断りします」

「……おいおい、二回も拒絶するか? 普通」

「ええ、勿論。面倒なことはしないと決めているので」

 兵士についてなんて、嫌な予感しかしません。
 絶対面倒なことです。絶対何らかの形で働かされます。そんなのにホイホイ引っ掛かりに行くほど、私は馬鹿ではないんですよ。

「まぁ、話を聞いてくれや」

 ディアスさんはそれでも話そうとします。
 ……わかってはいましたが、強引な人ですね。

「お前さん、魔王軍の兵士については知っているよな?」

「……ええ、私だって一応魔王軍の幹部やっているので、把握はしています」

 確か、今は千人の兵士が居るのでしたっけ?
 兵士にはいくつか部隊があって、各部隊ごとに隊長と副隊長が付けられている。そして、その全てを纏めているのがディアスさんです。

「実はな、兵士達から不満の声が上がっているんだ」

「はぁ……大変ですね」

 そう相槌を打ちながら、私の本能が囁き始めます。

 ──面倒なことになる前にこの場から逃げろ、と。

 酷く嫌な予感がします。それが何なのかはわかりませんが、とにかく嫌な予感を察知するレーダーがビンビンです。

 ですが、それは出来ません。
 眠っていたとはいえ、ここは執務室。中にはミリアさんとヴィエラさん、ディアスさん、アカネさんの四人が居ました。珍しいことに幹部全員が集まっている状況ですね。
 しかも、四人の視線は私に注がれており、監視されているような気分になりました。

 ……これ、ディアスさんが事前に、私を逃さないようにと、お三方に言ってありますね? 用意周到なことこの上ないですが、それが今私を良い具合に苦しめていました。

「その不満の声は、お前にだ。リーフィア」

「私、ですか?」

 それはまたどうして?
 視線でそう問いかけます。

「うちの魔王ってのは、案外人気者なんだ」

「……はぁ?」

 ……何でしょう。視界に写っていませんけれど、ミリアさんがドヤ顔をしているように感じます。

「お前にわかりやすく言えば、アイドルだな」

「ああ、なるほど? 見た目だけは可愛らしいから、男ばかりの兵士達には人気だと」

「まぁ、そういうことになる」

 端の方で「見た目だけとは何だおい!」という声と、それをなだめる声が聞こえるような気がしますが、とりあえず無視です。

「それで、ミリアさんの人気と、私への不満。何が関係しているのですか?」

 ただの嫉妬だったら、私は何も聞くつもりはありません。

「お前はミリアの護衛をしているだろう?」

「ええ、そうですね。……一応」

「しかし、それに問題があるんだ。お前の堕落癖は城の中でも有名でな。そんな奴に魔王様を任せるわけにはいかない! まだ自分たちの方が向いている! と言って聞かないんだ」

「…………あ~~~~、なるほど?」

 そう来ましたか。

 確かに仕事をするかしないかで逃走劇を何回もやっていたら、使用人達から噂が広がり、兵士の耳に届くのも仕方がないことです。ミリアさんをアイドルのように慕っている者達からすれば、そんなふざけた奴が護衛をしているなんて考えられないのでしょう。

 だったら自分達がやる。
 そう考えるのも納得です。

「では、私を護衛の任から外しますか? 仕事をしなくて済むのです。私は歓迎しますよ?」

「……だ、そうだが……どうするよ?」

 ディアスさんは振り向き、他の三人に問い掛けます。

「決まっているであろう。余はリーフィアを解任するつもりはない。こいつが余の護衛に一番相応しいからな」

「妾も同じじゃ。感覚が人一倍優れており、十分な実力が伴っているリーフィア以上に、護衛に優れている者など……ここにはおらぬよ」

「同意見だよ。リーフィアとの決闘で、私は圧倒的な差を見せ付けられた。悔しいけど、ミリア様をお守り出来るのは彼女しかいない」

 三人の意見は同じでした。

 信頼されているのはありがたいことなのですが、ハードルが高いですね。
 そしてここで反対意見が出て来てくれれば、私は本当の意味で『三食昼寝付きのニート生活』を送れるチャンスだったのに……少し残念です。

「んで、俺も同意見だ。あーだこーだ言いながらも、お前はちゃんと功績を持って来てくれる。信頼するのは十分だろうよ」

 ほう、ディアスさんが誰かを褒めるなんて珍しい。

「だがな。兵士はそれじゃあ納得しないんだ」

「……まぁ、そうでしょうね」

 いくら上の者が私のことを信頼していると言っても、それを知らない兵士からすればどうでもいいことです。納得するわけがありませんよね。

「では、どうするおつもりですか? こうして話を持ちかけて来たのです。何か策は考えているのでしょう?」

 問題を話して、さぁどうしましょう。では困ります。主に私が。
 こういう場合、やはり私の態度が問題なのでしょう。となれば私が考えなければなりません。……いやぁ、面倒にもほどがありますね。

「一番は、リーフィアが改めてくれれば簡単なんだが」

「そんなのするわけがないでしょう?」

 私は、私の好きなように生きる。それはミリアさんも了承してくれたことです。今更変えるつもりなんてありません。それをしろと強要されるのであれば、私はウンディーネとあの森で隠居します。

「ま、そう言われるのはわかっていたさ」

 ですが、流石ディアスさん。その程度のことは理解していました。

「だから俺が頼みたいのは──実力行使だ」

「はぁ……そうですか」

「兵士が求めているのは、護衛の資格。つまり、護衛と務められるだけの実力だ。お前がそれに相応しいと見せつけてやれば、奴らは納得するはずだよな?」

「はぁ……そうですね」

「だからお前は、兵士全員を相手にしてくれ」

 うっわ。もしかして、今めちゃくちゃ面倒なことを言われました?

「ついでだ。奴らの根性も叩き直してくれや」

「えぇ……? 私はか弱い女の子ですよ? そんなの出来るわけ──」

「やってくれたら、緊急時を除いて二週間の休みを与えると話を聞いている」

「やりましょう」

 魔王軍の兵士を叩きのめしただけで二週間も休める?
 そんなのやるに決まっています。全く、楽な仕事があったものですね。

 あっはっはっ……って、最近こういうの多くありません?
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