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第1章

久しぶりに苛々しました

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 街中の探索を終え、私達は王城へと戻っていました。

 その間、襲撃を仕掛けてきた暗殺者の数は、27人。
 よくぞこんな数を用意しましたね。
 おそらく、国が抱えている暗殺者を全員投下したのでは?

 ──と思った私がいました。

「ですが、現実はそう甘くないんですよねぇ……」
「──ん? 何のことだ?」
「いいえ、何でもありませんよー」

 王城へ戻った私達を待っていたのは、隠すことを諦めた阿呆達の歓迎襲撃でした。
 むしろ、ここからが本番だと言いたげに、襲撃の回数が増しています。


 訓練で剣を振っていたら、勢いあまって手からすっぽ抜けてしまい、ミリアさんに一直線で飛んで来る剣。
 ──庭で訓練しないように注意しました。

 飛竜が上空にいたからと、飛んできた数本の槍。
 ──次は外さないでくださいねと言いました。

 侵入者だと勘違い(大嘘)した魔法使いが撃ち込んだ特大の魔法。
 ──魔王が来ていることを知らなかったんですね。

 見るからに怪しい地雷のプレゼント。
 ──茂みに潜んでいる人達に風で送り返してあげました。

 子供を装った暗殺者の接近。
 ──ミリアさんは風景に夢中だったので、私が対応しました。


 と、そんな感じで襲撃は苛烈になっています。
 そんな中、ミリアさんが放った衝撃の一言がこちら。

『人の国は賑やかだな!』

 もう何も言うまい。

 私は潔く諦めました。
 アカネさんも常に警戒して疲れているのか、溜め息の回数が増えていました。

「そろそろ疲れました。部屋に戻りましょう」
「もう疲れたのか? 余はまだ……」
「ミリア、妾も少し疲れた。リフィの言う通り、部屋に戻ろう」
「ぬぅ……二人がそう言うなら……仕方ない。余がわがままをいう訳にはいかないからな」
「いつも言っているじゃないですか」
「何か言ったか?」
「……いえ、何でも」

 とにかく、一度部屋に戻れば襲撃も収まるはずです。

 平然を装いつつ、私達は城の中に入ります。
 途中、何度か兵士とすれ違いましたが、流石に真正面から斬りかかってくることはして来ませんでした。
 ただ感情は隠そうとせず、憎たらしげに魔王を睨んでいます。

 ……ちょっと、イラっとしました。

 友好を築くと騙してミリアさん達を呼び、隠すことなく襲撃を仕掛ける。
 王は、自分の国を何だと思っているのでしょう。
 街中で暗殺者を放ち、城内ではやりたい放題。

 市民に迷惑をかけるとは思っていないのでしょうか?
 襲撃がミリアさんにバレて、国が危機に晒されえるとは思っていないのでしょうか?

 ……まぁ、私がどう言っても王様は変わらないでしょう。

 彼が本当にどうしようもないボロを出すまで、私はミリアさんを守るだけです。
 おそらく今日の夕刻、二回目の食事会でそれは起こります。
 そこが王と側近達にとって、最後のチャンスだからです。どんな手段を使ってでも、あの人達はミリアさんを害そうとしてくることでしょう。

 アカネさんもそれを理解しているようです。
 ミリアさんは……うん、別に知らなくても大丈夫でしょう。

「ダーイブ!」

 部屋に戻り、ミリアさんは真っ先にベッドへダイブします。

「もふぅ……」

 私はその後に続き、横になります。
 ついでにミリアさんを抱き寄せ、抱き枕にします。

「アカネさん……私は寝ますぅ……」

 食事会まで、後2時間。
 それまでゆっくりと眠るとします。
 私は疲れたんで────

 コンコンッ。

「…………ん、んん……誰ですか、もう」

 微睡みに落ちようとしていたところで、誰かがドアをノックしました。

 アカネさんが見に行ってもいいのですが、ここは安全を考慮して私が行くことになっています。
 体を起こし、ドアを開きます。

「はいはーい……って古谷さんですか」
「やぁ、リフィさん」

 来客は剣の勇者、古谷さんでした。
 一体何の用でしょうか?

「丁度良かった。リフィさんに用があって来たんだ」
「私に、ですか? 何でしょう?」

 本音を言うと今すぐ寝たいのですが。

「王様がリフィさんを呼んでいるんだ。少し、一緒に来てくれないか?」
「え、嫌です」

 ガクッとコケる古谷さん。

 おっと、つい本音が出てしまいました。

「どうして王様が私を?」
「それはわからない。とにかく呼んでくれと言われただけだから」
「えぇ……無性に行きたくないんですけど」

 勇者に理由を述べず、ただ私を呼べと。
 本当に何でしょうね。

 そう考えていると、ドア付近で話している私達が気になったのか、ミリアさんが近づいて来ました。

「何だ、どうした──って、おお、誰かと思えば勇者ではないか!」
「こんにちはミリアさん」
「うむ、こんにちはだ! それで、こんな所でどうしたのだ?」
「どうやら、王様が私に用があるとかで、それを古谷さんが知らせに来たんですよ」
「……んん? わざわざ勇者を使ってか? 他の者に伝えれば良いだろう。どうしてそんな無駄なことを、ここの王はしているのだ?」

 おお……ミリアさんまさかのドストレートですか。
 でも、その通りです。勇者がこんな所で王様の雑用をしているのは、無駄としか言いようがありません。

 自分がしている雑用を無駄だと言われた古谷さんは、頬を掻いて困り顔です。

「俺がやっていることって、無駄……なのかな?」
「それはそうだろう。お前は勇者なのだぞ? 城で雑用をしていることが仕事ではない。旅に出て力を付け、魔物や我ら魔族と戦い、今も困っている人々を救う。それが勇者の仕事だろう? 実際、他の勇者は全て、仲間と共に旅に出ている。こんな場所でのんびりしているのは小町、お前だけだ」

 惜しい、古谷です。
 折角カッコいいことを言ったのに、全てが台無しになってしまいました。

 でも古谷さんには、しっかりとその言葉が届いたようです。
 真剣な表情になり、そして困ったように笑いました。

「それ、敵が言うことじゃないよね」
「そうか? だが、いつの時代も人と魔族はそうやって戦ってきた。余はいつでも正々堂々とお前らを待つぞ。…………あ、でも奇襲で魔族領に侵入して来るのだけは勘弁してくれ。それをやられると、民達の避難が間に合わないんだ」

 ミリアさんはこれでも、しっかりと民のことを第一に考えています。
 馬鹿な王でも、これの違いで尊敬するか否かで分かれるのでしょう。

「……前に、リフィさんにもこうやって説得されたよね」

 そうでしたっけ?
 ……ふむ、思い出してみれば、そんなことを言ったかもしれません。

「わかった。魔王にまで言われたら、仕方ない。俺も考えを改めるよ」
「うむ! そうした方がいいぞ!」
「…………それで、用件のことなんだけど」

 古谷さんが私を見つめます。
 それに釣られてミリアさんも視線を移します。

 ……はぁーーーーーー、わかりましたよ。わかりましたって。

「行きますよ。案内してください」
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