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第1章

勇者の現状を知りました

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 横幅がだだっ広い廊下を私と古谷さんは歩きます。
 いったいどのくらい歩いたでしょうか。絶対に一日に必要な運動量を超えていると思われる距離を、私は半分勇者に手を引かれる状態となりながら歩き続けていました。

「もう、無理……死ぬ……」

「頑張ってくれって。国王の待つ謁見の間まで後半分だよ」

「うぇえええ……」

 こんな会話も何度目でしょうか。
 歩くのが辛いので運んでくださいとお願いしても、彼は女性の体に気安く触れられないと断ります。
 どこの童貞ですかあなたは。という言葉は流石に控えましたが、そう思ったのは本心でした。

 だったらウンディーネを呼んで運んでもらおうかと思ったのですが、無駄に目立つのも嫌なので自粛しました。
 あの子ならば文句を言いながらもやってくれそうですけど。……というより、その考えがウンディーネにも伝わっていたのか、妙にやる気を出していました。いや、断りましたけどね。

 その時の残念そうな感情が私の中に滝のように流れ込んで来て、余計に私はテンションが下がってしまいました。
 だからこうして私達は、コントのようなことを何回も繰り返していました。
 古谷さんは僅かに面倒臭いという感情が混ざってきていましたが、それは私も負けていません。とても面倒臭いです。今すぐ回れ右をしてベッドにゴールインしたいくらいに面倒だと思っていました。

 なんで協力者程度の私が王様と謁見しなければならないのでしょうか。
 敵側の大ボスと初っ端から出会うのは、どのゲームでも無理ゲーが発生します。私はそれを回避したいのに、私の手を引くアホ勇者がそれを許してくれません。

 確かに最初は相手側との雰囲気が悪くなるのはうんたらかんたら言っていましたが、よくよく思えばめちゃくちゃ面倒なことに片足──それどころか両手両足を突っ込みかけていることに気が付きました。

 相手側の信頼? エルフの秘術?
 んなもんはどうでもいいんですよ。何よりも優先されるべきなのは、私の睡眠時間です。むしろそれ以外はいらないです。

 最悪屋根がなくとも、いい寝床があればそれで十分です。
 ……そう、ウンディーネのいる泉のような静かな場所がベストです。ああ、思い出すとあそこが恋しくなってきました。もういっそのこと泉に戻ってしまいましょうか。どうせすぐにミリアさんに連れ戻されるのがオチでしょうけどね。

「あの、台車とかありません? 私がそれに乗るので、古谷さんは押して運んでください」

「そのためだけに台車を用意するのは嫌だよ。それに、運んでいる途中に誰かと出会ったらどうするのさ。エルフを台車で運ぶ勇者って笑われるよ。君も変な目で見られるんだよ? 恥ずかしいだろ」

「大丈夫です。私は寝ているので恥ずかしいのは古谷さんだけです」

「余計に嫌だよ!」

 ──ちっ。
 ダメでしたか。ここで了承してくれたのなら、いい使用人認定してあげたのですが……古谷さんもまだまだですね。

「……なんか、失礼なことを思われている気がする」

「気のせいですよ」

「リフィさん、気のせいって言葉よく使うよね」

「……気のせいですよ」

 古谷さんがジッと見つめてくるのを、私はさりげなく視線をずらし、視界から彼を除外しました。
 どうしてそういうところは勘がいいのですか。残念系イケメンのくせに。

「……ところで、王様はどんな方なのですか?」

「え? ……あー、そうだなぁ。いい人、だと思うよ」

 唐突な話題転換に古谷さんは驚いていましたが、率直な意見を答えてくれました。
 ……いい人ですか。それでは何もわかりませんね。

 返答に満足していないと彼も感じたのか、さらに考え込みます。

「……実は、まだよくわからないんだ。ここに住まわせてもらっているけど、国王とはあまり会ったことがない。最初に出会った時と、こうして何かあった時の報告くらいかな。どうやらあっちも忙しいみたいで……まぁ、国王だから当たり前か」

「……なるほど」

 普通、勇者という唯一魔王に対抗できる人には、無理をしてでも友好関係を築こうとするのではないでしょうか?
 出来るのならば恩を売っておくというのもいい手段です。……住処を与えていることは恩に繋がるのでしょうけど、それでは命がけで戦っている勇者に対して──

 他の勇者はどうなのでしょうか? 古谷さんのようにあまり王様とスキンシップを取れていないのでしょうか。
 それが気になって質問すると、彼は不思議そうに首を傾げるだけでした。
 え、何ですかその反応は。

「……他にも勇者が居るのではないのですか?」

「あー、そうらしいね」

「そうらしいって……認識がないのですか?」

「うん、この国の勇者は俺だけだから……他国にも別の勇者が居るという話は聞いたことがあるけど」

 ……なるほど、これは意外なことを聞き出せました。
 一つの国が抱えている勇者は一人。そして、抱えている国は合計で四つ。そして、この国は剣の勇者を抱えているということになります。

 剣、槍、弓、杖の勇者は互いに親しい関係ではないと。おそらく、同郷だというのも知らないのでしょう。
 勇者同士が協力をした方が効率はいいのに、どうしてそうしないのか。その理由はわかりませんが、折角ここに滞在することになったのです。暇だったらそれも調べてみましょう。でも、その時になって眠かったら寝ましょう。

「……ほら、そろそろ謁見の間に着くよ」

「はぁ~~~~……ぁ…………」

 やって来てしまった面倒事に、私は不満を隠さないで息を吐き出しました。
 上半身をぶらぶらと揺らしながら気怠げに歩きます。一歩一歩が重いです。謁見の間という場所に着いた時には、私の体は灰になっているかもしれません。……いえ、もうすでに端の方から崩れかけているかもしれませんね。

「王様が変な人ではないといいのですが」

「大丈夫だと思うけどなぁ」

「わかりませんよ。もしかしたら、極度のお馬鹿かもしれません」

「流石にそれはないと思うよ!?」

 いやいや、ミリアさんを主人としている私にとって、上に立つ者は色々とヤバそうだという仮説が立っています。
 なので、自分の目で見て確認しなければ、信じることは出来ません。

「本当に大丈夫だと思うんだけどなぁ」
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