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第1章
これでも貴女の配下ですから
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陽も落ちかけた夕暮れ時。
私とミリアさんは、城下街全体を見下ろせる丘の上まで来ていました。全体をというだけあって、そこそこの大きさがある丘です。
……きっと、ここでお昼寝をしたら気持ちいいでしょうね。ああ、夕方になってしまったのが惜しいです。だからって明日ここに来る気はありませんけど。
正直、部屋から出るのが面倒です。外に出たくないです。
魔王城も結構な大きさなので、そこからでも城下町を見下ろせるのですが、別の場所から見るというのも普段は見えない場所が見られて面白いものです。
でも、やっぱりいちいち外に出て来ようとは思いませんけれどね。
「ん~~! やはり、ここはいい場所だな!」
「ええ、そうですね」
「何度来ても楽しいな!」
「ええ、そうですね」
「いつか大人数で来てみたいな!」
「私は抜きでお願いしますね」
「……いつかみんなで来てみたいな!」
「私は抜きでお願いしますね」
「ほんと、お前はブレないな」
「まぁ、それが私ですからね」
私はもう他人に流されません。自分の好きなように生きると決めたんです。なので、たとえ魔王が相手だろうと私は私の意思を貫きます。文句があるなら、いいでしょう。喧嘩です。……冗談ですよ。私は平和主義です。争いごとは面倒なのでやりたくありません。というかやりません。そんなことに時間を使うなら、私は寝ます。
「……満足しましたか?」
「うむ! 楽しかったぞ!」
「そうでしたか。なら、よかったです」
…………ふむ、どうしましょう。
何を話したらいいのかわかりません。元から誰かと話し続けるのは得意な方ではなかったので、どうしたら話を途切らさせずに会話を続けられるのかわかりません。
ウンディーネを呼ぼうかと考えましたが、そういえばあの子は極度の人見知りでしたね。入ったところで、会話どころではなくなりそうな気がします。
「……お前は、楽しかったか?」
「私ですか?」
「ああ、お前は楽しんでくれたか? 余が守ってきた街は、気に入ってくれたか?」
いきなりなんですか。そう言おうと思ってミリアさんの方を見ると、彼女はとても心配そうな顔をしていました。
……なんですか。その顔は。とても魔王がしていい顔ではありませんよ。
「楽しんだか、気に入ったか、ですか……」
思うことは色々とあります。
でも、私は嘘をつきたくない性格なのです。なので────
「そんなのわかりませんよ」
私は素直な感想を言いました。
「私は初めて城下街に来ました。まだ見ていないところは沢山あります。それなのに、限定的な情報だけであなたの街を評価していいんですか?」
今日、色々な人と話して、皆が心からこの街を大好きなのだと知りました。
その人達は皆、口を揃えてこう言います。
『陛下のおかげだ』
ミリアさんは魔王らしくありません。
でも、民に愛されています。そして、ミリアさんも民のことが大好きです。人々と話している姿や、子供達に誘われて一緒に遊んでいる姿は、側から見ても微笑ましい光景でした。
それは上に立つ者として重要なことだと思います。
ミリアさんだけではなく、ヴィエラさんやアカネさん。街の人達は本気でここが好きなんです。
それだけ真摯に向き合っているのですから、適当な返答は出来ません。
「なので、私はまだ楽しいかどうかなんてわかりません。気に入ったとも言えません」
「……お前は厳しいな」
「はい、厳しいですよ。なので、しっかりと私を楽しませてください。……その前に頑張って私を部屋から出してください。私は強敵ですよ?」
まず、今日仕事したので、最低でも一週間は外に出ないつもりです。
私は一度決めたら、とことんそれを貫き通す女です。どんなことをされようと、一週間は絶対に外に出ません。
それを邪魔しようものなら、それこそ喧嘩です。……いや、冗談ですよ。
「…………後半がなければ、かっこいい言葉だったのだがな」
「私らしいでしょう?」
「そうだな。本当にお前らしい」
ミリアさんは呆れたようにそう言いました。
でも、その口元は笑っていました。
「さ、帰りましょう。そろそろヴィエラさん達が待っているはずですよ」
私はミリアさんに手を差し伸べます。一応、これでも私はミリアさんの配下ですからね。これくらいのエスコートはしますよ。
「うむ! 今日の晩飯は何だ?」
ミリアさんは笑顔で頷き、私の手を握ってきました。
「私が知るわけないでしょう。自分で聞いてください」
「本当にお前は適当だな!」
「適当で悪いですか?」
「いや! お前はそのままでいてくれ! 魔王様の命令だ!」
なんですか魔王様の命令って……でも、まぁ……命令なら仕方ないですね。
ならば私は、魔王様の言いつけ通り私という人物を貫いていきましょう。
「かしこまりました。全てはあなたの御心のままに」
「──ぷっ、ははっ! なんだそれは。その言葉こそ、お前には似合わないな!」
少し格好つけて言ったら笑われてしまいました。
私も珍しくそういう気分なんです。こういう時くらい格好をつけても、バチは当たりませんよ。
私とミリアさんは、城下街全体を見下ろせる丘の上まで来ていました。全体をというだけあって、そこそこの大きさがある丘です。
……きっと、ここでお昼寝をしたら気持ちいいでしょうね。ああ、夕方になってしまったのが惜しいです。だからって明日ここに来る気はありませんけど。
正直、部屋から出るのが面倒です。外に出たくないです。
魔王城も結構な大きさなので、そこからでも城下町を見下ろせるのですが、別の場所から見るというのも普段は見えない場所が見られて面白いものです。
でも、やっぱりいちいち外に出て来ようとは思いませんけれどね。
「ん~~! やはり、ここはいい場所だな!」
「ええ、そうですね」
「何度来ても楽しいな!」
「ええ、そうですね」
「いつか大人数で来てみたいな!」
「私は抜きでお願いしますね」
「……いつかみんなで来てみたいな!」
「私は抜きでお願いしますね」
「ほんと、お前はブレないな」
「まぁ、それが私ですからね」
私はもう他人に流されません。自分の好きなように生きると決めたんです。なので、たとえ魔王が相手だろうと私は私の意思を貫きます。文句があるなら、いいでしょう。喧嘩です。……冗談ですよ。私は平和主義です。争いごとは面倒なのでやりたくありません。というかやりません。そんなことに時間を使うなら、私は寝ます。
「……満足しましたか?」
「うむ! 楽しかったぞ!」
「そうでしたか。なら、よかったです」
…………ふむ、どうしましょう。
何を話したらいいのかわかりません。元から誰かと話し続けるのは得意な方ではなかったので、どうしたら話を途切らさせずに会話を続けられるのかわかりません。
ウンディーネを呼ぼうかと考えましたが、そういえばあの子は極度の人見知りでしたね。入ったところで、会話どころではなくなりそうな気がします。
「……お前は、楽しかったか?」
「私ですか?」
「ああ、お前は楽しんでくれたか? 余が守ってきた街は、気に入ってくれたか?」
いきなりなんですか。そう言おうと思ってミリアさんの方を見ると、彼女はとても心配そうな顔をしていました。
……なんですか。その顔は。とても魔王がしていい顔ではありませんよ。
「楽しんだか、気に入ったか、ですか……」
思うことは色々とあります。
でも、私は嘘をつきたくない性格なのです。なので────
「そんなのわかりませんよ」
私は素直な感想を言いました。
「私は初めて城下街に来ました。まだ見ていないところは沢山あります。それなのに、限定的な情報だけであなたの街を評価していいんですか?」
今日、色々な人と話して、皆が心からこの街を大好きなのだと知りました。
その人達は皆、口を揃えてこう言います。
『陛下のおかげだ』
ミリアさんは魔王らしくありません。
でも、民に愛されています。そして、ミリアさんも民のことが大好きです。人々と話している姿や、子供達に誘われて一緒に遊んでいる姿は、側から見ても微笑ましい光景でした。
それは上に立つ者として重要なことだと思います。
ミリアさんだけではなく、ヴィエラさんやアカネさん。街の人達は本気でここが好きなんです。
それだけ真摯に向き合っているのですから、適当な返答は出来ません。
「なので、私はまだ楽しいかどうかなんてわかりません。気に入ったとも言えません」
「……お前は厳しいな」
「はい、厳しいですよ。なので、しっかりと私を楽しませてください。……その前に頑張って私を部屋から出してください。私は強敵ですよ?」
まず、今日仕事したので、最低でも一週間は外に出ないつもりです。
私は一度決めたら、とことんそれを貫き通す女です。どんなことをされようと、一週間は絶対に外に出ません。
それを邪魔しようものなら、それこそ喧嘩です。……いや、冗談ですよ。
「…………後半がなければ、かっこいい言葉だったのだがな」
「私らしいでしょう?」
「そうだな。本当にお前らしい」
ミリアさんは呆れたようにそう言いました。
でも、その口元は笑っていました。
「さ、帰りましょう。そろそろヴィエラさん達が待っているはずですよ」
私はミリアさんに手を差し伸べます。一応、これでも私はミリアさんの配下ですからね。これくらいのエスコートはしますよ。
「うむ! 今日の晩飯は何だ?」
ミリアさんは笑顔で頷き、私の手を握ってきました。
「私が知るわけないでしょう。自分で聞いてください」
「本当にお前は適当だな!」
「適当で悪いですか?」
「いや! お前はそのままでいてくれ! 魔王様の命令だ!」
なんですか魔王様の命令って……でも、まぁ……命令なら仕方ないですね。
ならば私は、魔王様の言いつけ通り私という人物を貫いていきましょう。
「かしこまりました。全てはあなたの御心のままに」
「──ぷっ、ははっ! なんだそれは。その言葉こそ、お前には似合わないな!」
少し格好つけて言ったら笑われてしまいました。
私も珍しくそういう気分なんです。こういう時くらい格好をつけても、バチは当たりませんよ。
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