少女は二度目の舞台で復讐を誓う

白波ハクア

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第1章

3. 少女は思いを口にする

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「お茶だけしか出せなくてごめんなさいねー」

「ううん。ありがとう、アメリア」


 ここに居る人達は、ゴンドル直属の暗殺部隊『シャドウ』だ。

 その仕事は簡単。
 奴にとって邪魔な存在を、依頼と称してシャドウに消させる。

 つまりは汚れ仕事専門の集まりというわけだ。
 でも、直属とは言え、正式な雇い主というわけではない。

 シャドウの皆は、それぞれの家族を人質に取られている。
 おそらく、私の大切な家族もすでに奴の手の者によって身柄を拘束されているだろう。




 いや、最後にあいつが言った言葉が本当なら、もう家族は──。




 私達は『奴隷』のような扱いを受けていた。

 支給される食事や生活用品は「最悪」の一言で言い表せるような物ばかりで、シャドウに入って一度も満足する食事を貰えたことなんてない。

 もちろん金は貰えない。

 その代わりここに住ませてやっているのだから有り難く思え、というのはゴンドルの言葉だ。

 ちなみに過去……いや、未来?
 もう面倒だから『一度目』とこれからは呼ぼう。

 一度目で私が愛用して食べていた物は、動物の肉を乾燥させた保存食だ。
 安いし長持ちするので、ちょっと小腹が空いた時はいつもそれを齧っていた。栄養だなんだと考えている余裕は、もちろん無かった。


 こうして出されているお茶だって、最大限の歓迎だと理解している。


「にしても驚いたわよ。まさかこの場所がわかるなんて」

「たまたま見つけただけだよ。普通じゃ絶対に見つけられない」

「──ハッ! どの口が言いやがる」

「ちょっとバッカス!」

「口出しするなアメリア。俺はまだこいつを信用していないぞ。俺達の居場所を突き止めただけじゃない。どうしてお前が俺達の名前を知っている。どうして俺達の殺気を受けて、そんなに平然としていやがる。ただの村娘と聞いていたが、お前は何者だ?」

 バッカスの疑問は当たり前のことだった。

 このようなトラブルが起こるのは予想していた。
 でも、こうなることを知ってでも、事前に言っておきたいことがあったから、私はこうしてお邪魔させてもらった。

「私はシャドウに入れられる。最初のうちは指南役が付けられるだろうね。でもそれは怪しいことをしないかの『監視』だ。その役はアメリア。貴女が任せられているんじゃないかな?」

 アメリアの眉が一瞬だけ動いたのを、私は見逃さなかった。

「監視を付けられると、流石の私も自由に動けない。だから思い切って、事前に私の動きを知らせておこうかと思ってね」

 怪しい動きをすれば、アメリアはすぐに報告を上げるだろう。

 彼女は人の感情や行動予測を読むのが得意だった。
 指南役兼、監視役としては十分な人選だ。

 ……おそらく彼女を任命したのは、リーダーのガッシュさんかな。



「私は──ゴンドルを殺す」



 息を飲む音がした。
 それは全員が同じ反応だった。

「何を思ってのことだかしらねぇが、それはやめておけ。あいつに逆らったら……」

「家族を殺される?」

「っ、そうだ。わかっているなら、そんな馬鹿なことはやめておけ」

「馬鹿なこと──あははっ!」

 バッカスは、何がおかしいと言いたげに顔を歪ませた。

「確かに馬鹿だね。でも、あいつに従う方が馬鹿だよ」



 だって、もう──

「私の家族は殺されているのだから」



「なん、だと……?」

「私の家族は殺されている。あいつの騎士がやって来て、私を連れ出した後にはもう殺されているんじゃないかな?」

 私を迎えに来た騎士は、六人。
 その内の半分は村に残った。

 ──なぜ?
 私の家族を捕らえ、殺すためだ。

 あいつに目を付けられた時点で、もう何もかもが手遅れだった。

「どうしてそう言い切れる。何の根拠があって……」

「それは言えないな」

 私の首に、刃が突き付けられた。
 チクリとした痛みの後、血が垂れる感触が伝わってきた。

「まだ秘密。すぐに証拠を見せて上げるよ」

「ふざけてんのか、テメェ!」

「ふざけて自分の家族が殺されたなんて言えると思う?」

 今度は私が殺気をぶつける。
 バッカスは狼狽え、視線が泳いだ。

「気持ちはわかるよ。私の家族が殺されていると言うことは、皆の家族も同じことになっている可能性が高い。それを肯定するのは怖い。……でも、ロクに考えもせず、いつまでも逃げているのは……それこそ愚かなことだと思うんだ」


 家族を助けてあげたかったのに、何もかもが手遅れだと知った。

 ──だから殺す。
 そのために私は、『二度目の舞台』へと戻ってきたのだから。


「まだこれは予想の範疇でしかない。私はその証拠を掴むために動きたい。皆にはその協力をしてほしいんだ」

「そうしたら、話してくれるんだな?」

「皆が、私を信じてくれるのなら」

 射抜くような鋭い視線。
 私はそれを真正面から見つめ返した。

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