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第56話 洞窟探索
しおりを挟むすぐに村を出発した私達は、村長が教えてくれた洞窟の中を慎重に進んでいた。
「エリス。そこを曲がった先、魔物三体……多分、ゴブリン」
「わかった」
エリスは走り出し、すぐに肉を切る音が聞こえた。
ちょっとしてから角を曲がると、綺麗に首と体が分離したゴブリン三体。
「流石エリスだね。魔物の悲鳴が聞こえなかった」
洞窟だから断末魔の叫びとか、増援の叫びとか、そういうのを出されたら響く。
そしたら奥に居る魔物に気づかれてしまうから、エリスは気配を悟られる前に切り込んで、騒がれる前に倒した。
かなりの実力がなければできないことだ。
彼女の剣技は相変わらず頼りになる。
「……いや、カガミの索敵のおかげだ。お前が居なければ、私一人では厳しかっただろう」
「どういたしまして。エリスの役に立てたのなら、私も嬉しいよ」
今回、私は偵察に専念している。
ここに巣食っている魔物は、エリスだけで十分対処できる雑魚だ。
だから私は偵察で常に周囲を警戒して、エリスに魔物の場所を教えている。
私の索敵は、やろうと思えば洞窟全体を見渡せる。その代わり消耗が早いから範囲を絞っているけれど、正確に敵の位置を把握できるのは、真っ暗な洞窟では必須スキルだ。
それに私は、暗闇でも日中と変わらないくらいハッキリと見えるので、罠や歩きづらい足場などの危険な場所をすぐに発見できる。
逆にエリスの暗視はそこまで正確じゃない。見えて精々、洞窟内の構造くらいだ。でも、それも精確なものじゃなくて、ぼんやり程度にしか見えないらしい。
松明を用意すればエリスでも問題なく洞窟を進めるけれど、それだと敵にも私達の位置がバレてしまう。
洞窟で囲まれるのは危険だ。
私が本気を出したら崩れて仲良く生き埋めになっちゃうし、かと言ってエリスだけで対処するのも難しい。だから少し不便だろうけれど、松明は使わずにやっている。
「…………ん? これは、」
「どうした。何か見つけたか?」
私は立ち止まり、地面に落ちていたある物を拾う。
「……宝石?」
「だが、これは本物ではないな」
とても小さな宝石のような、綺麗な石。
こんな洞窟にあるのはおかしい。
「よく見たら穴が空いてる。ほらここ、何か通してたみたい」
「となれば、飾り物の一部ではないだろうか?」
ネックレスとかブレスレットとか、アクセサリーの紐が外れて散らばった……と、そんなところか。
「──あ、こっちにもある。あそこにも」
よく見て探せば、同じような宝石紛いの石が所々に散らばっていた。
多分、エリスの予想は間違いない。
「男物じゃないよね。ってことは?」
「ああ。村長の娘の物だろう……カガミ、この先の通路はどうなっている?」
「……えっと、」
索敵範囲を広げる。
まだまだ最奥までの道は長い。
30分歩いて、ようやく今で半分といったところだ。
慎重に進んでいると考えても、この洞窟はかなりの広さがある。
自然にできたものじゃない。
何かの目的で作られて、放置されたのだろう。
「…………奥の方に、一番大きな反応がある」
「おそらく、そいつが魔物達のリーダーなのだろうな」
その言葉に、私も頷く。
反応が強い魔物以上に強そうな魔物は、索敵範囲内では見当たらない。
「各所で見張りっぽい魔物もいっぱい居る。多分、50以上は居るのかな?」
「思った以上に規模が大きいな。……村長には悪いが、娘一人で済んだのが奇跡なくらいだ」
「そうだね。魔物達がもっと凶暴だったら、あの村が滅んでいてもおかしくなかった」
魔物達が凶暴化したのは、魔王の復活が原因なんだろう。
でも、まだその片鱗が見え始めた程度で、まだ完全に影響されているわけではない。
なのに被害は出ている。
これからはもっと酷くなると考えると……私達がこのタイミングでやってきて正解だった。
村人は魔物と戦う手段を持たない。私やエリスにとっての雑魚でも、彼らにとっては恐ろしい敵だ。
「それでカガミ。村長の娘の反応はあるか?」
「…………わからない。とても小さな反応はあるけど、それが娘さんなのかどうかまでは見えない。同じような反応もある。場所はリーダーがいるところのもっと奥だ」
「そこが貯蔵庫なのだろう。魔物達の食べ物や、各地で集めた宝。攫った人間を詰め込む場所だ」
攫った人間を詰め込む。
……あの村だけじゃなく、他の村も被害に遭っていたなら、同じように人が攫われているのかな。
小さな反応は複数ある。
全部、魔物のリーダーの後ろだ。
もし、それが全部攫われた人達なら────
「許せないね」
「ああ、その通りだ。だから絶対にここから出す」
「うん。こんな薄気味悪い場所で死ぬなんて、可哀想だよ」
魔力の消耗が激しい。
最低限周囲に気を配れる程度に、範囲を絞る。
「行こう」
「ああ……」
こんな悲しいこと、繰り返されちゃダメだ。
だからせめて、手に届く範囲だけでも助けてあげたい。
──だから殺す。
こんな酷いことをする魔物達を、生かしておく価値は無いから。
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