転生少女は欲深い

白波ハクア

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第52話 開始早々トラブル続き

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「どうなっても文句を言わないでね!」

 着々と迫る崖。
 落ちたら私でも死ぬ。エリスは絶対に助からない。

 迷っている場合じゃないのはわかっている。
 だから極限まで集中した。

 ──そして、

「ちょっとごめん!」
「お、おい!?」

 私はエリスの体をひょいと持ち上げ、お姫様抱っこをした。途端に顔を真っ赤に染めるエリス。文句を言いたそうに口をパクパクさせているけど、焦っている私はそれを聞く余裕がなかった。

「どうせ誰も見てないから我慢して!」

 こうでもしないと十分に飛べない。
 今更エリスを抱き抱えて走るくらいは苦ではない。

 そんなことよりも、今の絶望的な状況をどうにかして解決するのが最優先だ。

「うおおおおおおお!!」

 スキルを一気に解放する。
 身体能力強化、豪脚、肉体強化、剛力、精神強化、恐慌耐性、魔装。少しでも体が強化されるものを出し切り、私は崖まで走った。

 あとはギリギリのところで飛び出すだけ。

 ……ゆっくり、ゆっくり……焦るな。
 そう、私なら出来る。二人の命がかかっているんだ。ここでやらないで、どこでやる!

 まだ、まだだ……まだ、ま──



「あ、やべっ」



 ギリギリを狙いすぎて歩幅が合わず、最後は思い切り踏み外した。

 飛ぶことなく自由落下する体が二つ。

「馬鹿者ぉおおおおおおおお!?」
「ごめーーーーーん!」

 崖の底は奈落で、真っ暗だ。
 どこに地面があるかなんてわからず、ただただ闇が広がっている。

「どうしよう!? どうしようエリス!」
「わからん! だが、ここでは死にたくない!」
「同意見です!」

 現実逃避しているせいで、二人とも変なテンションになっている。

 でも、本当にこのままだと死んじゃう。
 どちらかが犠牲になろうと下になっても、結局は落下の衝撃で死ぬ。


「何か、私に、何かあれば……」


 この状況を打開出来るような何かがあれば!

【承諾。空歩くうほを取得しました】

 コレダーーーーーー! って、どうやって使うの!?
 空歩!? どうやって使うの!?(二回目)

 ……うぅ! 空歩!

「んぐっ!」
「ぐおっ!?」

 足場が出来たような感覚。
 それが急に起こったせいで落下の衝撃をもろに食らった私達は、二人して奇妙な声をあげた。

「なっ! なんだこれは!?」

 エリスが驚いたように下を見る。
 ……私は、宙に浮いていた。

 空歩……出来ちゃった。

 不思議な感覚だ。
 宙に浮いていることは確かなのに、私の足元にはちゃんとした硬い足場がある。
 まるで透明なガラスの上に立っているような……。

「えっと、スキルを取得したみたい?」
「今!? この状況でか!?」
「…………はい」

 エリスが驚愕に目を丸くさせ、息も絶え絶えに叫んだ。

 彼女の反応は正しい。
 いくら私が異常だからって、ここで一番欲しいスキルを取得するとは思わないだろう。

 でも、やってしまったのだから仕方がない。

「このことは後で詳しく聞かせてもらうからな」
「…………はい」
「まぁ、それのおかげで助かったから私も文句は言えない、の……だが…………」

 エリスは心底安心したようにそう言いながら上を向き、そして顔を険しくさせた。

「か、かか、カガミ! うえ、上っ!」
「……ん? 上って──んぎゃぁあああ!!?!??」

 エリスに言われた通り上を見上げると、私達と同じように崖に落下した沢山の魔物達が、滝のように降ってきていた。

「うわっ、ととっ……!」

 慌てて前に歩き出し、魔物に呑まれることを回避する。
 その数秒後──ズドドドドドッ! という重い音が下の方から連続して聞こえてきて、私とエリスは顔を引きつらせた。

「……もし、落下して運良く生き残っていても、死んでいたな」
「…………そうだね」

 私達の何倍の体格もある魔物が滝のように降ってくるのだ。
 生きていても、死んでいた。もしかしたらあり得たかもしれない未来の形に、私はもう何も言えなくなっていた。

「……とりあえず、反対側まで移動しよう」

 こうして私とエリスの二人は、無事に魔物の大群から逃れることに成功したのだった。
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