転生少女は欲深い

白波ハクア

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第44話 魔王の復活

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「こんにちは、だろうか。屈強な騎士よ。知っていると思うが自己紹介だ。我が名はアトラク・メレヴァ。
 今一度この世に復活を遂げし──災厄の化身よ」

 魔王の復活。
 それを悟った私は、気を失ったカガミを小脇に抱え、反対方向に走り出した。

「んー? 逃げるのか、人間?」

 私はその言葉に反応することは無かった。
 今はただ逃げる。
 それだけを考え、後ろを振り向く余裕があるわけもなく、今すぐこの場から離れることに全てを注いだ。

 今思えば、後ろから攻撃を受けていたら終わりだった。
 全てはアトラク・メレヴァの気分次第だったのだが、幸運なことに何もされることはなく、私はドーム状の端まで辿り着いた。

「…………」

 私は片手で剣を構え、最大の注意を払って中心を睨みつける。
 そしてゆっくりと下がり、ドーム状の膜から出ることに成功した。

「…………来ない、のか……?」

 気を抜いた瞬間に襲撃される可能性もある。
 相手は魔王。油断してはならない。

 警戒し続けること数分。

 やがて街の中心を覆っていた赤いドームは消え去り、同時に空に赤い光が浮かび上がった。それが魔王だと気づくのは遅くはなかった。
 それは一定時間浮遊し続けたと思えば、遥か遠くへと飛来して行った。
 街だけではなく、国全体を覆っていた威圧感も消え去る。

「とりあえずの脅威は去った。ということか」

 私はようやく警戒を解き、剣を鞘に戻す。
 魔王の目的が何なのかはわからない。だが、今はそんなことよりもやるべきことがある。

「すぐに助けてやるからな、カガミ」

 私は、我が屋敷へと走った。

「誰か! 誰か居ないか!」

 私は急いでいたため少々乱暴に屋敷へと押し入る。
 ズカズカと廊下を歩き、無事な者を探す。

「エ、リス様……? ──っ、エリス様!」

 そんな時、弱々しくもはっきりとした声が聞こえた。
 見ると、使用人の何人かがこちらに駆けて来ていた。

「お前達、無事だったか!」
「エリス様こそよくぞご無事で!」
「他の者はどうした。半数以上が未だ意識を取り戻していません。今はエリオットが診ています」

 エリオットとは、私の屋敷に仕えている専属の回復術士だ。
 ……良かった、あいつも無事だったか。

「っ、お怪我をされています。すぐに治療を!」
「私のことはいい。それよりカガミを頼む。かなり危険な状態なのだ。私の友人を助けてくれ」

 そこで使用人は背中に抱えたカガミとその容体に気づき、すぐに深刻な表情に変わった。

「必ず。さぁ、カガミ様をこちらに」
「いや、自分で持っていく」
「なりません! エリス様は自室でお休みください!」
「…………わかった。頼んだ」

 重体なカガミに負担が掛からないよう丁寧に預け、使用人はすぐにエリオットの元へ向かった。
 私はそれを見届け、自室へと戻る。
 本当ならば付きっきりでカガミの側に居たかった。
 だが、私が出来るのは簡単な応急処置のみだ。私が居合わせても邪魔になるのは理解している。

「カガミ……無事でいてくれ……」

 今の私に出来ることは、ただカガミの無事を祈るのみだった。



          ◆◇◆



 純白の鎧を身に纏った騎士と、それに抱えられて運ばれていく黒髪の少女。
 その背中を見つめ、余、アトラク・メレヴァはポツリと呟く。

「…………ふむ、逃げられてしまったか」

 今すぐに追いかけて殺すことは可能だった。
 だが、余はまだ復活して間もないので、まだ魔力も十分ではない。
 あの騎士……名をエリスと言ったか? そいつに負けるようなことはないだろうが、苦戦はするだろう。今は余計な消費は抑えたいところだった。

「だが、あの騎士……面白い」

 気絶した者を守りながら戦うことはせず、即座に背を向けて走った。
 敵前逃亡は背中を刺される危険が大いにある。リスクは大きい。だが、それを物ともせず己の安全よりも友人の命を優先した。瞬時に判断し、行動に移す。その速さは賞賛に値する。

「今回は見逃してやろう」

 だが、再びこの魔王に逆らうのであれば容赦無く殺す。
 それだけは絶対だ。
 慈悲の欠片など無く、無情に非情に殺してやる。
 それが『原初の魔王』にして『災厄』をこの身に宿すアトラク・メレヴァの本質なのだからな。

「ククッ、ハハッ……!」

 余は瓦礫の上で、一人笑う。

「ようやく、ようやくだ……」

 長年の時を経て、余は復活を遂げた。
 これで余は自由になったのだ。これを笑わずして、どうする。

「感謝するぞ? カガミよ」

 あの少女、カガミはよく働いてくれた。
 絶望をかき集め、己の魔力を引き出し、こうして復活まで成し遂げた。

「ああ、カガミよ。絶望に呑まれし哀れな小娘よ」

 余は思う。
 きっとあいつは余の前に立ちはだかるのだろう、と。

「楽しみだ。ああ、本当に──楽しみだ」

 絶望を味わい、全てを拒絶し、魔王の器を取り込んだ小娘。
 あやつは必ず立ち上がり、我が元まで来るだろう。
 絶望に呑まれてもなお、友のために戦うのだろう。

「この腐った世の中を救いたいと思うのであれば、辿り着いてみせろ。余が世界を滅ぼし尽くす前に」

 光を纏い、宙に浮く。

「待っているぞ──女神に祝福されし異邦人よ」
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