20 / 64
第18話 呆れられた
しおりを挟む
「うわぁ……! 大きい!」
私は馬車から見えた景色に、はしゃぎながら大声を上げた。
きっと側から見たら、私はキラキラした目をしていることだろう。それだけ今の私はテンションが上がっていた。
「こら、身を乗り出したら危ないだろう」
後ろからコツンッと頭を叩かれた。
「もう、何するのさ、エリス」
「お前が危ないことをしているからだろう。道を整備しているからって安全という訳ではないんだ。そこで小石を踏んで跳ねたら、外に放り出されるかもしれないぞ?」
「平気だもーん。放り出された程度で怪我なんかしないってば」
「……そういえば、そうだな。全く、どうしてお前はそんなに人間離れしているんだか……」
呆れたように言われてしまった。失礼な。これでも私はちゃんとした人間のつもりだ。
だた、スキルのせいで少しだけ強くなってしまっただけだ。何もおかしいところはない。
「まぁ、それはいいとして、ねぇエリスっ。あれが王都なの!?」
「……ああ、私達の国、オードヴェルンだ」
目の前に見えるのは、高くそびえ立つ壁とそこに垂れ下げられている大きな旗だ。
二対の赤い獅子が向かい合っている中心に一本の剣。あれが王都『オードヴェルン』の国旗なのだとエリスは言った。
隣接する多数の国家の中では最も大きく、最も人の集まる場所。
初代国王による政治は民からの信頼も厚く、何百年とその政治は受け継がれ、現在も人と亜人が協力しあって平和が続いている王都。
そんな所に、私は今訪れようとしていた。
──時は三日前に戻る。
マレリアの街を出た私達は、馬車に揺られ続けながら王都に向かっていた。
馬車と業者はマレリアの冒険者ギルドが感謝の印にと急いで用意してくれた。その気持ちをありがたく受け取り、特別何かあったとかはなく、ただの旅行気分で王都目前までやってきた。……たまに魔物が襲ってきたりしたけれど、それは別に強くなかったし、むしろ王都で素材を売ればお金になると優先的に狩っていた。
……ついでに私が取得してエリスにバレないようにと隠していたスキル『収納』は、私のうっかりミスで呆気なくバレてしまった。
その時何を言われるのか警戒していたら、もう色々と諦められてしまっていたのか、ただ「はぁ……」と溜め息を吐かれただけに終わった。
その後、少し張り切って本気を出しすぎた場面があったけど、その時もエリスは遠い目をして私を見ていた。
──あれ? もしかして全体的に呆れられている!?
い、いや、そんな訳ない。あのエリスがツッコミをサボるなんてありえない。
…………そう思っていた時期が私にもありました。
確信したのが昨日の夜。みんなが眠るテントの周りを交代で見張っていた時、私の番の時に盗賊が襲来した。
最初は姿も気配も感じ取れなかった私は、いきなり襲われてめちゃくちゃ驚いた。だけど、実力は高かった訳じゃなく、彼らは気配を殺すのが上手かっただけだったので、すぐに反応することは可能だった。
【承諾。気配遮断、無踏、夜目、遠目、体力強化を取得しました】
という感じで新たにスキルも取得し、盗賊も無力化出来た。どうしたらいいのかわからなくて、とりあえず縄で動けないように縛ってエリスを呼んだら、もう驚くという反応もなくなって「よくやったな」と頭を撫でてくれた。でも、声はどこか棒読みで顔も乾いた笑みを浮かべていた。
完全に現実から逃げている顔を見て、もうエリスも限界なのかもしれないと、その時の私は子供ながらに悟った。
ちなみに縛った盗賊はテントに放置してきた。ギルドが用意してくれたと言っても、緊急で手配してくれたものだったので、人を沢山乗せられるほど大きなものではなかった。盗賊を王都の兵舎に持っていけば、相応の報酬金を貰えるとエリスは教えてくれた。でも、盗賊と一緒に旅をするとか嫌だし、それで到着が遅くなるのも嫌だ。
私達がテントを建てたのは森の近くだから、多分そこから魔物が出てくるかもしれない。その前に縄の拘束を解ければその後は自由にしてもいいし、拘束を解けなければ魔物の餌だ。
私の判断で人が死ぬかもしれないけど、人に甘い私だってそこら辺は区別している。
悪いことをしている人を助ける気はない。死ぬか死なないかなんてどうでもいい。だから放置した。
それよりもエリスがツッコミを放置し始めたことが問題だ。
自分でもいちいち反応するのは面倒だろうなぁ、とは我ながら思っていた。
でも、まさかあの真面目なエリスが現実逃避する程、私は非常識な奴だとは思っていなかった。そのことに私は若干ショックを受けた。
──と、これが旅をした三日間で一番印象に残った出来事だった。
「はぁ……長いようで、短い旅だったなぁ」
「何を年寄り臭いことを言っているんだ。ほら、そろそろ中に入るぞ」
王都の大門には人の行列が出来ていた。誰もが王都に入るため、検問を受けようと順番待ちしている。
エリスは騎士だから特別に検問を優先して受けられるようになっているらしく、行列の横を私達の馬車が進んでいく。……なんか、ズルをしているみたいで申し訳ない気持ちになる。
「────おお、おおおお!」
そんな気持ちも、大門を通った時には何処かへ行ってしまっていた。
初めて見る人の数。並ぶ豪華な店。何処にも暗さを感じない明るい雰囲気。
どれもが私を興奮させるのに十分だった。また馬車から身を乗り出して王都の風景を楽しむ。途中我に返ってまたエリスに何か言われてしまうと思ったけれど、彼女ははしゃぐ私を見て嬉しそうに笑っていた。
そうだ。ここはエリスが住んでいる国なんだ。そして命をかけて守っている国でもある。
きっと、エリスもこの国が大好きなんだろう。それを褒められて嫌とは思わないはずだ。
「この後の予定にはまだ少し時間がある。その間、この国を見て回るといい」
「ほんと!? エリスは?」
「……すまない。私は色々と手続きをしなければならないから、一緒には行けないんだ」
……そうか、忙しいなら仕方ない。
わがままを言っても困らせるだけだとわかっているから、ここは我慢だ。
その代わりと言っては何だけど、私がエリスの分も沢山遊んでやろう。
ここは王都だ。前にいた街とは比べ物にならないほど広い。一人でどれだけ遊べるだろう。きっと。今日だけじゃ周れない所は多いだろう。土産話の一つや二つ、簡単に見つかりそうだ。
馬車は王都の冒険者ギルドまで進み、そこで私達は降りた。
時間が来たら王城の門前で待っているとエリスに言われ、業者さんとエリスは冒険者ギルドの中へと消えて行った。
「さて、と……」
ここから私は一人行動だ。
まずは何処に行こう。……とりあえず、適当に歩いてみよう。
私は馬車から見えた景色に、はしゃぎながら大声を上げた。
きっと側から見たら、私はキラキラした目をしていることだろう。それだけ今の私はテンションが上がっていた。
「こら、身を乗り出したら危ないだろう」
後ろからコツンッと頭を叩かれた。
「もう、何するのさ、エリス」
「お前が危ないことをしているからだろう。道を整備しているからって安全という訳ではないんだ。そこで小石を踏んで跳ねたら、外に放り出されるかもしれないぞ?」
「平気だもーん。放り出された程度で怪我なんかしないってば」
「……そういえば、そうだな。全く、どうしてお前はそんなに人間離れしているんだか……」
呆れたように言われてしまった。失礼な。これでも私はちゃんとした人間のつもりだ。
だた、スキルのせいで少しだけ強くなってしまっただけだ。何もおかしいところはない。
「まぁ、それはいいとして、ねぇエリスっ。あれが王都なの!?」
「……ああ、私達の国、オードヴェルンだ」
目の前に見えるのは、高くそびえ立つ壁とそこに垂れ下げられている大きな旗だ。
二対の赤い獅子が向かい合っている中心に一本の剣。あれが王都『オードヴェルン』の国旗なのだとエリスは言った。
隣接する多数の国家の中では最も大きく、最も人の集まる場所。
初代国王による政治は民からの信頼も厚く、何百年とその政治は受け継がれ、現在も人と亜人が協力しあって平和が続いている王都。
そんな所に、私は今訪れようとしていた。
──時は三日前に戻る。
マレリアの街を出た私達は、馬車に揺られ続けながら王都に向かっていた。
馬車と業者はマレリアの冒険者ギルドが感謝の印にと急いで用意してくれた。その気持ちをありがたく受け取り、特別何かあったとかはなく、ただの旅行気分で王都目前までやってきた。……たまに魔物が襲ってきたりしたけれど、それは別に強くなかったし、むしろ王都で素材を売ればお金になると優先的に狩っていた。
……ついでに私が取得してエリスにバレないようにと隠していたスキル『収納』は、私のうっかりミスで呆気なくバレてしまった。
その時何を言われるのか警戒していたら、もう色々と諦められてしまっていたのか、ただ「はぁ……」と溜め息を吐かれただけに終わった。
その後、少し張り切って本気を出しすぎた場面があったけど、その時もエリスは遠い目をして私を見ていた。
──あれ? もしかして全体的に呆れられている!?
い、いや、そんな訳ない。あのエリスがツッコミをサボるなんてありえない。
…………そう思っていた時期が私にもありました。
確信したのが昨日の夜。みんなが眠るテントの周りを交代で見張っていた時、私の番の時に盗賊が襲来した。
最初は姿も気配も感じ取れなかった私は、いきなり襲われてめちゃくちゃ驚いた。だけど、実力は高かった訳じゃなく、彼らは気配を殺すのが上手かっただけだったので、すぐに反応することは可能だった。
【承諾。気配遮断、無踏、夜目、遠目、体力強化を取得しました】
という感じで新たにスキルも取得し、盗賊も無力化出来た。どうしたらいいのかわからなくて、とりあえず縄で動けないように縛ってエリスを呼んだら、もう驚くという反応もなくなって「よくやったな」と頭を撫でてくれた。でも、声はどこか棒読みで顔も乾いた笑みを浮かべていた。
完全に現実から逃げている顔を見て、もうエリスも限界なのかもしれないと、その時の私は子供ながらに悟った。
ちなみに縛った盗賊はテントに放置してきた。ギルドが用意してくれたと言っても、緊急で手配してくれたものだったので、人を沢山乗せられるほど大きなものではなかった。盗賊を王都の兵舎に持っていけば、相応の報酬金を貰えるとエリスは教えてくれた。でも、盗賊と一緒に旅をするとか嫌だし、それで到着が遅くなるのも嫌だ。
私達がテントを建てたのは森の近くだから、多分そこから魔物が出てくるかもしれない。その前に縄の拘束を解ければその後は自由にしてもいいし、拘束を解けなければ魔物の餌だ。
私の判断で人が死ぬかもしれないけど、人に甘い私だってそこら辺は区別している。
悪いことをしている人を助ける気はない。死ぬか死なないかなんてどうでもいい。だから放置した。
それよりもエリスがツッコミを放置し始めたことが問題だ。
自分でもいちいち反応するのは面倒だろうなぁ、とは我ながら思っていた。
でも、まさかあの真面目なエリスが現実逃避する程、私は非常識な奴だとは思っていなかった。そのことに私は若干ショックを受けた。
──と、これが旅をした三日間で一番印象に残った出来事だった。
「はぁ……長いようで、短い旅だったなぁ」
「何を年寄り臭いことを言っているんだ。ほら、そろそろ中に入るぞ」
王都の大門には人の行列が出来ていた。誰もが王都に入るため、検問を受けようと順番待ちしている。
エリスは騎士だから特別に検問を優先して受けられるようになっているらしく、行列の横を私達の馬車が進んでいく。……なんか、ズルをしているみたいで申し訳ない気持ちになる。
「────おお、おおおお!」
そんな気持ちも、大門を通った時には何処かへ行ってしまっていた。
初めて見る人の数。並ぶ豪華な店。何処にも暗さを感じない明るい雰囲気。
どれもが私を興奮させるのに十分だった。また馬車から身を乗り出して王都の風景を楽しむ。途中我に返ってまたエリスに何か言われてしまうと思ったけれど、彼女ははしゃぐ私を見て嬉しそうに笑っていた。
そうだ。ここはエリスが住んでいる国なんだ。そして命をかけて守っている国でもある。
きっと、エリスもこの国が大好きなんだろう。それを褒められて嫌とは思わないはずだ。
「この後の予定にはまだ少し時間がある。その間、この国を見て回るといい」
「ほんと!? エリスは?」
「……すまない。私は色々と手続きをしなければならないから、一緒には行けないんだ」
……そうか、忙しいなら仕方ない。
わがままを言っても困らせるだけだとわかっているから、ここは我慢だ。
その代わりと言っては何だけど、私がエリスの分も沢山遊んでやろう。
ここは王都だ。前にいた街とは比べ物にならないほど広い。一人でどれだけ遊べるだろう。きっと。今日だけじゃ周れない所は多いだろう。土産話の一つや二つ、簡単に見つかりそうだ。
馬車は王都の冒険者ギルドまで進み、そこで私達は降りた。
時間が来たら王城の門前で待っているとエリスに言われ、業者さんとエリスは冒険者ギルドの中へと消えて行った。
「さて、と……」
ここから私は一人行動だ。
まずは何処に行こう。……とりあえず、適当に歩いてみよう。
1
お気に入りに追加
985
あなたにおすすめの小説
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
おまけ娘の異世界チート生活〜君がいるこの世界を愛し続ける〜
蓮条緋月
ファンタジー
ファンタジーオタクな芹原緋夜はある日異世界に召喚された。しかし緋夜と共に召喚された少女の方が聖女だと判明。自分は魔力なしスキルなしの一般人だった。訳の分からないうちに納屋のような場所で生活することに。しかも、変な噂のせいで食事も満足に与えてくれない。すれ違えば蔑みの眼差ししか向けられず、自分の護衛さんにも被害が及ぶ始末。気を紛らわすために魔力なしにも関わらず魔法を使えないかといろいろやっていたら次々といろんな属性に加えてスキルも使えるようになっていた。そして勝手に召喚して虐げる連中への怒りと護衛さんへの申し訳なさが頂点に達し国を飛び出した。
行き着いた国で出会ったのは最強と呼ばれるソロ冒険者だった。彼とパーティを組んだ後獣人やエルフも加わり賑やかに。しかも全員美形というおいしい設定付き。そんな人達に愛されながら緋夜は冒険者として仲間と覚醒したチートで無双するー!
※他サイトにて重複掲載しています
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜
橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
死んだのに異世界に転生しました!
drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。
この物語は異世界テンプレ要素が多いです。
主人公最強&チートですね
主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください!
初めて書くので
読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。
それでもいいという方はどうぞ!
(本編は完結しました)
私、のんびり暮らしたいんです!
クロウ
ファンタジー
神様の手違いで死んだ少女は、異世界のとある村で転生した。
神様から貰ったスキルで今世はのんびりと過ごすんだ!
しかし番を探しに訪れた第2王子に、番認定をされて……。
異世界転生は、0歳からがいいよね
八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。
神様からのギフト(チート能力)で無双します。
初めてなので誤字があったらすいません。
自由気ままに投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる