Ｆと愉快な仲間たち

１２月２３日

　最終日、この日は病院から外出の許可が出たので、２人で街に出かける事にした。昨日の対戦でＤと接戦だったので、こっそり必要なカードを買い足して度肝を抜いてやろうという魂胆だ。オレ達は病院で昼食をとり、街へと出かけた。
　街に着いて、真っ先にカードショップへ向かった。途中で休憩を挟みながら、楽しく話をしながら。ショップに着いてからはショーケースに並ぶカードを食い入るように見て、ああでもない、こうでもないと吟味していった。Ｆはずっと楽しそうに笑っていた。
　スロットを打ちたいというＦの希望があって、次は駅前のゲーセンに行く事にした。オレも隣でやっていたが、最後まで何が楽しいかわからないままだった。しかし、Ｆは満足そうにしてたので問題はなかった。
　夕方まで遊んだオレ達は、遅くなる前に病院に向けて出発した。病院への帰り道、Ｆは最近受けた診断について話した。
「医者がの、胸のレントゲン写真をオレに見せて、肺に転移しとると言うんや。たしかに、もやもやしとるもんは見えるが、オレは違うと思うんよ。もやもやもただの模様に見えるし、第一、そんなに早く転移するもんやとは思わん。」
　まただ。また、背筋がゾクリとした。Ｆはまだ２０代だ、癌の進行は早いし、医師も胸の写真は見慣れているはずだ。多臓器転移、Ｆの癌はもう、ステージ４になっていた。ヘタに医療の知識がある分、それがどれほどのものなのかがすぐにわかった。
　そして、当たり前ではあるが、Ｆはそれを受容できていなかった。
　「そうか、そうやな。」
　これがその時にできた、精一杯の返答だった。

　病院でＦとおばさんに別れを言って、空港へ急ぎ、羽田行きの最終便の飛行機に乗った。

　羽田空港に着いてまず、Ｆにメッセージを送った。
　内容はこうだ。
　本当は直接言いたかったが、自分が普通でいられる自信がなかったこと。
　歳をとって、何も縛られるものがない中で、仲間達と残された時間を自由に使うのが夢だということ。
　そのためには誰も欠けてはならないということ。
　お前のいない世界なんて、怖くて考えられないということ。
　生きることを諦めないでくれということ。
　愛してるということ。


　Ｆから返信が来た。
　オレも同じことを考えていた。歳をとってお前らと一緒にアホなことをやったり、バカな話をしたい。
　オレはまだやることがある、絶対に死なない。お前達と笑っていたい。
　会う機会が少なくとも、仲間は仲間だ。
　オレも愛している。


　家に帰り着いたオレは、大声を出して泣いた。何であいつが、何であいつなんだと、泣きじゃくった。今まで我慢していたものが全て溢れ出した。妻はそんなオレを、優しく抱きしめ、オレの涙が枯れるのを何も言わずにずっと待ってくれた。

　泣き止んだオレは妻に、Ｆの状態と、今後、この件が落ち着くまでは全てをＦに注ぎたい事を伝えた。妻は、私もきっとそうする、後悔しないようにね、と笑ってくれた。




　正月にＦから年賀状が届いた。ぐにゃぐにゃに震えた字で、力強く、

「また会おう、愛してるぜ」

　と書いてあった。その年賀状は今でも大切に飾ってある。